日本は後半、明らかな劣勢に立たされた。今大会のなかで、最も長く危険な時間帯が続いたと言えるだろう。理由はふたつ。サウジが、決勝までの戦いのなかで構築したMFアルメシャルを前線に入れて、左サイドにアルシャルフーブを入れるオプションシステムに切り替えたことと、副審を含めたレフェリーが正気を失ってしまったことだった。
 
 ロングボール対策の生命線だったオフサイドトラップを軒並み流されたことで、日本は幾度となく窮地を迎える。46、47、54分と立て続けにサウジが決定機を掴んだ。57分にはペナルティーエリア内で後方から西澤が倒されるが、笛は鳴らない。サウジのセットプレーではご丁寧にボールを拾ってくれるフセイン主審は、もはやアテにはならなかった。
 
「ほとんどの選手が足がつりそうだった」(明神)
 
「どうも前に(ボール)入れるのが早すぎた。ああいう速い相手には、キープすることもしないとこっちもつらい」(森岡)
 
「いつもと違って時間が気になった」(中村)
 
 緊張の糸が切れかけ、溜まった疲労が選手たちの足を引っ張り始めていたとき、59、62分と川口が2つの致命的なピンチを防ぐ。辛うじて修羅場を凌いだ日本は、反撃する余力はないまでも、ボールへと食らいついていく。
 
 明神が身体を張り、名波がスライディングを仕掛ける。森島はチェイシングでロングボールの出どころを抑えようとし、最終ラインはなおも押し上げを諦めない。身体が動かず前線で基点を作れない2トップも、ディフェンスには走った。
 
 アルテミヤトやアルジャバーのドリブルを起点にサウジもたたみかけてくるが、次第に焦りの色が見え始める。ほんの少し前まで終盤にきて集中力が足りなくなると言われてきた男たちは、ひたすら耐え、戦い続けた。
 
 終盤、何ごとか気づいたようにようやくベンチが動く。しかし、柳沢の起用に関して「私のチョイスが間違っていた」という指揮官は、すぐに彼を下げて、奥と小野を投入した。狙いとしては時間稼ぎといったところか。
 
 そして、長く苦しい90分は終わった――。
 
 選手たちは紛れもない勝利者だった。MVPの名波を筆頭に、選手たちは質の高いサッカーを披露し、アジアではズバ抜けた力を持っていることを証明した。いわゆるオーバーエイジ世代の活躍が際立っていたが、高原、明神、中村、稲本といったシドニー組も疲労をおして力を発揮している。
 
 決勝だけを振り返ってみれば、運もあった。だが、偏ったレフェリングのなかで耐え抜いたのも彼らである。大勝が続いた大会だっただけに、僅差を守りきったこのゲームもまた際立って映る。
 
 おそらく、今大会は2002年への大きなターニングポイントになるだろう。いや、そうならなければならない。シドニー五輪も含めれば、2か月以上も続いたロングランは、最高の形で幕を閉じたのだから。