もう、無職じゃない!

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合コンとか同窓会とか、まぁ様々な場所で色んな人と対面するじゃないですか。その際、憚られることがある。ぶっちゃけ、「ライターをやっています」と言いづらいのだ。なんか、ムズ痒い。そんな胸張って言えるほどの域に達しているのか? と、後ろめたさもある。個人的には、厄介なくだりです。

なるほど。このくだりを苦手に思う人は、世の中に多いらしい。2012年、下北沢にて誕生した「劇団ほぼ無職」の発足の経緯は、以下である。
「『お仕事何されてるんですか?』、『……無職です』と言うのが恥ずかしい人たちのために、お金がかからないなんちゃって劇団を作りました」(同劇団ブログから)

この劇団を主宰しているのは、以前コネタで紹介した「無職FES」代表のいわいゆうき氏。
「無職FESは、『次が決まっていなくてもクヨクヨしなくていいよ』というメッセージを込めたイベントでした。ただ、初対面の人に『無職です』と打ち明けるのに躊躇を感じる人が多いのも事実です」(いわい氏)
そんな感情を乗り越え、全てを受け入れる方向性もあるはある。でも、それって結構なハードルですよね。
「そこで『劇団員です』と言えるよう、架空会社のような意味合いで劇団を起ち上げました。夢を追っているから職に就いていないという“フリ”ができるわけです(笑)」(いわい氏)
「架空会社」という喩えは伊達ではない。何せ、ルールがゆるゆるなのだ。練習には、来ても来なくてもどっちでもいい。劇団員は108人いるが、その大半は幽霊部員だという。

それにしても、集まった劇団員は108人。なかなかの人気っぷりではないですか? その魅力は、果たして何なのだろう。
「他の劇団と比べて明らかにハードルが低いので、『一度は演劇を経験してみたかった』という入団者も多いです」(いわい氏)
今や「劇団員 募集」で検索をかけると、上から5番目辺りに同劇団のブログを目にすることができ、2日に一度くらいの割合で問い合わせが寄せられているらしい。

そんな「劇団ほぼ無職」の旗揚げ公演、北沢タウンホールにて2月24日に開催されました! ……なのに、直前までソワソワしていなかった劇団員たち。
「20日が最後の練習だったんですけど、5人が無断欠席しました(笑)」(いわい氏)
今回の公演には、100人以上いる劇団員の中から厳選された30名が出演。……というかほぼ幽霊部員のため、自ずとその30人にしか声をかけられなかったわけだ。

これは、旗揚げ公演を観たくなってくるなぁ。新鮮な意味で興味深い。よし、観に行こう! ……はい、やって来ました、北沢タウンホールに。場内を見ると、結構埋まってるじゃないですか。
そして、公演がスタート! ……と、その前にいきなり舞台挨拶が行われました。続々と、衣装姿で舞台中央に集結する劇団員たち。その初々しさ、否が応にも母性本能をくすぐります。

さてこのくだりも終了し、いよいよ本番のスタート! では、今公演のストーリーについて。
皆さん、ご存知ですかね? 下北沢駅前で、物凄く感情を込めてマンガを読んでくれる“漫読家”東方力丸氏を。彼が自転車運転中に転倒すると、たまたま倒壊した北沢タウンホールに押しつぶされ、その衝撃で戦前の下北沢にタイムスリップ。そして、下北界隈にいた文豪達(太宰治、坂口安吾、田中英光、森茉莉、萩原朔太郎、他……)との出会いを通じ、本物の芸人になっていく、という話であります。

ストーリーがただ事ではないのだが、その作りもただ事ではない。
「劇中では太宰を女の子が演じているんですけど、そこに深い意味はありませんので」(舞台挨拶にて、いわい氏が)
この公演で太宰治を演じるのは、“学校に行かない女子高生”な毎日を過ごしている横浜在住の18歳だそうだ。新しい。

この“手づくり感”は、それだけに留まらない。音響担当が出番になるとそのまま舞台に上がって台本を持ちながら役者も兼任したり、役者がセリフを忘れると進行役が舞台袖からセリフを音読して思い出させてあげたり、数々の新境地が逆に魅力的。
多くの役者による初舞台の緊張が、客席にまで丸っきり伝わってくるのも新鮮である。噛んでしまったり、声が震えていたり、声が小さかったり、棒読みだったり、変な間が開いてしまったり……。しかし、それも“味”ということで!

でもねぇ、結局は楽しめちゃったんですよ。ストーリーが面白かったからいつの間にか作品に集中していたし、何だかんだでみんな必死だから好感が持てるじゃないですか。
しかして、3時間弱という長時間の公演も終了。今回は約15万円の赤字だったそうで、終演後は出入り口にていわい氏がカンパを募っていました。う〜ん、下北の風景だなぁ……。

そして、今後の展望について。
「今度は、映画を撮ると思います!」(いわい氏)
「一回は演劇を経験してみたい」というメンバーが同劇団には多く、それは今回の公演で成し遂げることができた。ネクストステップとして、映画という目標を新たに見据えているのだ。

もちろん、公演活動を終えるつもりはない。
「現在、下北沢と青森の下北に交流があるんですね。なので『今度、そちらで公演させてもらえませんか?』と青森に申し出ているところです。旅行も兼ねて(笑)」(いわい氏)
ギャラ不要、交通費と宿泊費をもってもらえれば、喜び勇んで出向くつもりだという。これは、無職FESのコンセプトである「お金がなくても楽しめる」と通ずるところがある。
「芝居の本場である下北沢の劇団が行きます! って。ギリギリ、嘘ではないですからね(笑)」

もし軽い気持ちで始めた活動だったとしても、それが楽しみや生き甲斐となるならば、何よりだ。
(寺西ジャジューカ)

関連リンク
■ 「劇団ほぼ無職」ブログ
■ 「無職FES」ホームページ