路線番号が表示されるはずの窓に、コーヒーカップのイラスト。このバスの運転手さんが、休憩中であるというサインです。

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ドイツの路線バスに乗っていると、日本では考えられない光景に出くわすことが多々あります。このエピソードを今回は乗客の少年と運転手に焦点を当ててお話します。

■ マナーが良いのか悪いのか、よくわからない少年の話

平日昼下がりの路線バス内でのこと。下校途中らしき男の子2人が、ゲーム機から顔も上げずにバスに乗りこんできました。2人は、ドアに最も近いボックス席にするりと腰を下ろすと、向かい合わせのシートに靴のままドスンと両足をのせ、引き続きゲームに没頭の様子。時折、「やった!」とか「ちぇ!」という類いの感嘆語をつぶやいています。少年たちが座った場所は、4人がけのシルバーシートでしたが、他にいくつも座席が空いているため、別段気に留める人もいません。

その後、停留所をいくつか過ぎたところで、杖をついたおばあさんが乗り込んできました。相変わらず空席が目立つ状態なので、このおばあさんも好きな座席を選べたはず……なのですが、ゲームに没頭していたはずの少年のひとりが、何を思ったのかすくっと席を立ち、ドアから遠い席に移動しました。そして、それにつられるかのように、もうひとりの少年もシルバーシートから離れました。「おばあさん、ここへどうぞ」的なひと言を発するわけでもなく、ただ無言のまま座席を移動しただけ。そのおばあさん、ほっとしたように、たった今空いたばかりのシルバーシートに腰を下ろしました。

向い側の座席に土足をのせるという行儀の悪さを露呈したかと思いきや、年配者のために席を空ける心得もあるようで、この少年たち、公共マナーが良いのか悪いのかよくわかりません。どうせ席を譲るなら、靴をのせていたシートをサッサッときれいにしてくれていたら、感動の度合いが高かったのですが、そこまでするくらいなら、最初から土足をあげることもないですね。

■ 親切なのか不親切なのか、よくわからない運転手の話

バス停を目指して歩いている途中、一台のバスが接近してきているのが見えたので、あわてて猛ダッシュ。ところが、停留所にたどり着いた時には、そのバスがまさに停留所から走り出さんとしていたところ。やっぱりダメだった……と諦めかけた私の姿が側面ミラーに小さく写ったのか、何とバスのドアが再度開きました。なんて親切な運転手さん!

ああ、運が良かった、間に合って助かったと、ほっとして座席についたのもつかの間、車内の路線表示を見てガッカリ。運悪く、1時間にわずか1本しか運行していない準急バスに飛び乗ってしまったのです。準急バスは、私が降りたい停留所には停車しないはず。わざわざドアまで開けて乗せてもらったというのに、このバスをすぐに降りねばなりません。

このまま次の停留所で降車してまうのでは、運転手さんに申し訳ないと思い、あえて運転手さんに尋ねてみることにしました。「すみませんが、このバス、◯◯停留所には停まりませんよね?」。答えは当然、「停まりません」。
乗り遅れかけた乗客に救いの手を差し伸べてくれるくらい、思いやりにあふれた運転手さんであるはずなのに、「停まりません」の口調が不機嫌でぶっきらぼうだったのが気にかかりましたが、これで、私が停留所たったひとつ乗っただけで降りる理由をわかってもらえたはず。とりあえずひと安心です。

間もなく、次の停留所に到着。運転席すぐ横のドアから降りようとする私の背中越しに、思いやりにあふれていたはずの運転手さんがかけてくれた一言が、
「停留所たったひとつだけで降りるなら、最初から乗る必要なかっただろ!」

ドイツの路線バス、日本人にとっては色々と発見がありそうです。
(柴山香)