フェイスブックの Oculus 買収から想定される 3 つのシナリオ
素晴らしい未来が待っているのか、それとも悲惨な運命を辿るのか?
フェイスブックは 20 億ドルを支払ってスタートアップ Oculus VR を買収し、次なるトレンドと目されるバーチャルリアリティー業界へと足を踏み入れた。Oculus VR が作ったバーチャルリアリティー・ヘッドセット「Oculus Rift」はまだ誕生から間もないが、既に世間から熱い注目を浴びている。「次なるトレンド」などと言うとそこらじゅうのプレスリリースで良く見かけるような胡散臭い意味合いにとられてしまいそうだが、これは本物だ。Oculus は単なる小手先の技術ではない。
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実際、Oculus VR のプラットフォームはあまりにも広大すぎるため、全体像を見渡すことが不可能なほどだ。Oculus Rift の持つ可能性は、実際に体験してみない限り、想像することすら難しいだろう。マーク・ザッカーバーグは実際に体験した。そして、会社ごと買ってしまったのだ。
今後、Oculus はどうなってしまうのだろうか?
シナリオ#1:豊富なリソースを得て、Oculus はさらなる繁栄を遂げる
フェイスブックはハードウェア企業ではない。ただし、マーク・ザッカーバーグ率いる経営陣たちは、常に同社が「モバイル・カンパニー」であることを強調している。火曜日に行われた Oculus 買収に関する電話取材において、ザッカーバーグはまるで熱狂的なファンのような信念を持って、バーチャルリアリティーこそ次世代のプラットフォームであるという自説を主張した。これは良い兆候である。
「モバイル界で我々は大変良い立ち位置を築けていると思いますし、日々それを実感しています。そして我々は、「視覚」こそが次なるプラットフォームだと思うのです」とザッカーバーグは語った。「次なるプラットフォームの候補だと思えるほどの技術は、そうそうあるものではありません」。
フェイスブックはこれまでにも WhatsApp や Instagram 等を買収してきたが、これらはみな防衛的な意味を持つものだった。しかし Oculus の買収は、次世代のコンピューティングに向けた攻めの一手だ。Instagram の時と同様、Oculus も設立当初からの熱烈なファンを多く抱えている。Instagram の信者たちは、Instagram に広告を入れないよう強く要望しており、買収後もフェイスブックを牽制し続けている。そしてフェイスブックは今のところ、Instagram を完全に独立したサービスとして運営している。
さて、まずは Oculus にとってベストなシナリオを考えてみよう。Oculus の設立者の一人であるパルマー・ラッキーが、徹夜して今回の買収に関する説明を Reddit 上で行っていたので、彼の話を以下にまとめてみた。
- 短期的な収益や株主の利益を気にしなくても良くなったので、正しい判断を下すことができるようになった。
- 映画や教育、コミュニケーションといった他分野の仕事も手掛けていくことになるが、我々の根本はゲームだ。ゲームのリソースが他に割かれることは一切ない。
- この取引のおかげで、Rift の価格を大幅に下げることができる。
- Oculus は引き続き独立した運営を行う!これまでと同様か、それ以上にインディーズ、デベロッパー、弊社のファンに対してフレンドリーであり続ける。
- Oculus Rift を使う際、毎回フェイスブック・アカウントへのログインを強要しないことを保障する。
- これまでのように携帯電話業界の払い下げに頼る必要がなくなり、独自のハードウェアを開発できるようになる。独自開発には、数億ドルもの莫大な費用がかかるのだ。
- むしろ、我々のハードウェアやソフトウェアはよりオープンなものになるだろう。これにはフェイスブックも同意している。
重要なポイントをあげてみよう。まず Rift が安くなること。それに投資家からの強いプレッシャーを感じていた Oculus がひとまずは開放されること。毎回フェイスブック・アカウントへのログインを強要されないこと(「毎回」、とわざわざ言うあたり、最初の一回は強要されるのかもしれない)。そして、Oculus はこれまで同社を支えてきたインディーズ・デベロッパー・コミュニティーを引き続きサポートしていくということ。もちろん彼らの方から離れていかなければ、の話だが。
基本的には、Oculus のチームは独立した状態で活動を続け、新たな人材とリソースを獲得して素晴らしいバーチャル・リアリティー製品を作り続ける(フェイスブックのためにではあるが)ということらしい。
Oculus のハードウェアやソフトウェアが今後もオープンであり続けるというのは少々信じがたい。だがフェイスブックは Open Compute Project のような、オープンソース・ソフトウェア・プロジェクトのようなやり方でサーバーを開発するという取り組みも行っているので、まったく不可能でもないのかもしれない。
シナリオ#2: Oculus はイノベーターを失う
Oculus Rift が短期間で進化を遂げる様を見守ってきた人にとって、フェイスブックによる買収はまさに悪夢だろう。Oculus が発表した最初のモデルはガムテープのようなもので留められた代物で、同社は稀に見る、向こう見ずでやんちゃなスタートアップだったのだ。
フェイスブックもかつてはやんちゃなスタートアップ(ハーバード大学の学生をやんちゃと呼んでいいものか分からないが)であったのだが、今では過去最高のグローバルなソーシャルメディア勢力として君臨している。「まだハッカーの心を忘れていない」と言ってはいるが、10年かけていつの間にか我々の生活に入り込み、あまり友好的とは言えないやり方で我々を支配下に置いてしまったような企業を信頼するのは難しい。この根本的な不信感こそが、Oculus のファン達を夜も眠れなくしている原因なのだ(ちょっとオーバーな表現だが、少なくとも買収直後は眠れなかっただろう)。
とにかく、これまではバーチャルを構想するオープンなプラットフォームだった Oculus も、今では大企業の意のままになってしまった。しかも相手はただの企業ではなく、我々の頭の中を覗き、欲しくもない商品の広告をばら撒くことで大金を稼いでいるような企業なのだ。実際、フェイスブックがどのように Oculus を経営していくつもりなのか、これまでの例からは想像もつかない。Instagram や WhatsApp、Parse もそれぞれ単体で機能する便利なツールだが、Oculus Rift の破壊的なポテンシャルとは比べ物にならないからだ。
もしかしたらフェイスブックは、Oculus という新しいオモチャを当分の間、触らず大切に取っておくかもしれない。しかしこうした長期戦略こそ、Oculus のファン達が一番警戒しているものなのである。もしもインディーズ・ゲームの開発者達が一致団結して離脱してしまったら一体どうなるだろう(Minecraft を作った伝説的なクリエイター、Notch は既に Oculus からの離脱を宣言している)。
このシナリオだと、オープンでコラボレーション可能なバーチャルリアリティー・プラットフォームの概念は消滅してしまう。何もゲーム開発者に限った話ではない。国中のあらゆる研究機関、例えば NASA でさえも、個人情報の売買で生計を立てるような企業と繋がってしまった Oculus を不安視して離れて行ってしまうかもしれないのだ。プライバシーに関する問題がある限り、教育や医療面における可能性も水泡に帰してしまうだろう。
シナリオ#3:Oculus は繁栄し、フェイスブックは広告を垂れ流す
2012 年、フェイスブックはモバイル分野で苦戦を強いられていた。iPad アプリの開発が大幅に遅れており、ザッカーバーグはついに、ネイティブ言語の代わりにまだ未熟だった HTML5 に重きを置き過ぎたことは「最大の過ち」だったと認めた。その後ザッカーバーグは舵を切り直し、今では同社の収入の 53 %をモバイルから得ている。ちなみに 2 年前にはその比率は 0% であった。フェイスブックは広告会社であり、たとえ今回の買収によって Oculus からは厳しい株主がいなくなったとしても、フェイスブックには沢山いるのだ。
繰り返すが、フェイスブックは広告会社である。前四半期の決算発表によると、2.59 億ドルの総収入のうち、2.34 億ドルを広告収入が占めている。フェイスブックはスマートフォンやタブレットなどのモバイル・プラットフォーム上にかつてないほどの人々を惹き付けており、そのおかげでこの業績を達成できたのだ。
人を惹き付ける技術といえば、Oculus Rift の提供する 360 度没入型のバーチャル環境も忘れてはならない。ちょっと想像してみよう。我々はバーチャルの煉獄で永遠に Candy Crush や Ville forever といった中毒性の高いゲームの虜となり、4次元の空間をふらつきながら衝動的に「いいね!」を送り合うのだ。
フェイスブックはハードウェアで儲けようとは思っていない(何度も言うようだが、同社はハードウェア企業ではなく、広告会社だ)。できるだけ多くの人の手に渡るように、ハードは限りなく安い価格でばら撒かれるに違いない。
ザッカーバーグ自身もこの買収を「ソフトウェアとサービスにまつわるもの」だと断言している。「人々はバーチャルな商品を買うようになるだろう、それから広告もまあ、予定はしてるけどまだ心配するには早いよ」、とかなんとか、濁した発言をしている。
確かにザッカーバーグの言うとおり、本格的な戦略は 5 年程先を見据えたものなのかもしれない。その間 Oculus は自身のデバイスに専念できるだろう。だが、史上最高の魅力を誇るこのプラットフォームが完成した暁には、フェイスブックの会計士たちが一斉に仕事に取り掛かるだろう。その時どうなるかが問題だ。
画像提供
Oculus Rift の画像:Sergey Galyonkin(Flickrより)
Facebook の画像:Taylor Hatmaker
Taylor Hatmaker
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