経営者が自殺する理由

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 経営に、資金繰りに行き詰まり、自ら命を絶つ。残念ながら、これはけっして珍しい話ではありません。だがその多くは、正しい知識があれば救えたかもしれない命なのです。
「会社のたたみ方」のプロフェッショナルに、その知識を学ぶ。それが、この連載のテーマです。
あなた自身は会社を経営していなくても、勤め先のボスが、取引先の社長が、もしかすると実家のお父さんが、今、たった一人で「命の危機」を迎えているかもしれません。
この連載であなたが学ぶ知識が、そのピンチを救うのです。

■社長、会社が死んでも、あなたは死にません

毎年、年間3万人近くが自殺し、特に60歳以上は1万人超が亡くなっています。会社借入に個人保証をつけた経営者が、会社の破綻とともに個人財産をも失い、失望した末に自ら命を絶つ、というケースをよく耳にします。

たしかに会社を潰すことは大きな問題があり、大きなストレスがかかりますが、社長の命までとられるわけではありません。ほとんどの経営者は、会社破綻後も経営者の生活再建が放棄されるわけではないという事実もご存知ないと思います。まずは事実を知ってください。会社が死んでも、あなたは死なないのです。まずは、会社が死んだあとに何が起こるのか、正確に知ってください。その上で、余計に状況を悪化させないような早めの対応を採り、間違っても自ら命を絶つようなことを避けてください。

■破産するには100万円はかかる

「会社が死ぬ」場合に、よく「破産する」と言います。「破産」は法的に会社の債務を整理することです。「破産」という響きのあまりの悪さに、「破産だけは避けたい」と経営者は十中八九、おっしゃいます。しかしながら、破産をするにもお金がかかるということをご存知ない方は多いのではないでしょうか。破産手続を取ることが可能な会社・経営者はまだマシな方で、本当に悲惨な経営者は破産手続すらとることができないのです。その一番多い理由がお金の問題です。裁判所へ納める予納金や弁護士費用など、破産手続のために必要とされる金額は、最低でもざっと100万円はかかると思っていただいたほうが良いと思います。

■破産しても99万円は握っていられる

破産手続を行えば、会社(法人)は消滅してなくなりますが、代表者個人は消えてなくなるわけではありません。個人の破産手続では、破産者の破産後の生活を保護するための法律の運用が行われているのが実態です。すなわち、破産したからといって、身ぐるみまで剥がされるわけではないのです。破産手続開始時よりも後に取得した財産、99万円までの現金、家具などの生活必需品や年金受給権など差押えが禁止されている財産があります。これらは自由財産と呼ばれ、破産後の生活に必要な財産として認められれば、その範囲が拡大されることもあります。

しかしながら、今後の生活のために必要な財産を残すことが認められているとはいっても、そもそも破産時点において自由財産がなければ意味がありません。タイミングを逸して会社を延命しようとすればするほど、銀行借入の返済、取引先への支払などを、個人資産を切り崩すことによって支払うことが多くなります。結果として手元に残る財産が目減りしていくわけです。

これを防ぐには、例えば、事前に自動車や貴金属などを現金化して自由財産として確保しておき、個人財産での会社債務の支払いをしないなどの措置が必要です。こうした措置を実行する場合には、弁護士に相談のうえ、手順を誤らないことも重要です。こうした事前措置なしでは、破産手続の際に破産管財人を通じて経営者の個人財産を処分されてしまい、結局、破産手続後には手元にほとんど何も残らず、人生のリスタートを切ることが困難な状況となってしまうこともあります。要するに、病気の治療と同様、専門家と一緒に早期に対処法を考えることが一番大切な事なのです。

文=大原達朗
公認会計士・税理士・JMAA認定M&Aアドバイザー。アルテパートナーズ株式会社代表取締役。アルテ監査法人代表社員。日本M&Aアドバイザー協会理事。BBT大学講師。
企画協力=村井淳也
弁護士・公認会計士。現・新日本有限責任監査法人、弁護士法人役員等を経て、アルテ総合法律事務所設立。法律と会計の資格を活かし、企業再生分野を中心に活動中。
企画協力=渡邉 諭
弁護士。都内大手弁護士法人の役員を経て、アルテ総合法律事務所パートナー就任。専門は企業間取引における予防法務・債権保全・回収、企業再生その他企業法務全般。

(文=大原達朗(アルテパートナーズ代表、公認会計士) 企画協力=アルテ総合法律事務所(村井淳也・弁護士/渡邉 論・弁護士))