「マイアミの奇跡」から20年 伊東輝悦41歳が現役であり続ける理由

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2月18日、都内で開催されたJリーグプレスカンファレンスで、1人の選手の前に多くの報道陣が列を作った。

Jリーグはプレスカンファレンスで全チーム揃って報道陣へのお披露目、ゼロックススーパーカップでのリーグ前哨戦、そして開幕戦という流れでシーズンをスタートする。

プレスカンファレンスにはJ1からJ3まで、各チーム1人ずつ選手が登場した。多くの人を引きつけていたのは、一番下のカテゴリーであるJ3で今年ブラウブリッツ秋田に移籍した、伊東輝悦。1998年、フランスワールドカップのメンバーだった選手だ。

残念ながらフランスでの出番はなかった。その後もケガでワールドカップを日韓大会を棒に振るなど運には恵まれなかった。その代わり、1996年、「マイアミの奇跡」で知られる、オリンピックで日本がブラジルを破ったとき決勝点を挙げた選手としてはいつまでも名前が出てくる。

現役24年目、すべてのカテゴリーを経験し、41歳になった。知り合いも多い。飾り気のない性格がみんなから好かれているからだろう。たくさんの人が一言話そうとずっと待っていた。そしてもしかすると、並んでいた人たちは伊東が今年現役を続けていることを想像していなかったかもしれない。

2011年、Jリーグスタート年に加入した清水エスパルスからヴァンフォーレ甲府に移籍。J2の甲府がJ1に昇格するのを手伝ったが、J1では出場時間が激減し、2014年にはAC長野パルセイロに移籍した。2015年は出場も3試合に激減し、いよいよ鉄人も40歳で苦しくなってきたか。

だが、伊東はまだ現役を続ける道を選んだ。やっと巡ってきた質問の順番で、単刀直入に聞いてみた。

――よく現役を続けようという決心をしましたね。

その質問を聞いた伊東は、一瞬きょとんとした顔をした。何を聞かれたのか、一生懸命理解しようとしている感じだった。そして不思議そうに答える。

「いやぁ、別に決心とかいらないですよ。まだ現役続けたいと思っていたし、プレーするのおもしろいし。でも、プレーする場所がなければ、続けようにも続けられないし。その中で秋田から話をもらったので、うれしいの一言でした」

「去年から止めようなんてなんて思ったことはなかったな……。チームがなければ仕方がないと思ってたけど、どっかはあるだろうと思ってましたし。だから止める気はなかったかな。たぶん」

たぶん、と付けたのは、照れだろう。現役を続けられる自信はあったはずだ。その証拠に目はまだギラギラしている。

――いくつまでプレーしたい?

「えー、そんなの全然思ってないです。選手として需要があれば、やりたいなぁ、と思ってるんですけど」

――静岡に帰って指導者を目指すよりも……。

「今のところ。今に限って言えば、やっぱりボールを蹴っているほうが楽しいんですよ」

そう言うと、伊東は「はははは」と屈託なく笑った。

この影のない明るさは清水時代から変わらない。そして伊東のサッカーに関する情熱も、同じように変わっていないのだろう。「鉄人」の上のランクの言葉をそろそろ用意したほうがいいかもしれない。

【日本蹴球合同会社/森雅史】