『メタルめし! 飢えたメタラーたちに捧ぐ、究極のガッツリヘヴィメタルレシピ』ヤスナリオ/DU BOOKS。表紙の料理が、文中で触れた「マスター・オブ・ナゲッツ」だ。

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世のメタラー(ヘヴィメタル愛好家)諸氏、ちゃんとご飯食べてますか?

日本のレシピ本シーンに異彩を放つ1冊が降臨した。その名も『メタルめし!』。自身も熱心なメタラーである料理勉強家・ヤスナリオが世に問う、メタルと料理を掛け合わせた「究極のガッツリヘヴィメタルレシピ本」だ。

90年代、ニルヴァーナをはじめとするグランジ/オルタナ・ロックの台頭により人気が下降したヘヴィメタル。かく言う私も、高1くらいまでは熱心なメタラーだったものの、その後パタリと聴かなくなってしまった(私は30歳過ぎて再び聴くようになった、いわば「出戻り」なのです)。しかし近年、欧州はもとより、日本でもアイドルとメタルを融合させた3人組ユニット「BABYMETAL」が人気を得たり、新しいメタル雑誌『ヘドバン』
が創刊されたりと、じわじわ人気を盛り返しつつある様子だ。そんな折に登場したのが本書。メタルめしは、日本のメタラーの胃袋をつかみ、メタルのさらなる盛り上がりの起爆剤足り得るのか?

とはいえ、「メタルめし」って何だよ?って話である。まずは、どんなメニューが並んでいるか見てみよう。

皮切りは「スラッシュ四天王」ことメタリカ、メガデス、アンスラックス、スレイヤーをモチーフにした「スラッシュメタルBIG4レシピ」だ。一部を紹介しよう。
まずは、メタリカのサードアルバム『Master Of Puppets』のアルバムジャケットをモチーフにした、ジャケ弁ならぬジャケ料理「マスター・オブ・ナゲッツ」。十字架墓石はクロス型にカットされたフライドポテト、奥から刺す朱色の光は巨大なチキンナゲット(の色味)で再現されている。
ドクロのデザインでおなじみ、ブレアーズ社の激辛ソース「アフターデス」を使用した「トム・アラヤくんのスパゲティ・エンジェル・オブ・デスソース」は、アウシュビッツで「死の天使」と恐れられたナチスの医師ヨーゼフ・メンゲレをテーマにしたスレイヤーの名曲「Angel Of Death」(『Reign in Blood』に収録)が元ネタ。
マッシュポテトにとんがりコーンをツンツンぶっ刺して狂気を表現した「コート・イン・ア・マッシュポテト」は、アンスラックスの楽曲「Caught In A Mosh」(『Among The Living』に収録)をもじったもの……

と、基本ダジャレなのですね。
そのほかにも、ヴァン・ヘイレン→「パンヘイレン」(カニカマと海苔を使って、食パン上でエディ・ヴァン・ヘイレンのギターデザインを再現)、モトリー・クルー→「モツ煮―カレー」(豚白モツ入りカレー)、イングウェイ・マルムスティーン→「インゲン・マルメステーキ」(ストラトキャスター型のまな板に載せたインゲン入りハンバーグ)などと、もうやりたい放題。「よく思い付くよな〜」と感心するやら、呆れるやら。また、元ネタとなったアーティストの食にまつわるトリビアなど、小ネタも充実。オールカラー・104ページにこれでもかと詰め込まれた、著者のむせ返るほどのメタル愛に、自然と笑みがこぼれる。レシピを作るために「メタル」というネタを用いた、のではなく、まずは胸いっぱいの“メタル愛”があり、そこを出発点にレシピが組み立てられているのが本書の大きな特徴である(もちろん、レッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」も俎上に載せられている)。それが「メタル×料理」という突飛な組み合わせながらも、無理やり感やあざとさを感じさせない理由かもしれない。

また、メタルが持っている記号性やビジュアル面の特色(あるいはアーティストそれぞれの持っているイメージ)が、レシピにかなり面白い形で作用していることも重要だ。例えば、ごく普通のミートボールのトマト煮だって、ネーミングや小道具の使い方次第で、おどろおどろしいイメージを付与することが可能だし、「インゲン・マルメステーキ」のように「丸められた肉=元ネタとなったミュージシャンの体型」といったダブらせ方もできる。これが、例えば「パンクめし!」だったら、勢いで作る時短料理ばかり並びそうで実用書として微妙だし(分量は全部「適当」とか書いてあって、レシピの体を成していなさそうだし)、「演歌めし!」じゃ普通の小料理屋・居酒屋メニューになってしまいそうで面白くないし、「テクノめし!」はなんかケミカルで不味そうだ……。そう考えると、メタルであったからこそ、実用性・エンタメ性の両立するレシピ本が可能だったのではないだろうか。

