素直ではない、立ち直りが遅い子どもにどう対応すればいいのでしょうか(写真:miya227 / PIXTA)

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小4の娘のことで相談します。小3まで算数だけ塾に通っておりましたので計算はできますが、国語の読解や算数の文章題、図形、単位などは勘で解いている状態です。小3の問題で難易度も標準レベルの問題ですが、計算の過程を図や文章で書きなさいというと、手が止まってしまいます。国語においては、適当に読んで適当に答えるという言葉がぴったりで、直しを指示しても4、5回でやっと正解になるありさまです。
正答することにこだわっており、見ていないところで答えを写すことも多々あります。わからない、できないということを人に知られたくないと思っているようで、素直に聞こうとしません。また立ち直りもたいへん遅いです。プライドが高いとあまりよいとは思えないのですが、どのように声かけしていけばいいでしょうか。
(仮名:玉木さん)

プライドの問題ではありません


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お子さん、結構つらそうですね。「どのように声かけしていけばいいでしょうか」ということですが、この種の問題は、声かけでは解決はしません。また、ご質問から察するに、お子さんは素直ではなく、プライドが高いことに原因があるように一見思えますが、実は、問題の本質は、まったく別のところにあります。

では、どこに問題があるかみていきましょう。

現在小4の娘さんは、国語は勘で解く、算数の計算はできるが、文章題はできないという状況で、それに対して、お母さんは、「○○しなさい」と指示をしています。

ここにまず大きな問題があります。本来、「勉強は、やりたいという気持ち、知りたいという気持ちを作ってからやる」が大原則であるため、その逆の「○○しなさい」という指示があればあるほど、ますます勉強が嫌いになるという傾向があるのです。

さらに、親の言うとおりにやったとして、親の期待レベルに達しないと怒られると思っているため、子どもは「見ていないところで答えを写し怒られないようにする」という“作業”に出てしまうことすらあります。ちょうど、指示ばかり出し、怒りっぽい上司の下で働く部下が、マイナスの報告をしなくなることによく似ています。

一般に、強制されたことに対して人は、意識的、無意識的にその逆の行動を取るのです。もしその反作用がないように見えるとしたら、その人の心の中に、ストレスが蓄積されている可能性があります。ですから、玉木さんのお子さんは、心の中にストレスをためないように「素直に聞かない」「怒られないように答えを写す」という態度に出ているのです。

要するに、「子どもの対応が正しい」ということなのです。ストレスをためるとろくなことはありませんから。

このような話を聞くと、「素直でないことや、答えを写すことが正しいのですか」と思いますよね。でもよく考えましょう。「なぜ、素直でなくなっているのか?」「なぜ、答えを写すようになってしまったのか?」それはプライドの問題ではないのです。もしプライドの問題と思うのであれば、こう考えてみましょう。「なぜ、プライドを高くしなければならないようになってしまったのか?」。

これらの回答を簡潔に答えるとこういうことになります。

「親のこれまでのアプローチが正しくなかった」

でも、ショックを受けることはありません。ショックが強いと今度は親がストレスになってしまいますから。もしそれに気づくことができたならば、今から変えればいいのです。教育に手遅れはありません。気づいたときから変えていけばいいのです。

お子さんが変化していく2つのステップ

では、具体的にどのように対応すればいいか、次にお話ししましょう。取るべき対応は、たった2つのステップだけです。

【ステップ1】「できる、簡単」と思える学年までさかのぼる

現在の小4の問題でできないのであれば、小3、小2とさかのぼっていきます。「絶対にできるし簡単!」という段階までさかのぼります。図形が苦手なのであれば、図形関係の問題だけをさかのぼり、簡単な問題をこなしていきます。するとどういうことが起こるかというと、「図形=簡単→面白い→好き」という構造変化が起こります。このことを「自己効力感が高まる」といいます。

簡単な問題だからできて当たり前と言ってはいけません。もし簡単だからできると言ってしまうと、「簡単な図形=できる、簡単ではない図形=できない」となってしまいます。あくまでも「図形=簡単」という意識の構造変化をさせるためにやっている作業なのです。お子さんは、これまでの過程で「図形=できない→面白くない→嫌い」という構造がしっかりと根付いているので、それを変えていきましょう。そしてボトムライン(絶対できる問題)がわかったら、徐々に引き上げていきます。すると「図形=できる」という意識を持っているので、挑戦する気持ちが出てきて、先に進める可能性が高まります。

【ステップ2】子どもの理解力を圧倒的に高めるコミュニケーション方法をとる

コミュニケーションがうまくいかないということで、悩んでいる人はたくさんいますね。企業でも、家庭でも、学校でも。それにはある理由があるのです。たった1つの理由というわけではないでしょうが、筆者は次の理由が最も大きいと思っています。それは「話がほとんど伝わっていない」ということです。

「話し手」と「聞き手」がいるとします。「話し手」が非常に上手に話をして、話がわかりやすい人であった場合でも、そのひとの言いたいことは、「聞き手」には最大でも80%ぐらいしか伝わっていません。話のプロでも80%が限界でしょう。

次に「聞き手」の能力が非常に高く、理解力抜群、語彙レベルも高く、一を聞いて十を知るレベルであったとしても、「話し手」の言いたいことの理解度はよくて80%程度でしょう。これも高水準です。

ということは、この高水準の2人がコミュニケーションをとると話の内容や言いたいことが80%伝わるかといえば、そうではありません。

“掛け算”、つまり、80%×80%=64%程度になっているのです(なお、数字は大体のイメージです)。

最高水準の2人でこのレベルですから、もし「話し手」が普通レベルで50%、「聞き手」も普通で50%であれば、25%しか伝わっていないということです。

伝わることといえば、相手は機嫌がいいとか、怒っているとか、顔の特徴や声のトーンばかりだったりします。これらはかなり正確に伝わりますが、話の主旨や内容は実は大して伝わりません。

100%近くまで伝える方法がある

これが、上下関係のある2人であれば、どうでしょう。つまり、上司と部下、先生と生徒、親と子であれば、上からの話の内容がわからなくても、下の立場の人は上の立場の人へ確認を取るということは一般的にしません。つまり、一方通行型の伝達で終わってしまうため、コミュニケーションになっていないのです。

しかし、この伝えたいことの減衰を止め、さらに100%近くまで伝える方法があるのです。

それは、「聞き手に、話し手が言った内容を、再度、自分の言葉で言わせること」です。

たとえば、親が子どもに、説明し終わったら、親は「わかった?」と聞きますね。すると子どもは大抵「うん」と言います。ここで親は、わかったと信じ、次に進めてしまうことがあります。しかし実際、子どもはわかっていないことが多いため、後で悲劇がやってきます。

ではこの場合どうすればいいかというと、親はさらにこのように聞くといいでしょう。

「わかった? そう、じゃ、自分の言葉で説明してみて」


これで相手の理解度が確認できます。これは上の立場の人がしないといけないことなのです。積極的な子どもや部下であれば、下の立場でも、わからなければ自分から言うかもしれません。しかしそれはまれなケースです。ですから、相手の理解度を上げるために、親や上司が確認をするといいでしょう。慣れてくれば、聞き手の顔を見ただけで理解度がどのくらいかわかるようになります。

以上の2つのステップを試してみてください。お子さんが変化していくことに驚くことと思います。玉木さんのお子さんの問題が、「単純に素直ではない、立ち直りが遅い」というパーソナリティの問題ではないということがきっとわかるはずです。