間接材購買は何故上手くいかないのか。- その1/野町 直弘
10年前と今でやっていることが変わらない間接材購買について述べます。
今回から3週に渡って「間接材購買」について書きます。
「間接材」購買とは、製品に直課されない支出であり企業によっては「経費購買」とか「非生産材」とか「インダイレクト」購買とか表現されることもある支出です。
「間接材」購買は2000年頃から日本企業でも着目され、従来であれば分散購買だったものを集中購買し、専門の調達購買部門を設置することでコスト削減を図る活動が進められてきました。
今回何故このテーマを取り上げたかといいますと、私も間接材購買に関して自身も外資系企業のバイヤーとして携わってきましたし、その後コンサルタントとしても多くのプロジェクトを支援してきましたが、この十数年の総括として、「実は昔も今もやっていることは全く変わっていないのでは。」という印象を感じざるを得なかったからです。
一言で言うと進歩していないのです。
どのように進歩していないのでしょうか、また進歩していない理由は何なんでしょうか。
この話に入る前にまず、ここでは間接材購買についてもう一度ふりかえってみます。2003年9月に発表されている米国調達関連のシンクタンクであるCaps Researchの資料「Critical Issues Report」内でIndirect Spendというテーマの中でこのような記述があります。
「Indirect Spendとは、企業活動を続ける限り発生し続ける間接材の調達コスト。企業支出全体に占める間接材支出の割合は、製造業で36%、サービス業で60%にも及ぶという調査結果も出ています。しかも、コスト削減が着実に進展している直接材に対し、間接材の調達コストについては、多くの企業が有効な解決策を見出せないまま、というのが現状です。この間接調達コストの見直しこそ、総コスト削減の大きなカギとなっています。」
このレポートにもあるように支出全体に占める間接材購買の比率は低くありません。また品目も多岐に渡ります。大きく分けると物品とサービスに分けられます。物品は事務用品からパソコン、サーバーなどのITハードウエア、工具や様々な消耗品、理化学用品、試薬から燃料、設備に至るまで様々です。サービスは物品以上に多様な品目があります。建設工事や運送、ファシリティ関連費用、不動産賃貸、印刷費用、通信費、広告宣伝費、システム開発、コンサルティング費用、調査費用などの業務委託費用、人材派遣費用、通信費、リース費用などです。
間接材購買の特徴は大きく2つ上げられます。1点目は支出の把握がし難いことです。
間接材は管理会計上では固定費に含まれますが、まれに生産高や売上高などに応じて発生する変動費用的な支出もあります。また財務諸表上は製造原価、販売管理費、償却費の3つの部分に含まれており、全体像の把握が難しいという特徴があります。
また直接材と異なり、品番という概念がありません。ですから必要量の管理もできませんし単価とか原単位という概念もありません。つまり精度の高い管理がし難いのです。
2点目の特徴は関連する人(会社)の多さです。先ほども触れたように間接材は非常に多岐に渡るため、支出金額や買いモノをする回数も品目毎に大きく異なります。
また多岐に渡る品目のため、多くのサプライヤとの取引が発生しています。また社内で実際に支出を行う人間も多岐に渡るのが一般的です。品目によっては例えば事務用品など社員全員が支出をする場合もあります。所謂社員全員がユーザーになり得るのです。
このような2つの特性を持つために、間接材購買は今まで企業が管理してきた直接材購買とは異なったアプローチが必要になります。
やっと本題に入りますが、10年前と比べて間接材購買は進歩がない、と述べましたがいったい、何が進歩していないのでしょう。
まず上げられるのは間接材購買の活動内容です。
先のCaps Research社のレポートでも取り上げられていますが、間接材購買の活動は、まずはコスト削減活動を中心に進められます。コスト削減機会があるのですから、当然と言えば当然です。その場合最初に実施するのが支出分析です。どのような品目の支出が大きいのか、当然のことながら支出金額が大きくコスト削減の期待値が高い品目から取組みます。また品目によってコスト削減がし易い品目とそうでない品目があるでしょう。例えば、マーケットの状況で、そもそも競争相手がいない、とか集中契約が結べないような品目はコスト削減が難しいことは誰もが理解できます。
このように期待効果と難易度のマトリクスでコスト削減を進めていくのが、ごくごく一般的なコスト削減のアプローチになります。しかし、このようなアプローチでコスト削減を推進すると多くの企業で優先順位が高い品目は自然と共通化してきます。
