「”ロシアワールドカップに向けてチームを成熟させる”という狙いだろう。日本のメンバーは試験的に入れ替わっていたが、4-2-3-1というフォーメーションは変わらず、それぞれのポジションに託された役割も変わっていない」

 ミケル・エチャリはそう言って、ニュージーランド戦の分析を切り出した。

 エチャリはスペインの古豪レアル・ソシエダで約20年間にわたり、強化、育成、分析とあらゆるポストを歴任。レアル・ソシエダBの監督として、ハビエル・デ・ペドロ、アグスティン・アランサバルなど多くのスペイン代表を育てている。他にもエイバルで監督として指揮を執り、アラベスではテクニカルディレクター、指導者養成学校の教授も経験。慧眼(けいがん)で知られ、その分析から「ミスター・パーフェクト」の異名を誇る。

「攻め寄せるのは悪くないが、危機管理が不足している場面が見られた。センターバック2人が孤立。もっと高いレベルになれば、何度かカウンターを浴びてもおかしくない」

 エチャリは目を光らせた。ロシアW杯に向け、「リスクマネジメント」はひとつのテーマになりそうだ。


山口蛍は積極的に攻撃参加したものの、守備でバランスを崩す場面も見られた

「ニュージーランドは最初、3-3-2-2のような布陣だった。中央部の守りを固めながら、2トップを生かす戦い方だろう。しかし日本の攻撃圧力が強かったことで、防戦一方になってしまう。

 日本はボランチの山口蛍が積極的に攻撃参加。序盤、武藤嘉紀へ送ったロングボールの質は高かった。山口は中央部から崩そうと前線に近づき、ミドルシュートも放ち、ニュージーランドを脅かしている。

 しかし、中央で山口、井手口陽介というボランチが同時に動くことで、チームのバランスは偏っていた。中央から無理押しで攻めるのは得策ではない。ダブルボランチというのは攻守のバランスを重んじ、サイドバックの攻撃参加を促すプレーが本筋である。長友佑都、酒井宏樹を動かすことで、日本はもっと有効な攻撃ができるだろう」

 エチャリはボランチが自ら動き回ることで守備の綻(ほころ)びを作るよりも、周りを動かすことによって潤滑な攻撃を促し、攻守の両輪となることを求めた。

「そもそも中盤の2人が八方に動き回ることで、カウンターの脅威にさらされている(この点で長谷部誠は気が利いている)。例えば前半29分、槙野智章がカットしたボールは相手に再びカットされ、ディフェンスラインの裏を狙われている。吉田麻也は逆を取られ、ターンで遅れ、走り負けた。このとき、ボランチもサイドバックも前に出ていたことで、数的同数を作られてしまった。相手FWのレベルが高かったら……推して知るべしだ」

 ボランチがポジションを明け渡すことで、強固とは言えないバックラインは相手の攻撃に晒されてしまう。結局のところ、中盤の慌ただしさが攻守の不安定さを生じさせている、とエチャリは読み解く。一方的に攻めていたのに、突如として流れを失ってしまう理由だ。

 後半、日本は相手エリア近くで酒井、大迫勇也、久保裕也が絡み、持ち上がった山口がシュートを放っている。これがエリア内のディフェンスの腕に当たりPKを獲得。50分、大迫がこれを落ち着いた様子で決めた。

 ところが59分、左サイドで井手口、長友という2人の選手が1人のアタッカーに翻弄されてしまう。易々とクロスを上げられ、相手FWにヘディングで叩き込まれた。このとき、酒井と吉田の間に入り込まれていた。

「守備の脆さは、リスクマネジメントの問題だろう。攻撃能力の高い選手はいるし、意識の高さは感じる。しかし8人の選手が攻めに転じ、センターバックが孤立している場面があった」

 エチャリはそう言って、ひとつの提言をしている。

「ハリルホジッチ監督は杉本健勇、小林祐希を投入。さらに左サイドに乾貴士を入れ、優勢を取り戻している。乾が左サイドでボールを持ち、長友が攻撃に加わるようになって、一方的にニュージーランドを押し込んだ。

 しかしあえて言えば、まだサイドからの攻撃の厚みが足りない。敵は5-4-1のような布陣に切り替え、人海戦術で中央を固めていただけに、中よりもサイドを深く切り崩せるように、サイドバックを上げるべきだろう。その代わり、ボランチ2人はカウンターに備えるポジションを取るべきだ」

 エチャリは交代で出た2人の選手を評価し、ロシアW杯に向けた強化試合を総括している。

「小林はボールを動かすことでチームの攻撃をスムーズにしていた。また、乾は左サイドに深みを作った。事実、88分の日本の得点は乾が左サイドを崩し、ファーポストに上げたクロスを酒井がヘディングで折り返し、二列目から飛び込んだ倉田秋が詰めたものだ。

 ニュージーランドのように守りを固めた相手と戦うのは簡単ではないが、W杯本大会ではそうした時間帯が巡ってくる(ブラジルW杯のギリシャ戦の後半のように)。その意味では、得点を取って勝ったことは収穫だろう。得点シーンは左サイドをえぐり、逆サイドまで酒井が上がって、”外から揺さぶって攻めた”理想形だった。
 
 しかし、繰り返すが、攻撃しているときに自分たちのスペースをもう少し把握しておくべきだ。ボランチは(自ら攻撃するよりも)サイドの選手を動かすことで、必ず打撃を与えられる。自分たちが動きすぎると、相手に隙を与えることになる。最悪、センターバック2人+ボランチ2人の4人がいれば相手の逆襲には対応できる。しかしセンターバックが孤立するようでは、相手にスピードに乗られ、なす術(すべ)はない」

 エチャリが指摘した守備の拙(つたな)さは、次のハイチ戦で浮き彫りになる。

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