エクトル・ルナ(中日)は毎年のように所属するチームが変わる典型的な"ジャーニーマン"だった。ルナは1999年、19歳の誕生日の翌日、ドミニカ共和国からアマチュアのフリーエージェントとしてクリーブランド・インディアンスと契約を交わした。その後、タンパ・レイズに移籍し、2003年4月に再びインディアンスに戻ってきた。

 その後、2003年12月にセントルイス・カージナルスに移籍すると、2004年4月8日のミルウォーキー・ブルワーズ戦で7番・セカンドでスタメン出場し、ついにメジャーデビューを果たした。ちなみに、この日のスタメンには1番・レフトで田口壮、3番・ファーストでアルバート・プホルスらも名を連ねていた。

3回にメジャー初打席を迎えたルナは2球目を叩くと、打球はレフトスタンドに飛び込んだ。衝撃のメジャーデビューを飾ったルナだったが、この年は83試合の出場にとどまり、打率も.249と思うような結果を残せなかった。翌年もカージナルスでプレイしたルナだったが、出場は2004年よりも少ない64試合だった。

 すると2006年のシーズン中、カージナルスはルナをインディアンスへ放出。そしてその翌年にはトロント・ブルージェイズのユニフォームを身にまとっていた。その後も毎年のように転々と球団を渡り歩いたルナは、アメリカでの13年間でじつに9つの球団に在籍した。

 ところが、2013年に中日の新外国人として来日したルナは、ようやく才能を開花させた。昨年は7月に膝の故障で戦線離脱し、85試合の出場にとどまったが打率.350をマーク。結局、規定打席に到達せず首位打者のタイトルは逃したが、能力の高さを証明してみせた。そして今季もここまで打率.337を残しており、セ・リーグの首位打者に立っている。

 だが、こうしたルナの活躍にアメリカで一緒にプレイしていた元チームメイトたちは誰ひとり驚いていない。そればかりか、「いつか爆発的な活躍をするのではないか」と思っていたというのだ。2006年にインディアンスでルナと一緒にプレイしたトラビス・ハフナー(元ヤンキース)は、次のように語った。

「今でもよく覚えているのは、ルナがどの方向にもうまく打球を飛ばすことができたことです。首位打者であることにまったく驚きはありません。ようやくレギュラーとしてプレイできる機会を得て、彼が持っている才能を発揮できたんだと思います。彼が活躍していると聞いて、すごく嬉しいよ」

 2012年のフィリーズ時代のチームメイト、フアン・ピエール(元マーリンズ)は「本当の意味で評価すべきなのは、中日のスカウトじゃないですか」と笑い、こう語った。

「よくルナを探し出し、彼の才能を引き出せたと思います。彼は本当に素晴らしい打者でした。だから、日本で活躍していると聞いても、驚いていません。アメリカ時代の彼は、出場機会に恵まれず、持っている力を発揮できなかった。ただ、それだけです。日本でのプレイを選んだことは彼にとって本当に良かったことだし、彼を見込んだスカウトにとっても大きいことだったと思います」

 打者として絶対的な能力を持っていると言われていたルナだが、結局、一度もレギュラーを獲得することはならなかった。

 現在、ミルウォーキー・ブルワーズでプレイするライル・オーバーベイも、ブルージェイズ時代のチームメイトだが、その前は敵としてルナの活躍を見ていた。そしてオーバーベイは、エドウィン・エンカーナシオン(現ブルージェイズ)を例に出し、次のように語った。

「僕が昔、ブルワーズでプレイしていた頃、同地区だったレッズ(当時)のエンカーナシオンと、カージナルス(当時)のルナはよく見る機会が多くありました。彼らが持っている能力は目を見張るものがありました。でも不思議なことに、いいスイングをしているのに、試合になると力を発揮しきれない選手が、じつはたくさんいます。このふたりは、ようやくそれをできるようになったのだと思います」

 エンカーナシオンは、メジャーデビューしてから7年間の通算打率は2割4分台で、ホームランは1シーズン平均18本だった。それが2012年になって突然、打率.280、42本塁打と才能を開花させた。昨年も打率.272、36本塁打と活躍。一躍、メジャーを代表する打者へと変貌を遂げた。

 オーバーベイは、エンカーナシオンと同じことがルナにも起こっているのではないかと説明した。

「ルナは力もあったが、どの方向にも打球を飛ばせる選手だったのです。エンカーナシオンは、引っ張る力がありました。それをトロントにてようやく熟知し、使いこなせるようになったのだと思います。 ルナの場合は、おそらく持ち合わせている力に頼り過ぎていたのではないでしょうか。それを日本の野球界が、ルナの持つ多方向へ打球を操れるという側面を引き出したのではないかと思います。 見たわけではないので、彼がどのようにして才能を開花させたのかはわかりませんが、彼がボールを全方向に操れる天性の才能を持っていたことだけは、はっきりと言えます。 想像なんですけれども、環境が変わったということが、ついに彼の持っていたものを引き出してくれたのかなとも思います」

 アメリカ時代のルナを知っている人で、彼の日本での成功に驚いた人はいなかった。ただ、ルナの才能を知る人たちは、それまでメジャーで力を発揮できなかったことにただただ驚いているのだ。

ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton