エボラウイルスが西アフリカで拡散している理由「葬式の際に遺体に触れる風習」

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西アフリカで拡散し続けているエボラ出血熱。予防も対処もできず、生存率10%と聞いて恐怖を感じるひとが多いだろう。

世界中に広まったらどうなるのか? 確かに急増しているものの、幸いにも感染方法が限られているので、被害者は蚊に媒介されるマラリアの12万分の1に過ぎない。ウイルスの特徴と禁止事項を守れば、十分に予防できるのだ。

■伝染病を広める風習

エボラウイルスが体内に入ると、1週間程度の潜伏期間を経てから発熱や頭痛が始まる。それから2〜3日で急激に悪化し、口や鼻をはじめ、全身のいたるところから出血する場合があるのでエボラ出血熱と呼ばれている。残念ながら治療方法も特効薬もないため、ザイール型では10%、スーダン型では50%と生存率が低く、現時点では不治の病と表現できる。

恐ろしい病気なのは確かだが、爆発的に広がる可能性は少ない。感染者の血液/体液に触れなければ、うつる心配はほとんどないからだ。

エボラ出血熱の感染ルートをさかのぼると野生動物にたどり着き、それらに触れたり食べたりすることで人間にうつる。その後、感染者の血液や体液を通じてひとからひとに感染しているのだ。ただし、ちょっと触れただけでうつるわけではなく、ベタベタと触る濃厚接触や、傷口からウイルスが入るケースが多い。

そのため、手袋やゴーグルをしていればさほど恐れる必要はないのだが、西アフリカでは地域によって葬式の際に遺体に触れる風習があるため、感染が拡大しているのだ。

ニュースで大々的に報じられているのはなぜか? 例年と比べて急増しているのが理由で、世界保健機関(WHO)の資料によると、1976〜2002年の感染者数は約1,700人なのに対し、今年4月上旬には、ギニアとリベリアの2国だけで200人も被害が出ているからだ。

このペースが続けると年間800人にものぼる計算で、例年の約60人を10倍以上も上回ってしまう。WHOが「もっとも厳しい」状況とコメントしているのも、爆発的に感染者が増えているからだ。

■拡散力はインフルエンザ未満

エボラ出血熱よりコワい病気があるのか? 広がりやすさだけを比較すれば、毎年新型がやって来るインフルエンザや、蚊によって広まるマラリアのほうがはるかに危険だ。

厚生労働省の資料によると、せきやくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染で広まるインフルエンザは、日本だけでも毎年1,000万人近くが感染している。また、インフルエンザから別の病気に発展した場合も含めると、世界ではおよそ50万人が亡くなっているというから、被害者数はエボラ出血熱の比ではない。

さらに広まりやすいのがマラリアやチフスだ。マラリアは蚊が血を吸う際にうつすマラリア原虫によって起き、チフスはシラミによって感染することもあれば、飲食物からうつることもある。それぞれ世界の年間感染者数と死亡者数をあげると、

・マラリア … 3〜5億人 / 150〜270万人

・チフス … 1,700〜2,200万人 / 20〜60万人

と驚異的な感染力だ。日本ではチフスの予防接種は未承認だが、どちらも予防/治療薬が存在するのではるかに安全なはずだが、どんなに注意しても蚊やシラミにさされることがあるだろうし、まして飲食物に紛れ込んだ菌に気づくはずもない。

エボラ出血熱よりもはるかに予防しにくい病気は、身近なところにも多く存在するのだ。

■まとめ

・西アフリカで、エボラ出血熱が拡散中

・野生動物や、感染者の血液や体液に触れなければ、うつる心配はほとんどない

・日本のインフルエンザ感染者は、毎年1,000万人規模

・蚊によって広まるマラリアは、世界で3〜5億人の被害が出ている

エボラ出血熱は、インフルエンザよりも予防しやすいといえるだろう。

治療法がなく生存率も低いため、恐怖心をあおる報道が多いが、その地域の風習が拡散を後押ししていることもお忘れなく。

(関口 寿/ガリレオワークス)