制球力を支えるのは打者を抑える絶対的な自信

 この試合の注目は川崎工科の遊撃手・江越 啓太(3年)だった。スピード溢れる遊撃手としてNPBのスカウトからも注目される選手である。試合前のノック、試合中の動作一つ一つを見ていても身のこなしが良く、一人だけキレのある動きを見せている。

 しかし試合が進行するにつれて、ゲームの主役は湘南学院の投手・渡會 健太へと移っていった。

 川崎工科は3回表1番宮台 正広(3年)の適時三塁打で1点を先制。そして4回表にはその注目の4番江越が右中間を破る三塁打を放つ。ストレートを振り抜いた打球はあっという間に右中間を破っていった。打球速度も非凡なものがあったが、それよりも目を惹いたのはベースランニング。三塁打のタイムは11.59秒を計測。三塁到達タイムの基準が12秒29未満であることを考えると、相当速いタイムである。江越はバッテリーミスで生還し、2対0とリードする。

 このまま試合を優位に進めていきたい川崎工科だったが、4回裏、湘南学院が反撃する。二死から6番阿部 貴文(3年)が左前安打で出塁すると、暴投で二死三塁。そこから二者連続四球で、二死満塁となり、そこからさらに連続押し出しであっという間に同点に。

 川崎工科は、投手は先発の石井涼太(3年)から左腕の滝口 駿(3年)に交代したが、負の連鎖は止まらない。滝口も連続四死球。2人合せて6者連続四死球、4連続押し出しで湘南学院が逆転に成功した。そして最後は4番栗本 勇治(3年)が右前適時打を放ち、湘南学院が6対2と点差を大きく広げる。四球6個、安打1本で6得点。川崎工科にとっては実に勿体ない失点だった。

 一方、湘南学院の渡會 健太(3年)は逆転を機に調子を取り戻していった。右腕から120キロ後半の直球、変化球をコーナーギリギリコントロール良く投げ分け、警戒していた江越に対しても、第3打席は遊ゴロ。そして9回表、二死二塁の場面で迎えた第4打席では、二ゴロに打ち取り、2失点完投勝利を収めた。

 渡會が素晴らしかったのは直球、スライダー、緩いカーブのコンビネーション、そしてコントロールの素晴らしさだ。ストライク先行で投球を組み立てることができるので、常に投手有利に試合を進められた。

 一方、ボールが先行し、追い込まれ、打者優位で勝負をせざるを得なかったのが4回裏の川崎工科投手陣。特に押し出しの後に栗本に打たれた適時打などはまさに打者優位でストライクをとりにいったところを狙い打たれた。

 試合を分けた制球力。

 いかにストライク先行で、投手優位な立場にすることができるか。ストライクを先行させるには、技術だけではなく、どんな相手にも、気持ちの面で上回らなければならない。湘南学院の渡會は自信を持って投げることが出来ていた。数多くの強豪校が虎視眈々と頂点を狙う神奈川大会。渡會の投球を見ると湘南学院もその仲間入りしたことは間違いない。

(文=河嶋 宗一)