返済不能でも自宅を手放さないための交渉手順

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住宅ローンの返済が困難になった場合、住宅を売却しても住宅ローンを完済できなければ、最終的には、競売という形で住宅が処分され、退去しなければならない。

競売は裁判所が入札方式で購入者を募り、住宅を処分する方法だが、デメリットが多い。まず、市場価格の5〜7割程度でしか処分できないケースがほとんど。ただでさえ、売却しても住宅ローンが完済できないのに、処分価格が低くなってしまえば、その分、残債も増えてしまう。競売で住宅を失っても、この残債の免除はされないので、家を失ったうえに大きな負担が残ってしまうわけだ。

また、競売になると、ネット上に情報が公開されるし、落札した業者が購入者を募集するために隣近所にチラシを入れることも多い。返済が不能になったことや競売にかけられたことが周囲に知られてしまう可能性が高いのだ。

そうなれば、精神的な負担も大きいだろうし、知人の多い近所への引っ越しも抵抗があるに違いない。子どもがいれば、学校でいじめの対象にならないかなどの心配も生じてしまう。

このように競売には、多くのデメリットがあるが、それを回避しつつ、さらに、マイホームにそのまま住み続ける裏技がある。任意売却の利用だ。

任意売却とは、競売で処分される前に、市場価格に近い価格で住宅を処分する方法だ。金融機関の了承が必要だが、金融機関にとってもメリットが大きいので、認められる可能性が高い。

金融機関のメリットとしては、まず、競売の手間が省けるということがある。競売で処分するには、申し立て費用がかかるし、時間もかかるので、任意売却のほうがメリットが大きいといえる。また、競売よりも高い金額で処分できる可能性が高いので、金融機関にとっても確実に回収できる金額が増える。

任意売却後に残債があれば、競売と同様、住宅ローンの返済者に支払い義務はあるが、確実に回収できる金額が少しでも多いほうが金融機関にとってもうれしいというわけだ。

任意売却先は、住宅ローン返済者が自分で決めることもできる。金融機関の了承は必要だが、売却価格が妥当であれば、認められるケースは多い。

了承が得られた場合、親類縁者に買い主になってもらう方法がある。金銭的に余裕のある親類縁者がいれば、事情を話して、買い主になってもらい、そのまま、賃借人として住宅に住み続けることも可能だ。

もちろん、家賃の支払いは必要だが、引っ越し費用が不要であるし、これまでの生活を大きく変える必要がないというメリットは大きいだろう。

ただし、親類縁者といっても、突然、事情が変わることもある。購入後にまとまった資金が必要になれば、住宅を売却されてしまうかもしれない。そんな事態を避けるために、買い主とはよく相談し、賃借人として、住み続けることを事前に文書で取り決めておくことが重要だ。

また、数年後に収入が増える見込みがある場合などは、住宅を買い戻すことも可能だ。その場合にも、任意売却の際に、買い主と文書で取り決めをしておいたほうが安心。買い戻し価格などは、基本的には、当事者間での話し合いによって決める。

よって、スムーズに進めるためには、やはり買い主が近い存在であることが必要だ。買い主が遠い存在であれば、どうしても、心変わりするなどのリスクが付きまとう。できれば、成人した息子や娘、婿などが買い主になってくれれば、トラブルが起こる危険は少なくできるだろう。

(弁護士 加藤英男 構成=向山勇 図版作成=ライヴ・アート)