さて、本書はレシピ本である。レシピ本である以上、作ってナンボ。というわけで、出戻りメタラー(私)は、『メタルめし!』片手に厨房に立った。

何を作るか迷ったが、最近ハンバーグを食べてなかったので、「ハンバーグ・アット・ザ・ムーン〜月見ホイル」を作ってみた。これはオジー・オズボーンの『Barks At The Moon(月に吠える)』が元ネタ。ホイル焼きハンバーグに市販のレトルトカレー(オジーは日本のカレー好き)をぶっかけ、うずらの目玉焼きを載せたもの。一見、オーソドックスなカレーハンバーグだが、材料のなかに、ひじょうに違和感あるものが混じっている。

「炊いたごはん」。

「どうせ米食うんだろ? じゃあ、最初から入れちまいな!」という発想だろうか。つなぎの役割なのだろうが、なんとも大胆である。年々太りやすくなっているため少々ひるんだが、「ええい、ままよ!」と作り始める。それにしても、すごいボリュームである。合挽き肉300g、玉ねぎ1/2、ご飯100gなので、ハンバーグだけで600g近い。ここにレトルトカレーが加わるから、トータルで800gに達する。しかも記載は「1人分」……恐るべし、メタルめし。ハンバーグ型に成形すると、案の定とんでもない大きさだ。叩いて空気を抜く時、大きすぎて何度も取り落としそうになる。「これ、普通に半分ずつにして、2個作った方がいいんじゃ……」という冷静な声が頭のどこかから聞こえてくるが、爆音でメタルを流しヘドバンするなどして、そんなヤボな考えは追い出そう。そうして苦労して焼いたハンバーグは、アルミホイルに載せてカレーをかけて包み、フライパンで蒸し焼きにする。カレーの銘柄は、さらなる過激さを追求するため、激辛レトルトカレー「LEE」の辛さ×20倍をチョイス。

と、ここで問題に直面する。
巨大ハンバーグは幅25cmのホイルにかろうじて収まりはしたものの、ここに液体(レトルトカレー)をかけたら、まず間違いなくホイルの外まで流れ出てしまう。でも、ここまでの行程でかなりワイルドな気分になっていた私は、「なるようになれ!」とぶっかけてしまった。残念な事態を覚悟していたが、これがなんと大丈夫だった。レシピでは「レトルトカレーを温める」という指示がなく、本当にそのままかけちゃっていいの?と不安だったのだが、温めないことによって液体の粘度が高いまま保たれ、カレーがハンバーグの上にとどまるのだ。これには興奮した。こういう体験があると、レシピ本とその著者に対する信頼が高まるというもの。

こうして完成したハンバーグは、完全に「肉の塊」で、すごい威圧感である。だが、その見た目の凶暴さに反して、味はたいへん優しく、ちょっとお子様ランチを思わせさえする(ちなみに、ご飯を切らしていたのでパスタと一緒に食べた)。これがギャップ萌えってやつか。ライブ会場でも、いかついルックスの人ほど優しかったりするからな。ただ、ボリュームに関してはまったく優しくないので、胃袋に自信のある方以外はご注意を(2〜3人分は余裕である)。

そして、この他に「スコットイアン風スピードロールキャベツ」「サバ酢・ブラッディ・サバ酢」の2品を作ってみた。12

前者は、アンスラックスのギタリスト、スコット・イアンが『Hellbent for Cooking:The Heavy Metal Cookbook』(洋書)という、先行する類書に提供したレシピをアレンジしたとおぼしき1品。ロールキャベツをジンジャーエールで煮込むのはオリジナル同様だが、種をポークウインナーにすることで行程を簡略化している。しかし、これはウインナーが弾けて、破壊されたエイリアンの卵のような状態になってしまい失敗。また、私には甘口すぎたので、ジンジャーエールを減らし、代わりにトマトジュースやホールトマト缶を入れるなどアレンジの余地もありそうだ(スパイスやハーブもちょっと欲しいかも)。

後者は、にんにくとブラックペッパーで臭みをとった塩サバを焼いて、トマトジュース、煮詰めたバルサミコ酢をかけたもの。メタルのレシピ本ということで、「ブラック・サバス→ブラック・サバ+酢」というネタは絶対あるだろうと踏んでいたが、〆サバ的な方向を思い描いていたため、バルサミコ酢には意表を突かれた。トマトジュースと煮詰めたバルサミコ酢はあわせず、前者は焼いたサバのまわりに、後者は焼いたサバの上にかける。トマトジュース、バルサミコ酢、サバの油が皿のなかで一体となり、赤黒い血を思わせるソースが完成する(ブラッディ!)。表面のカリカリが吸ったソースの旨み、そしてサバ自身の旨みとが相まって、今回ベストの出来ばえと相成った。

(辻本力)