ルイス・キャロル『不思議な国のアリス』(高橋康也・高橋迪訳、新書館)
NHK高校講座「ロンリのちから」では毎回終わりに、イギリスの作家、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のなかから、登場人物たちの交わすナンセンス(非論理的)な会話などを紹介している。キャロルは数学者・論理学者でもあっただけに、作品にも言葉遊びや論理ゲームが頻繁に登場するのだ。
アリスといえば、同番組の第2話では大場はるかが劇中劇でアリスに扮している。赤いフレームのメガネをかけた山崎紘菜のクールビューティぶりとあわせて必見である。

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*ペンギンは空を飛べない
*ペンギンは鳥
*だから鳥は空を飛べない

という文章を読んだとき、たいていの人は「何か変だ」と思うことだろう。
なぜ変なのか?
それは、「ペンギンは空を飛べない」も「ペンギンは鳥」というのも正しいのだが、「だから鳥は空を飛べない」という結論はあきらかに間違っているからだ。

この例文の形は、「三段論法」という推論方法の一つである。推論とは、前提から結論を導くこと。そのなかでも、2つの前提から結論を導く推論の仕方を三段論法と呼ぶ。

NHK高校講座「ロンリのちから」は、第1話で三段論法を「論理展開の基本」としてとりあげたのをはじめ、論理的思考の基礎を毎回、ドラマ仕立てで解説している。この4月からEテレで始まった同番組は、隔週火曜日に最新話が放送され、放送終了分は番組サイトで視聴が可能だ。

番組中のドラマの舞台は、とある学園の映像研究会。研究会の顧問らしき、緒川たまき扮する溝口先生は、先の例文がなぜおかしいのか、次のようにも説明している。

「この文章では、ペンギンという小さな一部から始めて、鳥という大きな全体のことを言ってしまったから、結論を間違ってしまった」

ここから、「部分から全体を判断すると、間違ったことを結論する可能性がある」「前提と結論が飛躍して、間違う危険性がある」といったことが生徒のセリフによって強調される。

第2話では、その「誤った前提・危険な飛躍」についてさらにくわしくとりあげる。「危険な飛躍」については、例としてこんな三段論法が登場する。

(前提1)あの塾は合格率が高い
(前提2)僕はあの塾に入る
(結論)だから、僕は必ず合格する

前提はけっして間違っていないものの、結論は怪しい。溝口先生いわく「多くの人が合格するというだけなのに、その多くの人のなかに勝手に自分を含めてしまって、受かった気になっている」、つまり、前提から結論が大きく飛躍してしまっているからだ。これを受けて、映像研究会の女子たちはこんなセリフを口にする。

「『そうならいいな』っていう気持ちが、『そうなんだ』っていう決めつけになっちゃうんだよね」
「本当に、日常には間違った推論があふれているのね」

まったくそのとおりで、いまの世の中、ネットも含め、いかにたくさんの間違った推論であふれ返っていることか。なかには、さももっともらしく伝わっているものもあるから、よけいに始末が悪い。番組タイトルに掲げられた「論理の力」とは、単に論理立てて物事を考えたり説明するだけでなく、そういった間違いを見破る力でもあるのだ。

「ロンリのちから」には、緒川たまきのほか、生徒役で山崎紘菜・植田慎一郎・大場はるからが出演。監修を、『入門!論理学』などの著書のある哲学者の野矢茂樹と、日本語学者で『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明が務める。番組は主に中高生の視聴者を想定してつくられているものの、論理的思考というのは社会のあらゆる場面で必要とされるものなので、大人が見ても勉強になること受け合いだ。

*「ロンリのちから」最新の第4話は「接続表現・ことばをつなぐ」というテーマで、きょう(5月27日)14時30分から放送予定(10分番組)。5月29日(木)深夜24:50と6月3日(火)14:30にも再放送あり。
(近藤正高)