LCCらしさを感じさせないスクートのエコノミー席。

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日本でもLCCがポピュラーになってきた。

LCCとは、ローコストキャリアと呼ばれる格安航空会社のこと。機内食や毛布などのサービスが有料だったり、シートが狭かったり、遅延や欠航のリスクが大きかったり……といった大手航空会社との違いはあるが、とにかく圧倒的な安さが魅力だ。

私自身、以前、ある日系LCCのセールで1円航空券をゲットしたことがある。手数料含めても数百円。さすがにそれはキャンペーン用の破格な安値だが、通常でもLCCの運賃は大手の3分の1から半額程度。空の旅もだいぶ身近になったものだ。

国際線も含めると、日本にはすでに10数社のLCCが乗り入れているが、その1つである「スクート」が、先日おこなわれた世界LCC会議・アジア太平洋2013で、「ベストLCCオブ・ザ・イヤー2012」に選ばれた。

派手な宣伝をしていないせいか、日本での知名度はまだそれほど高くないが、着実に存在感を増しつつあるスクート。シンガポールを拠点とするLCCで、あのシンガポール航空の100%子会社だ。

ちなみにスクートとは、英語で「さっと動く、でかける」といった意味。愛称ではなく、これが会社の正式名称だというから、なんだかカワイイ。現在のところ、日本路線は成田から台北を経由してシンガポールまで、1日1往復運航している。

日本には2012年10月末に就航したばかり。そもそも会社設立も2011年とごく最近。2012年6月にオーストラリア便を初就航させてから1年も経たないうちにベストLCCに選ばれたのは驚きだが、すでに300人以上のスタッフを雇い、4機の機材を保有しながら、9都市に就航。全線のロードファクター(有償座席利用率)が80%にのぼるなど、そのめざましい成長が評価された。

そんなアジア太平洋のベストLCC。いったい、どんな乗り心地なのか? 実際に、東京から台北経由でシンガポールまで飛んでみた。

フライト当日はちょうど旧正月が終わるタイミングとあって、成田―台北線は満員御礼の盛況ぶり。家族連れも多く、チェックインも長蛇の列。機内はさぞ窮屈だろうと覚悟していたのだが、乗ってみると拍子抜け。たしかに満席ではあるものの、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている感はなく、いたって普通の乗り心地だった。

一般的に、LCCは短距離路線をカバーすることが多く、小型機が主流。だが、スクートは4〜8時間程度の中長距離路線をターゲットにしているため、ボーイングB777-200という大型機を使っている。座席は、32席のスクートビズ(※プレミアムエコノミーに相当)と370席のエコノミーを合わせた全402席。3-4-3のシート配列は大手航空会社の国内線と同じというから、それほど狭く感じなかったのも当然かも。

機内はスクートのシンボルカラーである黄色がシートやカーテンに配され、ポップで明るい雰囲気。キャビンアテンダンドのもてなしも、フレンドリーながらスマートで心地よい。同社のキャンベル・ウィルソンCEOいわく、「採用にあたっては人間性を最も重視した」そう。人柄の良さが外見にも表れているのか、カワイイ人が多く、ボディコンシャス風な制服がよく似合っていた。

機内食は予約時にオーダーした方が安いが、機内でも注文可能。ただ、1度ホットミールを頼んだら「温めるのに30分かかる」といわれたので、頼むなら早めがよさそう。事前予約をすれば、日本路線の「スキヤキ」やオーストラリア路線の「ミートパイ」といったご当地メニューも味わえる。

機内エンターテインメントは、アジアの航空会社としては初の機内ストリームによる「ScooTV」で、映画やテレビプログラムを楽しめる。WiFi機能をもつラップトップや携帯なら乗客自身の端末でもOKだ。

ところで、スクートに限らず、LCCでは基本的にサービスはすべて有料だ。食事も毛布も機内エンターテインメントも、求めれば追加料金が発生する。だがこれは言い方を変えれば、必要なものを自分で取捨選択できる自由が与えられているということ。不要なサービスへお金を払う必要がなく、それが料金に還元されている。

座席もしかり。スクートでは、プレミアムエコノミーに相当する「スクートビズ」に加え、エコノミーにも一般シートのほかに、少しゆとりのある「スーパー」と最前列の「ストレッチ」というカテゴリがある。復路はスクートビズにも乗ってみたのだが、リクライニングも深く、ヘッドレストやフットレストもあって、かなり快適だった。

利用したフライトはすべてオンタイムだったし、搭乗にもバスやタラップではなくボーディングブリッジを使っていたから、あらかじめ機内食や機内エンターテインメントを注文していた便では、「LCCに乗っている」と意識するシーンはほとんどなかった気がする。もちろん細かいことをいえば、シートのデザイン、映画のバラエティ、機内食の品数など、大手に比べて物足りないところがないわけではないが、「スクート」という社名のとおり、さっと出かける手軽な個人旅行との親和性は高い。

運賃は時期や予約タイミング、セールの有無によって幅があるが、成田から台北までならだいたい、片道1万円前後〜、シンガポールまでは片道2万円前後〜。今回、行きはシンガポールまで一気に飛び、帰りは台北にも立ち寄った。LCCの場合、航空券は片道ずつ、1路線ずつ購入できるので、このような2都市周遊の計画が立てやすいのもメリット。途中で立ち寄ることで多少割高にはなるものの、シンガポールと台北というアジアの人気2都市を一度に周るのは想像していた以上におもしろかった。

すでに世間的にもLCCが単純に安かろう、悪かろうではないという認識は広まりつつあると思うが、それを改めて感じたフライトだった。同社のロゴに書かれた「Get Outta Here」(さあ、出かけよう!)というキャッチフレーズのように、とりあえずどこかに飛んでみるのも悪くないのでは。
(古屋江美子)

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