また、各社で共通してでてくる課題は社内の調整です。多くの企業で間接材購買チームはマネジメントの思いつきで2-3名のチームとして初期の立上げを行う場合が多く、このようなチームが社内的に強い立場である訳がありません。
ですからコスト削減の機会として抽出されてもコスト削減の実行が必ずしも進められる訳ではないのです。自然と各社ともやり易い共通した品目のコスト削減活動から推進しましょう、というのが通常の初期の取組みになります。
初期の取組みは長い企業でだいたい3年程度取組みます。しかし多くの企業では1-2年でチーム自体が無くなったり、チームのメンバー全員が入れ替わったりします。3年程度取り組み続けているチームの中にはコスト削減の品目範囲を広げることに成功したり、恒久的な組織作りができる企業もありますが、多くの企業では取組みは続けているものの、なかなか成果が長続きしないという状況に陥ります。
一方で、多く見られるのは、チームがなくなったり、チーム全員が入れ替わった企業です。
こういう企業では、再度景況悪化などの事業環境が悪化した際に同じ活動を始めます。
今までの支出分析や品目コスト削減のノウハウなどが全く活かされずに、新しいチームでまたコスト削減の目標を設定して、やり易い品目からコスト削減活動を再スタートするのです。
企業によってはその度に外部のコンサルティング会社に多くの費用を払っています。
この費用こそ真先に削減すべき支出と言えるでしょう。
何故こんなことになってしまっているのでしょうか。
様々な問題があるとは思いますが、ここではまずは、人材の問題を取上げます。
間接材購買は多岐な品目があり、支出の把握がし難い費用であると述べました。そうすると当然のことながら品目の専門家、調達・購買の専門家などがどの企業でも不足しています。一方で品目毎にコスト削減のコツやノウハウはありますので、人材の数および質が慢性的に不足している状況はどこの企業でも共通することです。
それに対して多くの企業ではマネジメントの一言で2-3名の人員をかき集めプロジェクトをスタートします。このチームのメンバーとして集められた人材は自分達の与えられた環境下で精一杯やっているのですから、この人たちを責めるつもりはありませんが、彼らの仕事の環境を見ると、モチベーションがあがる訳がありません。今まで一線の営業部隊や企画職の人間をいきなり連れてきてチームを作っても、まるで閑職に追いやられたような状況になるのは当り前のことです。
チームメンバーは長くて2-3年でだいたいは異動します。そしてチーム全体が短くて2-3年位で全員入れ替わります。要するに常に新しいチームになっているのと同じような状況です。
また専門家が不足しているので、外部人材を活用する企業もよく見られます。弊社も過去にそのようなプロジェクトを支援していたことがあるので大きな声では言えませんが、最近は「コスト削減請負います」的な企業が正に雨後の筍のように多く存在しています。
こういう企業を使うことが悪いとは言いませんが、どうなんでしょう、短期的にはいいですが、中長期的には問題ありませんでしょうか。社外を活用しコスト削減のノウハウを社内の人材に移転していく、ことが目的であればいいでしょう。
このような「コスト削減請負会社」は成果報酬制(コスト削減成果に対する報酬)の企業が多いので、中長期的にどうしても報酬を得るためには無理なコスト削減活動が出始めるのです。考えてみたら当たり前のことでしょう。そうして外部を活用した結果、3年後、5年後には何も残っていませんでした。マネジメントから今年はきついから間接材コスト削減しなさい、とまた何年に一度かの恒例行事のように指示されて、新しいチームができる。またノウハウもないので、また外部を使いましょう。。この繰り返しをしている企業があまりにも多くないでしょうか。
私自身外資系企業で間接材購買を担当していましたが、この領域には私の周りにも数人のプロフェッショナルがいます。しかし、彼らの殆どは4-5年に一回転職しています。
彼らはある特定の品目のコスト削減やもっと幅広い間接材購買に関するプロフェッショナルです。しかし私が感じる限りこのようなプロフェッショナルの人数が増えているか、というとそうでもありません。ここで何を述べたいかというと、こういうプロフェッショナルを上手く活用するとともにプロフェッショナルを育てられる企業が極めて少ないということです。
腰を据えて間接材購買改革を進めている企業があまりにも少なすぎるのが実態ではないでしょうか。多くの企業でこのような間接材購買プロフェッショナルを短期的なコスト削減プロジェクトを担う一品目バイヤーとしか見ていない、このようなプロフェッショナルの無駄使いが行われているのが実態と言えるでしょう。
