「前後際断」で人間的成長・種子島

 鹿児島実・藤丸 諒(3年)、種子島・西田 力人(3年)、両左腕エースが火花を散らした投手戦だった。

 鹿児島実は6回、一死一三塁で4番・松原 一成(3年)がセンターへ犠牲フライを放って均衡を破ると、その後追加点は奪えなかったが、エース藤丸が種子島打線につけ入るスキを与えず、打者27人で打ち取る快投だった。

「打者1人1人の特徴を研究されていた。藤丸君がこの一戦に命がけできていて、失投がほとんどなかった。勝たせてあげられなかったことが悔しい」と種子島・日高 慎一郎監督は唇をかんだ。

 種子島のエース西田は強豪・鹿児島実打線を相手に被安打3、1失点の堂々たる投球だった。勝利はもぎ取れなかったが「人間的にかなり成長した」(日高監督)姿があった。

 心の中で「前後際断」という言葉を唱え続けた。

 過去や未来ではなく、今、この瞬間できることに集中する。それが今までできなかった。思い通りにいかないと1人で抱え込み、自滅していた。悪いプレーがあっても引きずらない。逆に良いプレーがあっても調子に乗らない。

 そんな姿勢を練習だけでなく、日頃の生活から心掛けて夏に臨んだ。

 高めの直球に威力があり、鹿児島実打線も振り遅れてフライを打ち上げていた。アクセントになるカーブも制球が安定して緩急の出し入れができ、4回までは無安打に封じていた。

 真価を発揮したのは5回以降だ。

 毎回、先頭打者を出した。エラーが出たこともあった。だが、心の中で「前後際断を言い続け、心を込めて1球1球、投げ続けた」。エラーが失点に絡むことはなかった。

 悔やまれたのが6回一死一三塁で4番・松原を迎えた場面。捕手・山口 賢也(3年)のサインは変化球だったが、「抑えられる」と直球勝負にいったが、外野に運ばれ犠飛に。投じた100球の中で唯一の「失投」だった。

 思い通りにいかないボールが続いたら、一度マウンドを外して、首を回したりして気持ちを整えた。三振をとったら、以前なら肩で息をするほど興奮していたが、淡々と次の打者に向かっていった。

 「心技体のすべてで成長」(日高監督)し、前後際断を体現したマウンドだった。

「自分のせいで負けることが多かったのが、初めてチームの役に立てた。これまで支えてくれた仲間に感謝したい」心からそう思えた。

(文=政 純一郎)