アテネ市内の様子(Photo by Bernard Kong)

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 2月20日、欧州連合(EU)は、ベルギーのブリュッセルで臨時のユーロ圏財務相会合を開き、2月末に期限が到来するギリシャ向けの金融支援を4カ月間延長することで合意した。支援打ち切りになれば、ギリシャは債務不履行(デフォルト)を引き起こす恐れがあったのだが、ぎりぎりのところで危機は回避された。

 ただ、IMF(国際通貨基金)やEUはギリシャの金融支援を延長する条件として、厳しい緊縮財政策の継続を要請している。反緊縮財政策を掲げるギリシャの新政権がどこまでIMFやEUの意向に沿った緊縮策を実行できるかは不透明なままだ。

 そもそも、ギリシャは2010年にIMFとEUに緊急の金融支援を要請して以来、ずっと緊縮財政策に取り組んできたはずであった。歳出を削減すべく、公務員のリストラや公務員の給料の減額、あるいは年金の支給開始年齢の引き上げや年金支給額の引き下げなどを実施した。また、歳出の削減だけでは財政再建が難しいので、歳入を増やすべく、大幅な増税も実施した。

 このように厳しい緊縮財政政策をとってきたにもかかわらず、ギリシャの財政・債務問題が一向に改善しないのは一体なぜだろうか。様々な理由が考えられるが、ひとつの大きな要因として、ギリシャが地下経済(脱税や犯罪など公式統計には現れない隠れた経済活動)大国であることが挙げられるだろう。

 ギリシャの地下経済の名目GDP(国内総生産)に対する比率は、2012年時点で24.3%に上る(F.シュナイダーの推計)。ちなみに、日本の地下経済がどうなっているかといえば、私の推計では名目GDPに対する比率で4.0%程度だから、読者のみなさんもギリシャの地下経済がいかに大きいかが実感できるかと思う。

 地下経済は税金の支払いを免れている隠れた経済活動なので、当然、地下経済が大きければ、それだけ政府が受け取る税収は少なくなる。しかも、ギリシャ政府はリーマン・ショック後の世界同時不況に直面して、景気を下支えるために巨額の財政支出を行った。地下経済のおかげで歳入がなかなか増えないうえ、政府の支出がどっと増えたために、財政赤字が一気に無視できないほどの規模に膨らんでしまったのだ。

 そのうえ、ギリシャはもともと地下経済の大きい国なので、増税や新税創設で税収アップを図ろうとしてもその効果は弱い。というのも、政府が税収を増やすために税率を上げても、それまでまじめに働いてきた人たちの税負担が一段と重くなるだけで、地下経済からの税収の増加は期待できないからだ。

タバコ増税で密造が横行し400億円もの税収ロスに

 むしろ増税することで、逆に税金の支払いを免れようと地下経済の世界に飛び込む人が増えて地下経済がさらに肥大化する可能性もある。

 実際に、そのような動きは出てきている。たとえば、ギリシャ政府は、増税策の一環として2010年からタバコ税の税率を大幅に引き上げるようになった。しかし、タバコ税を引き上げてから密造・密輸タバコがギリシャ国内でひそかに流通するようになっており、それによって年間4億ユーロ(約411億円)もの税収ロスが生じている。つまり、タバコ税収は本来得られるはずの金額よりも11%ぐらい過少になっているということだ。

 結局、ギリシャのように地下経済の大きい国が、財政再建のために増税を強行すると、まっとうに働いている人たちの税負担だけがどんどん重くなり、最終的には重い税負担に耐えかねて、まっとうに働いている人たちも地下経済の世界に飛び込んでくるようになる。すると、地下経済がさらに拡大すると同時に課税ベースが縮小して、ますます政府は税収を上げにくくなってしまう……こうした悪循環に陥りやすい経済構造になっているのだ。

 ギリシャに限らず、いわゆる「PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)」のグループは、いずれも地下経済が大きい国ばかりなので、構造的に財政再建が進みづらい。

 こうしたギリシャの経済構造を踏まえると、どうあがいても債務を完済することは難しいと考えられる。今回の金融支援延長合意で、ひとまずギリシャの債務不履行やユーロ圏離脱という最悪の事態は回避され、金融マーケットには安心感が広がっている。しかし、これは問題を先送りしたにすぎない。

 今後は、おそらくギリシャの債務の返済期限が近づくたびに、債務の再編が議論され、金融マーケットが動揺するといったことの繰り返しになるだろう。目先では、国債の大量償還を迎える7〜8月に、ギリシャの債務不履行の懸念が再度意識されるようになるとみられる。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

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