「伝統の灯」絶やさず・沖永良部

 序盤から好機をそつなくものにした川薩清修館が競り勝った。初回は相手のエラーで先制、2回は9番・内田 誠義(2年)のセンター前タイムリー、3回は6番・永田 周人(1年)の犠牲フライと序盤で主導権を握った。中盤同点に追いつかれ、相手に流れが傾きかけた苦しい展開だったが、エース眞崎 凱世(2年)を中心に勝ち越しは許さなかった。9回に押し出しと7番・田上 和磨(1年)の犠牲フライで2点を勝ち越し、その裏を3人で打ち取って、白星を手にした。

 スタメン4人の背番号とレギュラーポジションが一致していないところに、沖永良部の苦しいチーム事情がうかがえた。エース榮 大志(3年)は春の大会以降、右脇腹の疲労骨折で投球練習がほとんどできていない。加えて攻守の要・福井 富和主将(3年)が約1カ月前の練習試合で右のハムストリングスを肉離れして、試合に出られなくなった。将棋でいえば「飛車・角」抜きで迎えた夏だった。

 初回、2回とエラーが失点に絡んだ。「1、2年生主体の若いチームの不安要素」(前田直紹監督)だった守備のミスが序盤に出て、重苦しい雰囲気だった。4回以降、1年生左腕・奥間 卓斗が立ち直り、打線も6回に同点に追いつく粘りをみせたが「あそこで一気にひっくり返せるほど、走塁面など細かい野球を仕込めていなかった」(前田監督)。9回、好投を続けていた奥間卓も肩が限界を超えており、榮をマウンドに送らざるを得なかった。表に奪われた2点を、裏の攻撃でひっくり返す力は残っていなかった。

 悔しい負け方だったが、故障者続出の苦しいチーム事情の「現有戦力」で、精一杯のことはやり切った。エラーはあったが「取り返せないほどの点差にならず、食らいついて粘り強く戦えた」と前田監督は評価する。福井主将も「ベンチも、スタンドも、一丸となって戦えた」ことは実感できた。

 昨夏の3年生が抜けてからは1、2年生7人になり、単独出場ができなくなった。古仁屋との連合チームで秋、春の県大会には出場したが、一緒に練習する時間は皆無に等しく、1勝も挙げられなかった。試合に出られないかもしれない不安との戦いの中で「大会出場を途絶えさせず、伝統の灯を絶やさなかった」4人の3年生の頑張りを前田監督はたたえていた。

(文=政 純一郎)