大阪の開幕戦を追手門学院が制す

 京セラドーム大阪のスコアボードに最初に刻まれたのは、アウトを示す赤いランプではなくヒットを表すHランプだった。全国屈指の激戦区大阪、甲子園を目指す最初の戦いは追手門学院の1番・鈴木の痛烈なピッチャー返しで幕を開けた。

 初回、鈴木がセンター前ヒットで出塁すると2番・小谷にバントの構えは無い。負ければ3年生は引退を迎える夏の大会、開会式直後の独特の緊張感、場所は普段とは全く違うプロが使用するドーム球場・・・浮き足立ってもおかしくない環境の中、追手門学院は攻めた。小谷はバントをしないどころか2球目、4球目、5球目にエンドラン。田中監督のサインに応えセンター前ヒットで続きチャンスを広げた。

 無死一、二塁となってからは併殺のリスクを無くすためバントを選択するチームが多い。しかし、3番・福本もヒッティングの構え。5球目の変化球をライト前に運び無死満塁と更にチャンスを広げた。この絶好機に4番・キャプテンの熊野が打席へ。ファーストストライクをレフト前に弾き返し、鈴木を先制のホームに迎え入れた。尚も続く無死満塁のチャンスに5番・飯塚が右中間を破る3点タイムリースリーベース。試合開始からの5連打でいきなり4点を奪った。

 追う山田は裏の攻撃で1番・亀澤がフォアボールで出塁すると、キャプテンの2番・橋本がきっちりバントでランナーを進め一死二塁。3番・杉原のライトフライで亀澤が三塁へ進むと、山田の4番・佐々木一も負けじとレフトへタイムリーを放ちすぐさま1点を返す。

 初回に点を取り合った両チームだが2回からは根比べが続き共に0行進。

 試合が動いたのは5回、初回に浴びた5連打以降はホームを許さなかった山田の先発・山原が先頭バッターとして打席に入ると右中間へのスリーベースヒットで出塁する。続く8番・佐々木雄のカウントが1ボール1ストライクとなったところで追手門学院は1回目の守備のタイムを使うがその直後、3球目がワイルドピッチとなり山田に2点目が入る。この得点は守備でリズムを作ってのものだった。

 2回に一死一、三塁のピンチを背負うと一塁ランナーがスタート。キャッチャー・原は二塁方向へステップするが三塁ランナーのリードが大きいと見るや三塁へ送球しタッチアウト。それでも二死二塁と得点圏にランナーが残ったが、ショート・亀澤がハーフバウンドの難しい打球を捌き好プレーでチームを救う。

 3回には山原が素早い牽制でランナーを誘い出しピンチの芽を摘む。4回にはバント処理のミス(記録は野手選択)で無死一、二塁とされるが併殺で切り抜ける。5回はこの試合で初めて追手門学院の攻撃を3者凡退に抑えて迎えた攻撃だった。

 前半5回を終えて山原の球数は90球、初回だけで38球を要したがその後は22球、10球、10球、10球と確実に減り、いつの間にか追手門学院の先発・中村の92球を下回っていた。

 6回にはツキも山田に味方する。先頭の佐々木一がヒットで出塁すると、青木のセカンドゴロが併殺崩れとなりランナーが入れ替わって一死一塁。青木はワイルドピッチで二塁へ進むと二死後、山原の詰まった当たりがレフト、センター、ショートの間に落ちるラッキーなヒットとなり生還を果たす。佐々木一のヒットがあったから内野ゴロにもかかわらず青木が塁に残り、相手キャッチャーがワンバウンドを弾くと好判断で二塁に到達し、原のセカンドフライで二死となっていたから山原の小フライでスタートが切れた。その山原の当たりももう少し根元ならショートの頭を越えず、もう少し先なら外野フライになっていただろう。

 次の得点が勝敗を大きく左右する1点差の終盤戦、追手門学院の7回の攻撃は打順良く1番から。鈴木が初球を叩いてレフト前ヒットで出塁すると、この勝負所で初回と同じく積極策に出る。小谷の打席で1ボール1ストライクからの3球目にこの日6度目のエンドラン。これがファールになると4球目に鈴木が盗塁を成功させる。小谷が三振、福本がフォアボールで一死一、二塁となり打席には初回に先制タイムリーを放った熊野。ここまで外一辺倒に近いリードをしていた原がこの場面でインコースを突く配球を見せたが、2ボール1ストライクからの4球目、真ん中高めに浮いた1球を熊野は逃さず、かぶせるように叩いた打球が右中間を破る。

 一塁を回る前に熊野が走りながら思わず小さくガッツポーズをしてしまうほどこの一撃が試合に与えた影響は大きかった。ここで山田は先発・山原がレフトに回り、マウンドにはストレートの威力なら山原を上回る堀川を送る。一死二、三塁からもう1点もやれない山田は当然ながら前進守備を敷く。しかし追手門学院の5番・飯塚の打球は浅めの守備位置をとっていたサードの頭上をワンバウンドで越える2点タイムリーツーベース。大きな大きな3点をスコアボードに刻むと8回にも福本のタイムリーで1点を加えリードを広げた。

 山田は8回に二死二、三塁の好機を作ると堀川の打席で代打・河野を送るがレフトフライに倒れ万事休す。最後の反撃のチャンスも潰えた。

 結局、追手門学院のエース・中村から連打を奪えず決定機を欠いた。中村は球数が140球を超えた9回に3者連続三振を狙っているかのような熱投を見せ3失点完投、エンドラン6度に3盗塁とスキあらば仕掛ける野球で8得点を挙げたチームを勝利に導いた。

 8対3というスコアで決着したオープニングゲーム、大阪で最初に校歌を歌ったのが追手門学院なら大阪で最初に涙を見せたのが山田。

 9回表、山田の最後のマウンドには背番号1の山原が立ち、9回裏、山田の最後のバッターボックスにはキャプテン・橋本が立っていた。

(文=小中 翔太)