タイのチェンマイにある、ワット・プラタート・ドイ・ステープでの瞑想(迷走?)修行。年に一度のブッダデイがあり、この日は満月。

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タイ・チェンマイには世界各地からの訪問者を受け入れる瞑想寺が数多くあり、たくさんの人が瞑想コースに参加するというので体験してきた。きっかけは『中国でお尻を手術。遊牧夫婦アジアを行く』(近藤雄生著)を読んだこと。「ワット・プラタート・ドイ・ステープ」の瞑想体験談が強烈に心に残り、いつかは訪れたいと思っていたのだ。

同寺院はガイドブックにも掲載されている有名な寺だ。英語で受けられる瞑想コースがあり、参加者は年々増え続け年間500人以上が訪れる。イギリスやドイツなどヨーロッパ・北米などの参加者が9割以上、1割弱がアジアからの参加者だという。時期にもよるが、私が滞在した時は約40室ある部屋が35室埋まっていて、一杯だと滞在を断られることがあるほどの人気ぶりだった。

同コースには5つの禁止事項がある。

 1.本を読まない
 2.化粧はしない(すっぴん!)
 3.禁煙・禁酒
 4.音楽禁止
 5.誰とも話さない

参加者は3日、5日、7日、10日、21日間のコースを選ぶ。「昼の12時以降は一切食べ物が食べられず晩御飯はない」と、近藤氏の本に書いてあったので、私は参加前から空腹状態を想像し3日にしようか迷ったが、気合を入れて5日間を選択。行くと決めたら「断食道場みたいに痩せられるかも!」などと浮かれ気分で参加したが、結果的には「話してはいけない」のが非常に辛かった。

予約時に、上下白の衣装を3セット持ってくるようにと言われ、「皆が白い服を着るなんて、見た目が怪しそうだな……」と思ったが、仏陀に敬意を表し汚れなき姿で祈るのが理由の一つなのだとか。慣れてくると白い服が気分を一新してくれるような働きがあるように思えた。

1日のスケジュールは、朝5時に起きて身支度を整え、1時間ほど僧侶の説法を聞く。人の言動に振り回されず、余計な心配をしないように心を保つ方法や、愛情、幸せについてなど、日常生活に取り入れ役立ちそうなアドバイスに、18歳〜70代の参加者までが「なるほど」と深く頷いていたのが印象的だった。

食事はすべてベジタリアン料理。午前7時の朝食、11時の昼食以外は、数箇所ある広い道場で各自瞑想する。日本で瞑想というと、以前、宙を飛んだり……というような怪しい行動がクローズアップされたこともあり違和感がある人も多いかもしれないが、北米などでは「メディテーションは買ってでもする」というほど、自分を見つめ直す方法として日々実践している人が多いという。

私のような初心者は、まず立って歩く方法と座る方法からスタートする。上級者になると道場に寝転がって、まるで昼寝のような瞑想をしている人もいた。歩きながら瞑想って一体?!と疑問だらけだったが、ただ歩く時に、「(右足を)前に出す」「下ろす」、次は「(左足を)あげる」「前に出す」というように、体の細部の動きに神経を集中させる。歩きながら心を無にしようとしても、「顔が痒い」やら「お腹すいた」などと思考が働き始めるが、それをそのまま受け入れ「(痒いと)感じた」と頭の中で3度唱え雑念の存在を認識するのがポイント。それから自分の呼吸に意識を戻す。そうやって訓練を続ければ雑念を追い払えるようになるという。本当だろうか?と疑いつつ、初日は10分歩いて10分座る瞑想を繰り返した。

習慣とは恐ろしいもので、夜7時になるとお腹がすいて全く集中できない。「あのカーペットのシミは何や」「あの鳥の声は?」など、初日は雑念や妄想に支配され続けた。「女性に触れてはいけない」「柔らかい布団の上で寝ない」など227の厳しい戒律を守り続ける僧侶への初日のレポートは、「お腹が減って集中できないんです」という何ともトンチンカンなものだったが、僧侶は「皆、最初はそうですよ」と微笑んだ。そして、呼吸に集中して余計な考えを手放す方法を丁寧に教えてくれた。

一度、食堂で一緒になった参加者とコソコソと話してしまい僧侶に注意される……という失態をおかし反省したが、最後まで間食をすることもなく(お菓子をたくさん忍ばせていた)襲ってくる「お腹がすいた」という雑念と戦いながら5日間を終えた。最終日は、もっと滞在して僧侶の説法を聞きたいと思うほどここの生活が気に入ったが、10日以上参加している人たちは訓練時間も増え辛そうにもみえた。

同寺院では、すべてが自己責任。説法の時間などは用意されているが聞きたくなければ聞く必要はなく、瞑想をせずに部屋で自由に過ごしても何も言われない。大自然の中で個室が与えられ、聞こえるのは鳥の鳴き声だけ。喧騒から離れリラックスした環境に身を置くことができたのは貴重な経験だった。

さて、私はこの5日間で雑念をコントロールできるようになったのか?という問いには「まだ雑念だらけだが、余計なことを長く考えなくなった」と答えたい。終了後、14日間参加した人たちに感想を聞くと「自分自身を知るいい機会になった」「何か作業をする時にほかの事を考えていたが、今は集中して取り組める」「気持ちが穏やかになった」ということだった。そして、どうでもいい話で恐縮だが、早寝早起き、規則正しい食生活で2キロ痩せた(嬉しい)。ここに全ては書ききれないのが残念だが、制限がある中で心も体もリフレッシュした至福の5日間だった。次回は21日間に挑戦か!?
(山下敦子)