超新星漫画家の小山健さん。『女の人の裸をはじめて見た話』の漫画が話題に。会社を辞めて、漫画を描き続ける日々だったため、奥さまには頭が上がらないそうだ

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ここ2〜3ヶ月でブログのアクセス数が60倍になった超新人漫画家がいる。名前は小山健さん。ご自身のブログに掲載していた漫画が話題となり、早くも単行本の話が数社から出ている。嬉しい出来事の鍵を握ったことの一つは『女の人の裸をはじめて見た話』の漫画にあるようだ。早速、お話を伺いに、大阪の小山さんの元を訪ねた。

――小山さんの漫画は、絵がほんわかしてるかと思いきや、内容はある事柄の核心をついてたりして、面白いですね〜〜!ブログの反響もすごいみたいで。
「元々、1日に500アクセスくらいだったんですけど、ここ2〜3ヶ月ほどで60倍になったんです。もちろん、日によって多少の増減はありますが」

――60倍ですか!!これまたなぜ?
「昨年の12月にブログに掲載した『女の人の裸をはじめて見た話』の漫画がおかげさまで好評だったようで。簡単にいってしまうと、文字通り、女性の裸を初めて見た学生の話で、女性の裸は綺麗だという話なんです。男女問わず、共感していただいた方が多かったです」

実は糸井重里さんもご覧になられたらしく、ツイッターで『この漫画、面白い』とつぶやいてらしたそうだ。糸井さんとは全く面識がなかったそうで「まさか読んでくださっていたとは思わなかったので、嬉しくてお礼を言わせていただきました」(小山さん)とのこと。

とにもかくにも、『女の人の裸をはじめて見た話』がきっかけで、小山さんの漫画のファンが急増していったそうだ。連載が決定し、単行本の話も3社からきているとのこと。

――小山さんの漫画の特徴を一言で説明するとしたら??
「そうですね。人々の赤裸々な気持ちを漫画にしているという感じですかね?」

ちなみに、小山さんが影響を受けた漫画は、『ファミコン通信』に連載されていた桜玉吉先生の「しあわせのかたち」(1986〜1994連載)だそうだ。
「覚えている人がいたら嬉しいですけど」

――漫画の内容はどういうふうに考えていますか?
「普段、何かを思いついた時や、クスッと笑ったことがあった時などにメモしておきます。その中に『まずはこのシーンを描きたい』というものが浮かんできて、そのシーンさえあればオチが浮かぶようになります」

――ひょっとして、小山さんは漫画を描くのが速い?
「めっちゃ速いです」

おお!
絵を描くのが速いなんて、うらやましいではないか。
小山さんの絵は、ある意味、非常にシンプルだけど味があって、読んでいても、テンポが良い。

●奥さまの機嫌について

実は、小山さんにお会いするまでは、ブログの一部の内容からして、「ひょっとして凶暴な方なのではないか」と思ってドキドキしていたが、むしろその真反対。非常に柔らかい雰囲気の方なのであった。そんな小山さんご自身について迫ってみた。

小山さんは、元々、絵を描くことが大好きで、絵の専門学校に通っていたという。その後、印刷会社で働きつつ、仕事の合間に四コマ漫画を描いてはブログにアップするという生活が続いていた。
「あまり大きい声では言えないんですけど、働きながらも『自分はこの仕事に向いてないんじゃないか』って思ってたんです(苦笑)。やっぱり、絵とデザインは違ってて、『デザインの仕事って、難しいな〜』って思ってました」

24歳の頃に会社を辞めて、漫画の道を進む決断をした小山さん。その後、会社員時代から知り合っていた奥様と結婚。

――この質問は漫画とは関係ありませんが、未婚の野次馬の一人として気になるので、敢えてお聞きしますが、結婚のきかっけは?
「知り合ったのは、アートイベントに出店している奥さんに、僕が声をかけたのがきっかけです。結婚は奥さん側のプッシュがかなり強くて、じゃあ…といった感じだったこともあって、プロポーズはしていません」

素敵なお話ではないか。
しかし、一つ気になることがある。奥様は、小山さんが会社を辞めたことについて、どう思っていたのだろうか?
「僕が会社を辞める時は『できれば会社員の方がいいんじゃない?』と不安がっていましたけど、実際に辞めてからは、『あとはやりたいようにやれば』という感じでした」

そう!
会社を辞めた以上は、引き下がれないのである!