今回は間接材購買改革の状況について進歩がなく、その状況を顕しているものが繰り返し特定品目のコスト削減活動を数年に一回やっているだけであり、その理由の一つが人の問題であることを述べてきました。
次回はサプライヤー側の状況、そして調達購買システムの限界について述べていきます。
今回から3週に渡って「間接材購買」について書きます。
「間接材」購買とは、製品に直課されない支出であり企業によっては「経費購買」とか「非生産材」とか「インダイレクト」購買とか表現されることもある支出です。
「間接材」購買は2000年頃から日本企業でも着目され、従来であれば分散購買だったものを集中購買し、専門の調達購買部門を設置することでコスト削減を図る活動が進められてきました。
一言で言うと進歩していないのです。
どのように進歩していないのでしょうか、また進歩していない理由は何なんでしょうか。
この話に入る前にまず、ここでは間接材購買についてもう一度ふりかえってみます。2003年9月に発表されている米国調達関連のシンクタンクであるCaps Researchの資料「Critical Issues Report」内でIndirect Spendというテーマの中でこのような記述があります。
「Indirect Spendとは、企業活動を続ける限り発生し続ける間接材の調達コスト。企業支出全体に占める間接材支出の割合は、製造業で36%、サービス業で60%にも及ぶという調査結果も出ています。しかも、コスト削減が着実に進展している直接材に対し、間接材の調達コストについては、多くの企業が有効な解決策を見出せないまま、というのが現状です。この間接調達コストの見直しこそ、総コスト削減の大きなカギとなっています。」
このレポートにもあるように支出全体に占める間接材購買の比率は低くありません。また品目も多岐に渡ります。大きく分けると物品とサービスに分けられます。物品は事務用品からパソコン、サーバーなどのITハードウエア、工具や様々な消耗品、理化学用品、試薬から燃料、設備に至るまで様々です。サービスは物品以上に多様な品目があります。建設工事や運送、ファシリティ関連費用、不動産賃貸、印刷費用、通信費、広告宣伝費、システム開発、コンサルティング費用、調査費用などの業務委託費用、人材派遣費用、通信費、リース費用などです。
間接材購買の特徴は大きく2つ上げられます。1点目は支出の把握がし難いことです。
間接材は管理会計上では固定費に含まれますが、まれに生産高や売上高などに応じて発生する変動費用的な支出もあります。また財務諸表上は製造原価、販売管理費、償却費の3つの部分に含まれており、全体像の把握が難しいという特徴があります。
また直接材と異なり、品番という概念がありません。ですから必要量の管理もできませんし単価とか原単位という概念もありません。つまり精度の高い管理がし難いのです。
2点目の特徴は関連する人(会社)の多さです。先ほども触れたように間接材は非常に多岐に渡るため、支出金額や買いモノをする回数も品目毎に大きく異なります。
また多岐に渡る品目のため、多くのサプライヤとの取引が発生しています。また社内で実際に支出を行う人間も多岐に渡るのが一般的です。品目によっては例えば事務用品など社員全員が支出をする場合もあります。所謂社員全員がユーザーになり得るのです。
このような2つの特性を持つために、間接材購買は今まで企業が管理してきた直接材購買とは異なったアプローチが必要になります。
やっと本題に入りますが、10年前と比べて間接材購買は進歩がない、と述べましたがいったい、何が進歩していないのでしょう。
まず上げられるのは間接材購買の活動内容です。
先のCaps Research社のレポートでも取り上げられていますが、間接材購買の活動は、まずはコスト削減活動を中心に進められます。コスト削減機会があるのですから、当然と言えば当然です。その場合最初に実施するのが支出分析です。どのような品目の支出が大きいのか、当然のことながら支出金額が大きくコスト削減の期待値が高い品目から取組みます。また品目によってコスト削減がし易い品目とそうでない品目があるでしょう。例えば、マーケットの状況で、そもそも競争相手がいない、とか集中契約が結べないような品目はコスト削減が難しいことは誰もが理解できます。
このように期待効果と難易度のマトリクスでコスト削減を進めていくのが、ごくごく一般的なコスト削減のアプローチになります。しかし、このようなアプローチでコスト削減を推進すると多くの企業で優先順位が高い品目は自然と共通化してきます。
また、各社で共通してでてくる課題は社内の調整です。多くの企業で間接材購買チームはマネジメントの思いつきで2-3名のチームとして初期の立上げを行う場合が多く、このようなチームが社内的に強い立場である訳がありません。
