ファミマの中食改革を進める本多利範専務執行役員。

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■「スープは80度」で、売り上げ3倍に

ファミリーマートのヒット商品に「チルドラーメン」がある。電子レンジで約5分半加熱すれば、ラーメン専門店で食べるような熱々の美味しいラーメンが食べられると好評で、「スープにコクがある」「麺が美味しい」「新しく○○味も発売してほしい」など、消費者からのコメントも上々だ。2016年10月の段階で、1日約10万個を売り上げる大ヒット商品となっている。このラーメンは、15年に大々的にリニューアル。14年10月の段階では、1日に1店舗約1200円程度の売り上げしかない商品だったが、リニューアル後は4000円強を売り上げる。3倍以上も売り上げを伸ばすのは、コンビニ商品でも異例中の異例だ。

では、具体的にどのような改良を施したのか。ファミリーマートの全商品の品質管理および商品開発を担当する、本多利範専務執行役員に聞いた。

「こだわりのポイントは、もうすべてですよ(笑)。スープ、麺、チャーシュー。特に温度にこだわりました。ラーメン専門店のラーメンは大体80度くらいで出てきますが、コンビニのラーメンはせいぜい70度くらいまでしか温めないという前提がありました。それを専門店と同じく熱々の状態で美味しく食べられるよう、すべてを設計し直したのです」

現在、醤油・味噌・豚骨に加え、「昔ながらの醤油ラーメン」「野菜ちゃんぽん」などが発売されている。スープはもちろん、それぞれのスープに合わせる麺も、小麦の選定、配合から試行錯誤を繰り返したという。

「味噌と醤油系の麺は、外はもっちり、中はしっかりと歯ごたえを感じてもらえるよう3層仕立てに。豚骨は、レンジで温めたときちょうどいい『バリカタ』になるよう工夫しました。おかげで『家庭であの麺が食べられるとは』と好評です。『野菜ちゃんぽん』は、炒めて旨みを引き出した野菜と生野菜を両方トッピングすることで、レンジ加熱後も野菜の食感を楽しんでいただける仕上がりになっています」(本多氏)

子育て中の筆者もこのラーメンの虜になった一人。小さい子ども連れや女性一人ではラーメン店に入りづらいもの。コンビニでいつでもこのレベルのラーメンが買えるのはありがたい。

さらに、かつての主力コンビニ利用層以外のニーズにも着目し、「女性に食べやすいラーメン」も開発した。

「たとえば会社勤めの女性など、職場でコンビニラーメンをすするのに抵抗がある人もいます。そこで、女性の手にも持ちやすい小型のパッケージを開発し、野菜を多くトッピングしたヘルシーなラーメンをつくりました。スープは低脂肪の豆乳をベースにし、麺の量も従来の3分の2と少量」(同)

女性向けに開発された「Vege白湯」はタンメン、担々麺、トマト鍋とシリーズ化され、リピーターも多い。

このように売り上げ好調なファミマのラーメンだが、実は今回、冬バージョンが店頭に並ぶという。膨大な商品数を抱えるコンビニで、すでに大いに売れている商品をなぜわざわざ改良するのだろうか。

「人間は、気温、天候、季節によって味覚が変わる生き物です。気温の高い夏には、さっぱりした冷やし中華が食べたくなる。気温が低い秋や冬には、しっかりした味のものが食べたくなる。だから、今あるラーメンを冬バージョンに改良するのは必要なことなんです。冬バージョンはスープガラにこだわり、濃厚な旨みで味に深みを出し、寒い時期にピッタリの味わいに仕上げました。

売れない商品を見直すのは当然のことで、誰だってやっています。でも、売れている商品に対しては『売れているから大丈夫』と油断しやすい。でも実は、もっともよく売れるものこそ、細心の注意をはらって改良していく必要があります。売れているということは、多くのファンがついているということだからです。私たちは、多頻度で食べられている商品にこそ敏感にならなくてはいけない。せっかくのファンに飽きられてはいけないんです。

何度食べても『おっ?』と新鮮な驚きと喜びを感じてもらえなければ、私たちの仕事は成り立ちません」(同)

(三浦愛美=文 原 貴彦=撮影)