もう三十数年以上も前の話だが、西武園競輪に出かけると必ず見かける、怪しい風体の老人がいた。仲間内では「死神」「疫病神」と呼んでいた。その老人の髪はボサボサで、髭は無造作に伸び、虚ろな目に度の強そうな黒縁の眼鏡をかけている。夏でも汚れた黒いコートを着て、背中を丸めて場内をウロついていた。ただ、薄汚れてはいるが、黒ずくめの姿にはどこかインテリ風な品の良さがあった。オンボロは世を忍ぶ仮の姿か…。老