ハッピーゲーマーが開発したスマートフォン用ゲームアプリ「脱出!人狼学園【人狼を学校から追い出そう!】」(元タイトルは「アッー!とホーム♂黙示録 人狼ゲームやらないか」)。人狼のルールをアレンジしたこのゲームは、「ゲイへの差別意識がある」と批判を受けた。「差別意識」を感じさせてしまうアレンジゲームは、このゲームだけにとどまらない……。

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テレビにも取り上げられ、メジャーになってきている「人狼ゲーム」。正式名称は「汝は人狼なりや?」というアナログパーティーゲーム。「村人」を襲う「人狼」を会話をもとに突きとめていくゲームだ(ルールの細かい説明は杉村啓さんの記事を参照のこと!)。
この基本ルールをアレンジしたさまざまなバリエーションの人狼が生まれている。「人狼」を「ドラキュラ」に変えたもの、「カイジ」「ダンガンロンパ」など商業作品設定とコラボしたもの、「量子人狼」「ヒトラー人狼」など独特の設定を使ったもの……もともとがシンプルなゲームなだけに、アレンジできる幅は広い。

けれど、その「アレンジ」がつい最近問題になった。
「アッー!とホーム♂黙示録 人狼ゲームやらないか」。開発元はハッピーゲーマー。スマホ用ゲームアプリで、AndroidとiOS配信が予定されていた。
アオリ文句は「ノンケvs人狼」。舞台は男子寮で、一人の生徒がアッー!される。犠牲者は口を閉ざしたまま学舎を去ったが、寮の中にはまだ他の生徒たちをアッー!しようとする「人の皮を被った狼」が潜んでいる。寮の一員になったプレイヤーは、ノンケと人狼を見分けて、人狼を排除する……。

「アッー!」というのは、ネットスラングの1つ。由来は諸説あるが、ゲイマンガかゲイビデオ(いわゆる「ホモネタ」)が元ネタだ。加えて、このゲームにはネット上で有名ないわゆる「ホモネタ」が多く使われていた。タイトルの「やらないか」は山川純一のマンガ「くそみそテクニック」のキャラクター阿部高和の台詞が元ネタだし、そのほかの登場するキャラクターも、ネット上で有名な「ホモネタ」の人物を模している。
このゲームに出てくる「人狼」は、ゲイのことを指しているーー明言されてはいないが、ネット文化をかじった人なら容易にそう連想できてしまう。ネットでは「ホモ人狼」と揶揄されていた。

このゲームは「ゲイへの差別意識がある」と激しい批判を受けた。無差別に男を襲うといった要素、「ノンケvs人狼」「人の皮を被った狼」などの表現などが問題視されてのことだ。
開発元のハッピーゲーマーは5月9日に「性差別を助長したり、性的少数者を差別する意図は全くございません」と謝罪。Android版は当初のまま12日に配信開始したが、15日にリジェクト。21日には「表現を大きく変更したリニューアル版」としてタイトルを「脱出!人狼学園【人狼を学校から追い出そう!】」に変更して再配信した。
しかし、リニューアル版の概要も、リニューアル前とほとんど変わっていない。「表現について」という項目で
【本作中の「アッー!」は、人狼に噛み付かれるといった意味合いの造語であり、それ以外の意味を何ら含んでおりません。また本アプリにはどのような社会的意図も含まれておらず、一般の娯楽作品と同様に差別等を助長するものではありません】
と注意しているのが大きな変更点か。けれど「アッー!」がすでにネット上で意味が定まっているスラングである以上、この言い訳は通用しない。

性(特にLGBT)に関する話題は問題になりやすい。任天堂の「トモダチコレクション」も大きな話題になった。
けれど、それ以外の差別意識、特に一般的に「強者」に分類される人に対する差別意識は、意外と表ざたになりにくいものだ。

同じく人狼のアレンジゲームで、5月22日に「オタク人狼カード〜リア充を探せ!〜」が発売された。このゲームは『となりの801ちゃん』の小島アジコがカードデザインをしたもので、「村人」を「オタク」、「人狼」を「リア充」と置き換えている。
リア充とは、「リアル(現実)が充実している人」を意味するネットスラング。ざっくりイメージすると、大学のテニスサークルで友達や恋人とワイワイしている人物とでもいえばいいだろうか。
「オタク人狼カード」は、オタクコミュニティに潜んだ「リア充」が、「オタク排除計画」を企んでいるという設定。彼らの嘘を見破り、コミュニティから追放するのが目的だ。
このゲームは、ネット上でかねがね好意的に受け入れられている。しかし、たとえばこれがもし「村人」が「リア充」で、「人狼」が「オタク」でだったら? リア充コミュニティに隠れたオタクを追放するという内容だったら、批判は避けられなかっただろう。
ネット上で「リア充叩き」はウケる。人を引き付ける強いフックにもなる。いわゆる「弱者」から「強者」への差別意識は気づかれにくい分、根深くグロテスクだ。

人狼は「魔女狩り」の要素も含んだゲームだ。ファンタジーの設定ならともかく、現実に落とし込んでアレンジすると、とたんに「異分子の排除」要素が目立ってしまう。全方面を意識することは難しくても、暴力的な一面を忘れないようにしなければならない。
(青柳美帆子)