創英角ポップ体が使われているJR目黒駅の手作り乗り換え案内(2015年、吉田メグミ撮影)。

写真拡大

スマートフォンが普及し、手のひら上で詳細な乗り換え案内を表示できるようになっても、乗り換えや出口のチョイスなど、慣れない駅での「地理」案内には、まだまだ昔ながらの案内掲示が有効なようです。またそこでよく使われるフォントも、効果を発揮しているかもしれません。

試行錯誤されている駅の手作り掲示

 鉄道会社ごとにデザインが統一されている、駅の案内板やサイン。しかしそこへ割りこむように、駅スタッフの手作りと思われる案内が掲示されているのもまた、よくある駅の風景です。

 手作り掲示物は大抵の場合、「Microsoft Word」などの簡単な作図機能を使って作成されています。また紙の劣化対策としてラミネート加工が施されていることも多いほか、接着しづらいパイプや柱、壁に透明のプラスチックテープでベタベタと貼らざるを得ないこともよくあるようで、既存サインボードの洗練度とは比べるべくもありません。では、なぜ各駅に駅スタッフによる手作りの掲示が存在するのでしょうか。

「JR目黒駅では、東急目黒線や東京メトロ南北線、都営三田線への乗り換えに関する駅員への質問が多かったために、昨年の秋頃から構内に手作りの掲示を貼り始めました。掲示の内容や位置は毎月変えています。掲示物を貼ってから、お客さまから駅員への質問の数がどう変化したか、各改札の利用の割合がどう変化したかなどのデータを取り、比較しながらメッセージの書き方、貼る位置などに工夫をしています。現在では以前に比べて、質問されるお客さまの数は減ってきました」(JR東日本、目黒駅長)

 掲示物を貼るか貼らないかは、各駅の裁量に任されています。いわば、駅員の努力とセンスの見せどころ。完成された建築物として駅を見た時にはジャマとも思える「手作りサイン」ですが、そこには各駅の鉄道マンたちの、お客さまに少しでも便利に駅を利用してほしいという思いが込められているのです。

「ダサい」と言われるフォントが駅で効果的なワケ

 そんな「駅の掲示物」に多用されているのが、「創英角ポップ体」というフォントです。これは「Microsoft Word」に標準で付属しているもので、(株)創英企画のオリジナル日本語フォントです。

 ただ最近ネット上などでは、この創英角ポップ体が「ダサい」と話題になったりもしています。しかし駅の手作り掲示物として見ると、これがぜんぜんダサくない、むしろしっくりくる、効果的という意見もあるようです。

「当社が1991(平成3)年に日本で初めて『ポップ体』を作りました。元になった文字のデザインをしたのはデザイナーの水本恵子さんです。『ポップ』とは『Point Of Purchase』の頭文字を取ったもの。スーパーマーケットやデパートなどの『POP』に使いやすい、ちょっと丸みがあってくだけた、ポピュラーなかわいさのある、親しみやすい字体として作ったものです(創英企画フォント担当者)」

「Purchase」は「購入」「買う」といった意味。たくさんのモノを売る量販店で、パッと目を引くように作られた創英角ポップ体だから、情報のたいへん多い駅の構内でもパッと人の目を引く、とも考えられます。またこのフォントの持つ親しみやすさが、駅員さんが直接説明してくれるような距離感の手作り掲示物に、よく馴染むのかもしれません。