青色LED濫用の危険性/純丘曜彰 教授博士
/青色LEDで日本人がノーベル賞を取ったと浮かれているが、それはあくまで物理学の中の学術的な業績。生理学的には、青色LEDが網膜損傷や睡眠障害などを引き起こすことも指摘されている。お祭り気分でそれを濫用するのは危険だ。/
1903年、1911年と、二度もノーべル賞を取った人がいる。しかも、女性だ。放射性物質の研究を行ったキュリー夫人。パリ大学初の女性教授でもある。彼女はラジウムの青い光に魅せられ、その治療応用を考えた。だが、彼女の死因は、再生不良性貧血。放射能のせいかどうかはわからないが、彼女の直筆の実験ノートなどは鉛の箱に保管され、防護服になしには見ることもできないほど汚染している。
さて、青色LED。赤と緑と青が揃って光の三原色で云々、などという説明をやっているのを見かけたが、話はそう簡単でもない。光の研究は、ニュートンだの、ゲーテだのの昔からあり、スペクトル分光で均一にすべての波長が揃っているときに白色光になる。最初からバラバラの三原色の混交は、その近似的錯覚にすぎない。いくらLEDで光の三原色を混交しても、スペクトル分析をすると、シアン(水色)に波長の欠けがある。つまり、青色LEDと緑色LEDの発色には隙間がある。これを混交で補おうにも、青のスパークが強く、どうしても色が歪んでしまう。
そもそも、昨今の白色光は、むしろ青色LEDに補色蛍光体を組み合わせて、それらしく見せているのが一般的で、これがもっとも安価。もしくは、もっと波長の短い紫色LEDから三原色蛍光体を使ってスペクトル均一に近い白色光を生み出している。ただし、これは発光効率が悪いので、さらにエネルギーを高くする必要がある。
いずれの方式にしても、青色LEDないし紫色LEDが重要な鍵を握っているのは事実だ。しかし、ここで大きな問題がある。この青色LEDや紫色LEDの光は、紫外線などと同じく、高波長、高エネルギーにもかかわらず、人間の眼ではあまりまぶしく感じない、ということ。物理学的には他のスペクトルを取り出したりするのに好都合なのだが、もともとあまり可視的ではない。だが、可視的ではない、ということは、放射能と同様、存在しないということではない。それどころか、青色や紫色のLEDの持つスペクトルは、不可逆的な網膜損傷を引き起こすことが知られてきている。近年、よく売られているPC用メガネというのは、それに対応したものだ。そうでなくても、これらのLEDの光は、網膜神経節細胞にも影響を与え、睡眠障害などの原因となる危険性がある。
日本人が取ったノーベル賞ということで、今年の冬、クリスマスから新年にかけて、そこら中で青色LEDが濫用されるだろう。だが、ノーベル賞は、あくまで物理学の研究の中でのみの、画期的な第一歩としての評価にすぎない。スペクトル分析を見れば、青色LEDは、物理学的にも、いまだとてつもない異様なスパーク波長を伴っており、それを使ったまばゆいほどの過剰な装飾、それを応用した擬似的な白色光や色の表現が、我々の生活の中で、身体にどんな影響を及ぼすのか、まだまだ生理学的な問題を多く残している。
我々は、学術上の研究に商業的な成果を急ぎすぎている。研究は、しょせんある特定分野での、ほんの一面のみの話。それがいかに大きな応用の可能性を秘めたものであろうと、そのこと自体は、他の分野において害を生じないことまで保証するものではない。すべての光には、闇が伴う。光に浮かれて踊っているうちに、取り返しのつかない闇に取り込まれてしまう。新しいもの好きなのは、わからないでもないが、それを生活に取り込むのは、もうしばらく専門家たちの多分野からの総合的な研究を待った方がよくはないか。それまで、せっかくの冬の日射しだ。おもてに出て、陽の光のありがたさを味わおう。
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)
1903年、1911年と、二度もノーべル賞を取った人がいる。しかも、女性だ。放射性物質の研究を行ったキュリー夫人。パリ大学初の女性教授でもある。彼女はラジウムの青い光に魅せられ、その治療応用を考えた。だが、彼女の死因は、再生不良性貧血。放射能のせいかどうかはわからないが、彼女の直筆の実験ノートなどは鉛の箱に保管され、防護服になしには見ることもできないほど汚染している。
そもそも、昨今の白色光は、むしろ青色LEDに補色蛍光体を組み合わせて、それらしく見せているのが一般的で、これがもっとも安価。もしくは、もっと波長の短い紫色LEDから三原色蛍光体を使ってスペクトル均一に近い白色光を生み出している。ただし、これは発光効率が悪いので、さらにエネルギーを高くする必要がある。
いずれの方式にしても、青色LEDないし紫色LEDが重要な鍵を握っているのは事実だ。しかし、ここで大きな問題がある。この青色LEDや紫色LEDの光は、紫外線などと同じく、高波長、高エネルギーにもかかわらず、人間の眼ではあまりまぶしく感じない、ということ。物理学的には他のスペクトルを取り出したりするのに好都合なのだが、もともとあまり可視的ではない。だが、可視的ではない、ということは、放射能と同様、存在しないということではない。それどころか、青色や紫色のLEDの持つスペクトルは、不可逆的な網膜損傷を引き起こすことが知られてきている。近年、よく売られているPC用メガネというのは、それに対応したものだ。そうでなくても、これらのLEDの光は、網膜神経節細胞にも影響を与え、睡眠障害などの原因となる危険性がある。
日本人が取ったノーベル賞ということで、今年の冬、クリスマスから新年にかけて、そこら中で青色LEDが濫用されるだろう。だが、ノーベル賞は、あくまで物理学の研究の中でのみの、画期的な第一歩としての評価にすぎない。スペクトル分析を見れば、青色LEDは、物理学的にも、いまだとてつもない異様なスパーク波長を伴っており、それを使ったまばゆいほどの過剰な装飾、それを応用した擬似的な白色光や色の表現が、我々の生活の中で、身体にどんな影響を及ぼすのか、まだまだ生理学的な問題を多く残している。
我々は、学術上の研究に商業的な成果を急ぎすぎている。研究は、しょせんある特定分野での、ほんの一面のみの話。それがいかに大きな応用の可能性を秘めたものであろうと、そのこと自体は、他の分野において害を生じないことまで保証するものではない。すべての光には、闇が伴う。光に浮かれて踊っているうちに、取り返しのつかない闇に取り込まれてしまう。新しいもの好きなのは、わからないでもないが、それを生活に取り込むのは、もうしばらく専門家たちの多分野からの総合的な研究を待った方がよくはないか。それまで、せっかくの冬の日射しだ。おもてに出て、陽の光のありがたさを味わおう。
by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)