大差の裏に見る「攻守の時間」

 本大会はノーシードから頂点を目指す早稲田実業が、大勝で初戦を乗り越えた。

 打っては8安打で15得点、投げてはエース松本 皓投手(2年生)と川上 開誠投手(3年生)が、出した走者は3回の四球による1人のみというノーヒットノーランの完封リレー。5回コールド勝ちだった。

 打で目立ったのは、番号14を背負い7番ファーストでスタメン出場した寺島 拓海選手(3年)。3打数3安打6打点。第1打席は三塁打、第2打席は二塁打、第3打席は本塁打。4打席目が回ってくる前に試合は終わってしまったが、あとシングルヒットを打てばサイクルヒットという活躍。下半身が安定したフォームからの鋭いスイングに目を引かれたが、それ以上に、打ちたいところでボールをとらえるミートポイントが完璧といえるほど一定していたのが印象的だった。その証拠に3打席とも打球はきれいに右中間へ。今後の試合でも注目の絶好調ぶりだ。

 対する明学東村山も投・守の基礎がきっちりできているチームに見えた。先発したエース・吉村 俊太朗投手(3年)は、打っては4番を任されるチームの大黒柱。ピッチング面では特にスライダーのキレがよく、フォームも安定している。だが、セットポジションになってからの制球に苦しんだ。ランナーがいない場面ではボール判定も際どいコースが多かった一方、ランナーを出すとストライクとボールがはっきりしてしまう。ボールを見極められ球数を要し、ストライクは強振される。結果はアウトでもきっちりスイングしてくる早稲田実業打線に圧力をかけられ、3回途中で無念の降板。続く2番手・川崎 耕平投手(3年)、3番手・主将の伊藤 弦投手(3年)も力投したが、圧力を跳ね返すまでには至らなかった。

 1回12、2回8、3回13、4回7、5回14。これは早稲田実業の松本投手(1〜4回)と川上投手(5回)の投球数だ。早稲田実業側からみれば理想的な球数といえる。明学東村山は積極的に打ちに出た。相手投手の力を考えた時、カウントが若いうちからストライクを振っていくことは、決して間違っていなかったはずだ。

 着目したいのは、早打ちを心がけたぶん「攻撃時間が短かくなった」ということだ。1時間20分だった試合時間のうち、明学東村山の攻撃時間はトータルして15分にも達していない。つまり、単純計算で残り1時間以上は守備で立たされ続けていたことになる。第1試合とはいえ、天気は快晴、グラウンド上の体感気温は40度近くあっただろう。この炎天下で猛攻にさらされ続けていれば、必然的に集中力は低下する。それを感じさせたのが、記録された3つのエラーだ。

 3回裏2アウト1、2塁でファーストゴロをベースカバーに入ったピッチャーと連係ミスで1失点。直後のショートゴロはショートバウンドになった送球をファーストが上手く救ったかに見えたが、足がベースから離れたと判定されセーフになり1失点。結局この後も3点を失う。本来ならチェンジになっていたプレーが逆に5失点の引き金になった。

 そして4回裏1アウト1、2塁の場面。早稲田実業1番打者・山岡 仁実選手(3年)のセカンドゴロで4−6−3のダブルプレーを狙ったもののショートが足をつり、悪送球も加わりアウトカウントは増えずに1失点。

 守備に長時間を費やさねばならないのは仕方がない。ただ、長時間炎天下のグラウンドに立ち続けていることで、体力や集中力が蝕まれていくこともまた事実。キャッチャーがタイムを要求するか、ベンチから伝令を出して、自分たちのやることを再認識する「間」があったら……状況は変わらずとも心構えは変わったかもしれない。

 守備がきっちりしていただけに、明学東村山にとっては、ノーヒットよりもコールドよりも、この3つのエラーが悔しかったのではないか。

(文=伊藤 亮)