その後は、知り合いに誘われて似顔絵を描く仕事をしながら、自分の漫画を描いてはブログにアップしていたという。
「大阪って狭いので、色々な個展にいったりすると、そこで出会った方から『読んでるよ〜』って言ってもらえることがあるんです。僕は『ブログで漫画を描いてるヤツ』っていう感じだったけど、そうやって声をかけてもらえるのが嬉しくて、続けていたところもありますね」

会社を辞めてから仕事が急に増え始めるまでの月日は、約4年。

――仕事が増えて、何か変わってきました?
「奥さんの機嫌が良くなりましたね(笑)」

実は、奥様も絵を描いてらっしゃる方だそうだ。同じ創作家同士だから、理解できる部分もあったんじゃないかと思うところであるが、普通に考えれば毎月の給料が入ってこなくなるのだから、リスクはでかい。

――小山さんは、不安じゃなかったですか?
「いや、それが『果報は寝て待て』じゃないけど、『なんとかなるんじゃないかな〜』と思ってました(笑)。それに、僕の漫画を僕が憧れている方々に面白がっていただいてたので、それが嬉しくて…」

そのうちの一人は「かんさい絵ことば辞典」(ピエブックス)のイラストでおなじみの、ニシワキタダシさんだそうだ。
「仲良くしていただいていて、『笑ってもらえたら嬉しいな〜』という思いで描いてました。もちろん、まわりの友達も笑ってくれたらと思ってましたよ」

しかし!
いくら漫画を描くのが好きといっても、スランプはあるのではないだろうか?
――ネタが浮かばない時はどうしてますか?
「思い浮かばない時は描きません。 描かなきゃいけない仕事の時は、モスバーガーに行きます」

つまり、締め切り前で切羽詰っている時は「なんとかする」ということだ。モスバーガーで小山さんを見かけたら、それはピンチの時かもしれない。その時は、そっと、影から見守りたいものである。

――今後はどういった内容の漫画を…?
「毒があるものやシニカルなものも描いてきたけど、例えば『アメトーーク』で好きなものを好きだと紹介するのと同じように、『○○って、良いよな〜』とか『○○って、面白いね』っていうことも描いていきたいって思ってます」

――プロの漫画家を夢見て、ネット等で漫画を公開している人がたくさんいますが、そういう皆さんに何かメッセージを。
「メッセージといっても、この世界は厳しいし、僕も1ヶ月先とか、2ヶ月先はどうなるかわかりませんから(汗)。そもそも、今までも、続けようと思って続けてきたという意識は全くないんです。自分が漫画を描くことが好きで、面白がってくれる人がいるから描いてきただけです。だから、『辞めないように頑張りましょう』っていうメッセージを送るのも、僕の場合はちょっと違うかなと思います」

なんだか、非常にほんわかとしたお話で、小山さんご自身もどこか謙虚なのであった。好きななものを好きと表現するような漫画…おそらく、奥様は小山さんのそんな素敵なセンスが花開くことを、見抜いていたのだろう。(取材・文/やきそばかおる)

小山さんの漫画はコチラでも
●ブログ「手足をのばしてパタパタする」
http://mimachigai.exblog.jp/

●連載中
『MacPeople』(アスキーメディアワークス)
「LEGENDジョブズくん」

ほか、多数の書籍に漫画やイラストを描いている他、ご自身でもワークショップを開催。