日本にも輸出されている、ドイツ生まれの二階建て観光バス。
車体のイラストを見ただけで、どこの町で撮影した画像かおわかりの方は、ドイツ通。

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ドイツの路線バスに乗っていると、日本では考えられない光景に出くわすことが多々あります。前回に引き続き、強気の運転手さんのエピソードをお届けします。

■ 車内アナウンスで吠える運転手

通勤、通学客でごった返す、早朝の路線バス。日本のラッシュアワーほどではないにしても、真冬のコートで着ぶくれしているのせいもあり、肩と肩がぶつかり合うほどの混雑ぶり。路線バスの車窓は、開かない構造になっていることが多いため、湿気で曇った窓のせいで、外の風景もぼんやり映る程度。

バス車両には複数のドアが設置されているものの、日本のように、乗車用ドアと降車用ドアが区分されていないため、停留所に停まるたび、ドア付近は乗降客でごったがえします。「降りる客が先」という暗黙のルールを守らず、我先に乗り込もうとする乗客もいて、一悶着が起きることもしばしば。バスを降りようとする乗客の波をかき分けるようにして、強引にバスに乗り込んでいった小学生のランドセルを、背後から無言でわしづかみにして、そのままバスの外に引きずり降ろしたおじいさんを、以前見かけたことがあります。ちなみにその小学生、おじいさんをにらみ返すかと思いきや、あっけにとられてポカンと口を開けていましたっけ。

さて、早朝ラッシュアワーのバスの中、「ドアが開閉する際に危険ですので、ドア付近には立たず、車内の奥に入って下さい!」と、繰り返しアナウンスする運転手。乗降時に、開いたドアが車内側に入り込む構造になっているため、ドアに接触してケガをする危険を回避するためにも、このアナウンスの意味はよくわかります。その一方で、かなりの混み具合のために、仕方なくドア付近に立たざるを得なかった乗客もいたはずです。
その後も、「ドア付近には立たないで下さい」のアナウンスが幾度となくくり返されましたが、ドア付近の乗客が車内奥の方に移動する気配はないまま、バスは走り続けました。

しばらくすると、ついに運転手の堪忍袋の尾が切れたと見えて、こんなアナウンスが聞こえてきました。

「後ろのドアの前に立っている、◯色のジャケットの男の方! それから、◯色のコートの女の方! ドアから離れて下さいというアナウンスが聞こえませんでしたか?」

なんとまあ、お客さま個人を名指し(したに等しい)アナウンス!
自分が今朝、出がけに羽織ってきたジャケットやコートの色くらい、まだはっきり記憶しているだろうに、ドア付近の乗客が、一斉に下を向いて自分の着衣の色を確認する仕草には、思わず吹き出しそうになりました。あの瞬間の画像を、このコネタに添えられたらどんなに良かったことか。

やがて、「どうやら、注意されたのは自分らしい」ことを悟った男性客と女性客は、こんな形でご指名アナウンスされるとは思っていなかったのか、即座にピョンとドアから一歩離れたことは、言うまでもありません。

普段から、「このバスのルールは自分」とばかりの強気ぶりが目につくバスの運転手ですが、今回のように、あくまで安全走行のために講じた処置となれば、まさに鬼に金棒。強気の運転手が吠えた強気の車内アナウンス。その効き目も千人力の効果でありました。
(柴山香)