疲労回復、滋養強壮には今も昔も甘い物?

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【ほぼ週刊艦これ通信】

 原作ゲームでは3月頭現在、端午の節句にちなんで特殊なアイテム「菱餅」が期間限定でドロップ可能。アニメ版では戦艦『大和』が、気配りの行き届いた食事を仲間たちに用意するなど、食べ物にまつわるイベントも多い『艦隊これくしょん -艦これ-』。

 先日までは秋葉原にて、登場キャラクター=艦娘にちなんだメニューを提供するコラボ喫茶「間宮」も運営されていた。

ホテル並の食事はいい仕事に必須?

 大海原を行く軍艦乗りにとって、食事は何よりも楽しみ。何しろ艦内や前線では娯楽も少なく、それでいて任務は緊張を強いられるものばかり。

『大和』のような大戦艦に乗り込む、艦隊司令部の要員や指揮官クラスの高級士官ともなると、停泊中は軍楽隊の演奏付きでフルコースが提供されたとも伝えられる。

 優雅な慣習だが、戦闘の合間に握り飯を頬張るのが精一杯だった駆逐艦の乗組員などからは、相当やっかまれたのだろう。『大和』は広くて居住性にも優れていたことなどから、「大和ホテル」という有り難くないあだ名を頂戴したという。それだけ、居心地も食事も上質だった、という意味なのだろうけれど……。

「お疲れ様です、給糧艦『間宮』です。甘い物でもいかがですか?」

 とにかく軍艦の乗員は、その士気と体力=戦闘力を維持するために、よく食べる。1日3度の食事+夜食を、1隻につき数百から数千の乗員が摂るのだから、当然各艦の食料庫だけではすぐ底をつく。生鮮食料品の確保は、栄養不足に陥りがちな航海において必須。しかし軍港や泊地も、備蓄した物資から各艦に補給はできても、生産能力は乏しい。

 そこで本土や産地から各基地へと物資──とりわけ食料品を輸送する「給糧艦」が必要となる。

 旧日本海軍初の給糧艦が、大正13年(1924)年7月15日に竣工した『間宮』。昭和16年(1941年)に同じく給糧艦の『伊良湖』が竣工するまで、平時とはいえ連合艦隊の糧食は『間宮』が一手に担っていたようだ。

 何しろ『間宮』は1万8千人の食料3週間分、『伊良湖』でも2万5千人の2週間分を貯蔵できたとされる。新鮮な肉や野菜だけでなく、モナカや饅頭、ラムネ、アイスクリームや羊羹といった甘味を、艦内の専用工場で独自に生産して振る舞ったという。

 特に『間宮』の甘味は、内地の高級和菓子店にも負けず劣らずの逸品だったとか。それだけに、彼女が撃沈されたときには、さぞショックだったろう。なお『間宮』を沈めたのは、『金剛』に止めを刺したのと同じ米潜水艦『シーライオン』と記録されている。

「お疲れ様です、給糧艦『伊良湖』です。おいしいモナカ、いかがですか?」

 『艦これ』における『間宮』と『伊良湖』は、敵と戦うユニットとしてではなく、疲労回復アイテムの一種として登場。艦娘たちに元気を取り戻させるとともに、甘い声でユーザー=提督たちの心も癒してくれる。

 腹が減っては戦はできぬ。仕事も遊びも、根を詰めすぎると身体を壊すし、判断力も鈍って失敗する。ときには、お茶と和菓子で一服してみるのも必要。かつて『間宮』や『伊良湖』で、国を守ろうとした人々がひとときの憩いを得たように。

(取材・文/秋月ひろ)