シンガポールに統括会社を置くメリット

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内需縮小にともない、アジアへのシフトを進めている日本企業に必ず検討してほしいのが、シンガポールに地域統括会社を設けることだ。

日本の本社から直接投資を行うのではなく、地域統括会社を設置する意義は、事業展開における実質的な部分と、財務・税務面での効率性向上という2つの側面がある。

まず、事業展開の側面から説明しよう。複数の海外子会社を統括する拠点を設置し、商流の管理、経営の統括、情報の収集を行うことによって、現地でビジネス上の意思決定を迅速に行うことが可能になる。

加えて、複数の海外子会社の法務、人事、財務、コンプラ等のバックオフィス機能を持たせることによって、アジア全域における経営の効率化を図ることができる。

シンガポールは地理的にもアジアの中心に位置し、交通・通信インフラが最も整備されたアジア各地の情報拠点となっており、バックオフィス機能を置くのに最も適した場所であるといえよう。

さらに税務上の効率性の面でも大きな意味を持つ。

シンガポールの法人実効税率は17%。さらに部分免除制度、その他各種の税務インセンティブが用意されている。さらに、国外企業が享受できるメリットは、主に以下の通りである。

■メリット1

シンガポールにはキャピタルゲイン課税制度がなく、多くの国との間で強力な租税条約を締結している。

例えば、日本の本社がインドの子会社の株式を1年超の間直接保有していた場合、その株式を売却すると、インドにおいて21.12%(1年未満保有なら42.23%)もの法人税を、さらに日本においても法人税を支払うこととなる(一定の条件で外税控除)。

他方、シンガポールの統括会社を介してインド社を保有していた場合は、インドに支払う税金はゼロ。さらに、キャピタルゲイン課税がないシンガポールにおいても、同様にゼロとなる。シンガポールが租税条約を締結している国は、インドをはじめ70カ国近くと、香港に比べて圧倒的に多い。

■メリット2

海外子会社からの各種の受け取りへの課税が非常に有利だ。日本の本社がインドなどの子会社株式を直接保有していた場合、

●配当の受け取り:一定の条件で95%のみ非課税
●金利の受け取り:税率約40%
●管理料の受け取り:税率約40%

これに対し、シンガポール統括会社を介してインド子会社などの株式を保有していた場合、

●配当の受け取り:一定の条件で100%非課税
●金利の受け取り:税率約17%
●管理料の受け取り:一定の条件で100%非課税

と断然有利である。

■メリット3

2010年の日本の税制改正によってタックスヘイブン対策税制が改正され、持ち株会社が2つ以上の製造会社・販売会社に対して統括業務を行う場合、一定の要件を満たせば、統括会社は事業基準にタックスヘイブン対策税制の適用を除外され、合算課税を回避できることとなった(=子会社の利益が課税対象額に加算されない)。詳細は略すが、シンガポールに2つ以上の拠点を持ち、かつ一定の条件を満たした場合、外国子会社合算税制の適用除外を受けることができるようになった。このようにアジアにおいて多面的に展開を行っていく企業は「統括会社」として、合算課税を免れることが可能となっている。

以上のような恩恵を得られることを踏まえ、これからアジアを目指す企業には、日本からの直接投資ではなく、シンガポールを通じた投資スキーム、事業展開を推奨したい。

(ラジャ・タン法律事務所 弁護士 栗田哲郎 撮影=坂本道浩)