ですからコスト削減の機会として抽出されてもコスト削減の実行が必ずしも進められる訳ではないのです。自然と各社ともやり易い共通した品目のコスト削減活動から推進しましょう、というのが通常の初期の取組みになります。
初期の取組みは長い企業でだいたい3年程度取組みます。しかし多くの企業では1-2年でチーム自体が無くなったり、チームのメンバー全員が入れ替わったりします。3年程度取り組み続けているチームの中にはコスト削減の品目範囲を広げることに成功したり、恒久的な組織作りができる企業もありますが、多くの企業では取組みは続けているものの、なかなか成果が長続きしないという状況に陥ります。
一方で、多く見られるのは、チームがなくなったり、チーム全員が入れ替わった企業です。
こういう企業では、再度景況悪化などの事業環境が悪化した際に同じ活動を始めます。
今までの支出分析や品目コスト削減のノウハウなどが全く活かされずに、新しいチームでまたコスト削減の目標を設定して、やり易い品目からコスト削減活動を再スタートするのです。
企業によってはその度に外部のコンサルティング会社に多くの費用を払っています。
この費用こそ真先に削減すべき支出と言えるでしょう。
何故こんなことになってしまっているのでしょうか。
様々な問題があるとは思いますが、ここではまずは、人材の問題を取上げます。
間接材購買は多岐な品目があり、支出の把握がし難い費用であると述べました。そうすると当然のことながら品目の専門家、調達・購買の専門家などがどの企業でも不足しています。一方で品目毎にコスト削減のコツやノウハウはありますので、人材の数および質が慢性的に不足している状況はどこの企業でも共通することです。
それに対して多くの企業ではマネジメントの一言で2-3名の人員をかき集めプロジェクトをスタートします。このチームのメンバーとして集められた人材は自分達の与えられた環境下で精一杯やっているのですから、この人たちを責めるつもりはありませんが、彼らの仕事の環境を見ると、モチベーションがあがる訳がありません。今まで一線の営業部隊や企画職の人間をいきなり連れてきてチームを作っても、まるで閑職に追いやられたような状況になるのは当り前のことです。
チームメンバーは長くて2-3年でだいたいは異動します。そしてチーム全体が短くて2-3年位で全員入れ替わります。要するに常に新しいチームになっているのと同じような状況です。
また専門家が不足しているので、外部人材を活用する企業もよく見られます。弊社も過去にそのようなプロジェクトを支援していたことがあるので大きな声では言えませんが、最近は「コスト削減請負います」的な企業が正に雨後の筍のように多く存在しています。
こういう企業を使うことが悪いとは言いませんが、どうなんでしょう、短期的にはいいですが、中長期的には問題ありませんでしょうか。社外を活用しコスト削減のノウハウを社内の人材に移転していく、ことが目的であればいいでしょう。
このような「コスト削減請負会社」は成果報酬制(コスト削減成果に対する報酬)の企業が多いので、中長期的にどうしても報酬を得るためには無理なコスト削減活動が出始めるのです。考えてみたら当たり前のことでしょう。そうして外部を活用した結果、3年後、5年後には何も残っていませんでした。マネジメントから今年はきついから間接材コスト削減しなさい、とまた何年に一度かの恒例行事のように指示されて、新しいチームができる。またノウハウもないので、また外部を使いましょう。。この繰り返しをしている企業があまりにも多くないでしょうか。
私自身外資系企業で間接材購買を担当していましたが、この領域には私の周りにも数人のプロフェッショナルがいます。しかし、彼らの殆どは4-5年に一回転職しています。
彼らはある特定の品目のコスト削減やもっと幅広い間接材購買に関するプロフェッショナルです。しかし私が感じる限りこのようなプロフェッショナルの人数が増えているか、というとそうでもありません。ここで何を述べたいかというと、こういうプロフェッショナルを上手く活用するとともにプロフェッショナルを育てられる企業が極めて少ないということです。
腰を据えて間接材購買改革を進めている企業があまりにも少なすぎるのが実態ではないでしょうか。多くの企業でこのような間接材購買プロフェッショナルを短期的なコスト削減プロジェクトを担う一品目バイヤーとしか見ていない、このようなプロフェッショナルの無駄使いが行われているのが実態と言えるでしょう。
今回は間接材購買改革の状況について進歩がなく、その状況を顕しているものが繰り返し特定品目のコスト削減活動を数年に一回やっているだけであり、その理由の一つが人の問題であることを述べてきました。
次回はサプライヤー側の状況、そして調達購買システムの限界について述べていきます。