「人事は発見と選択」と言っても過言ではない

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 企業に対し、「社会貢献」「社会的責任」が求められて久しい。投資家たちも、就職先を選ぶ学生たちも、「この会社はどんな社会貢献ができるのか」といった視点で企業を見るようになった。しかし、大前研一氏は、「人事への力の入れ方」こそ「良い会社」を判別する指標になると指摘する。
 
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 実際、私がいたマッキンゼーでは、まさに「人材がすべて」という考えで「成長のGRID」と呼ばれる評価システムを厳密に運営していた。

 だが、そういうことをやっている日本企業は、ほとんどない。リクルートはかつて「実質的な38歳定年制」と呼ばれた極端な制度で独立心や起業家マインドなどを鼓舞していることで知られているが、その他の企業となると、私の知る限り、インターネット広告・メディア・ゲーム事業で知られる「サイバーエージェント」くらいである。

 同社は創業20年足らずで売上高が約3100億円(2016年9月決算)に達しているが、その成長の大きな原動力は人事と企業戦略を綿密に結び付けていることだ。

 たとえば、同社には「新卒社長」という制度がある。新卒で入社した社員の中から将来有望だと判断した人材を、非常に早く(最短は採用内定時点で)子会社の社長=イントラプレナー(社内起業家)に抜擢しているのだ。

 本稿執筆時点で新卒社長は累計51人に達し、連結子会社97社のうち22社を新卒社長の会社が占めている。

 そして、優秀な人材は20〜30代の若いうちから「CA8(シーエーエイト)」と呼ばれる8人の取締役、「CA18(シーエーエイティーン)」と呼ばれる18人の幹部に抜擢される。

 つまり、これらの制度によってサイバーエージェントは続々と新しい事業を生み出すとともに優秀な人材を見いだすことができているのだ。人事が成長戦略に直結しているわけで、同社は21世紀型の「良い会社」の一つだと思う。

 そもそも企業のトップの最も重要な仕事は、5年後、10年後に「こういう会社になっていたい」というビジョンを作り、それを共有して事業を大きくしてくれる人材を「発見」し、「選択」してアサインすることだ。

 よく「人材を育てる」と言うが、リーダーになる人材は簡単に育てられるものではない。それは自分の子供を見ればわかるだろう。どれほど時間やカネを使っても、たいがい親が思っているようには育たない。

 人間には持って生まれたものがあるから、経営者はもともと優れていて入社後も能力を磨いている人材を発見し、その能力を最大限に発揮できる仕事を任せなければならないのだ。「人事は発見と選択」と言っても過言ではない。

 逆に言えば、リーダーになる人材を育てようと思ったら、採用する時に「発見」して「選択」し、入社したその日からリーダーになるためのトレーニングをしなければならない。だから、サイバーエージェントの新卒社長制度は評価に値するのだ。

 社長を務めるということは、人事も経理も企画も営業も広報も自分でやらなければならない。自分の給料も他人の給料も決めなければならない。そうした重責を担う社長業を新入社員の頃から4〜5年もやれば、30歳になる前に本当の社長になれるだけの知識と経験とリーダーシップを身につけることができるのだ。

 21世紀はAIやビッグデータ、IoT(モノのインターネット)の時代だと言われているが、本質的な「良い会社」の条件は、あくまでも優秀な人材を「発見」して「選択」し、その能力を最大限に発揮させる人事制度があるかどうか、なのだ。人事部が有名大学の卒業生を大量に採ってきたと自慢しているようでは、“尖った個人”が新しい領地を開拓する21世紀に生き残っていくことはできないだろう。

※SAPIO2017年8月号