クイズ番組・問題研究ノート。耳で聞いた問題文を全て書き写して、どういう言い回しをしているのか等、研究したもの(日高大介氏 所蔵)。ちなみに、いつも使っているペンは、日高さんお気に入りの「ジェットストリーム」

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クイズがあるところに、クイズの問題を作る人あり。なんでも知っていないと務まりそうもない“クイズ作家”というお仕事。果たして、どのようにして知識を得て問題を作っているのか?今回は「全国高等学校クイズ選手権(以下:高校生クイズ)」「パネルクイズ・アタック25」「タイムショック21」など、数々のクイズ番組への出演を経て、「高校生クイズ」「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!」などで使用する問題を作っている人気クイズ作家、日高大介さんにお話を伺った。

――どのくらいの数の問題を作ってますか?
「毎年平均で1万問程度です」

――1万問!!!
「クイズといっても、テレビのクイズ番組だけではなく、ラジオ、新聞、雑誌、ネット、ゲームなど、あらゆるメディアで作成しています。問題を作成するだけではなく、答えが本当に合っているかどうかを調べたり、問題のレベルが適切か、言い回しに間違いがないかなどを確認したりもします」

――たくさんの問題を作るとなると難しいと思いますが、そもそも、日高さんの場合、知識はどのようにして頭に入れていますか?
「僕の場合は、知らない言葉を耳にすると、とりあえず最初は頭の中に入れておくというイメージです。2回めにその言葉を聞いた時に調べるようにしています。違うメディアでも同じ言葉が出てきたら、それは浸透しているということですから」

それなら安心。クイズにハマっている人は、知らない事が出てくると、すぐにくまなく調べて暗記しているというイメージがあるが、日高さんの場合は1度めはメモをとらずに、2回めでメモをとるということだ。(「もちろん、人によります」とのことです)

●ワイプでの生野アナウンサーのリアクションをクイズに!

そんな日高さんは、日頃のテレビの見方にも特徴がある。
「例えば、つい先日放送された『めざましテレビ』で、『エアゾール』という言葉が出てきたんです。『エアゾールって何だ?』と思って見ていると、デオドラントスプレーのように、液体が霧状に出てくるものを称して『エアゾール』というらしいという事が分かりまして。その時点ではとりあえず、エアゾールという言葉を頭の中に入れておきます。また別のメディアでエアゾールを耳にしたらメモをして、『問題として使えるな』…という具合に考えるんです。つまり、僕の頭の中で2段階選抜をしているみたいな感覚ですね」

なるほど〜。
いや、感心している場合ではない。ここからがクイズ作家・日高さん特有のテレビの見方なのだ。
「『めざましテレビ』では、エアゾールに関連して、醤油のエアゾールが開発されたという話も紹介されたんです。お寿司を食べる時にシュッとスプレーすると、醤油をつけすぎたり、ネタが醤油の小皿にこぼれてしまったりするのを防げるというものでして、これをクイズの問題にするとなると、どういう問題が良いのかをつい考えてしまうんです。何か新しい情報を知った時に、問題を作る癖がついてしまってるんでしょうね」

朝から頭をフル回転しながら番組を見ているというわけだ。しかも、日高さんは醤油エアゾールが紹介されている短い時間に、もう一つ別の事をチェックしていたのだ!
「醤油エアゾールのVTRが流れている間、よく見るとワイプで生野アナウンサーが『知ってる!知ってる!』とリアクションしていて、すごく気になったんです。そこで、『生野アナウンサーは、なぜ知ってるのか?』ということを勝手に問題にして考えるわけです。『生野さんは確か、福岡出身。ということは、製造元が福岡なのか?…』と思っていると、やっぱり、製造元は福岡だったんです。ついテレビの前で『やった!』と。朝から(笑)」

当たったからといって商品がもらえるわけではないが、当たると快感なのだそうだ。どうやら、日高さんのようなクイズ作家やクイズプレイヤーには、我々が普段使わないような「クイズ脳」のような部位が備わっている気がする。

●知らないうちに、アナタもやっている??「タモリ倶楽部」クイズ

しかし、こういう「自作クイズ」は、実はクイズファンではなくても皆さん無意識にやっているのでは?という。
「特に『タモリ倶楽部』や『アド街ック天国』などの、ハウフルス(番組制作会社)が手がけている番組のファンの方は、やっている方が多いはずです。例えば、『タモリ倶楽部』で、何かのルールを紹介する時は『夜明けのスキャット』がかかったりします。『ルール』と『ルールルルルー』をかけているわけです。特に『タモリ倶楽部』はこういう“遊び”が多いので、『なぜ、ここでこの曲がかかるんだろう?』と思いながら見ると楽しいです。前にも、出演者がレアアースの話をしている時に『セプテンバー』という曲がかかったことがありまして。『なんでレアアースの話の時にセプテンバーなんだろう??……あ!アースウィンド&ファイアーだからか!』って(笑)」

クイズ作家の日高さんならではの楽しみ方が分かったところで、問題作りについてのお話を聞いていこう。

●ショック!ディレクターに「お前の問題は、わかりにくい」と言われて…

日高さんがクイズ作家としての仕事を始めたのは1998年、大学のクイズ愛好会のとき。学習塾講師を経て、クイズ作家一本に絞ったのは2006年のこと。ひと口に問題といっても、答える方と問題を作る方とでは、180度違う。実際に、クイズを作り始めの頃は、とまどったという。
「この仕事を始めた頃、ディレクターさんや演出の方に『お前の問題は良いんだけど、表現がカタくて、分かりにくいんだよ』っていうダメ出しをくらったんです。そこで、色々なクイズ番組の問題の音声を聞いて、一字一句ノートに書くことにしました。耳で聞くのとテロップで表示されるのとでは問題文が違いますし、やっぱり、採用されている問題は短くて、問題文のリズムが良くて、なおかつ面白いんです。知識を問うだけの問題ではダメだということも分かりました」

しばらく問題の研究を続けていくうちに、採用される問題は倍増に!
「さらに、『これだ!』という感触をつかんだのが、次のクイズを思いついた時でした。

Q:アメリカの南北戦争と日本の西南戦争。いま出てこなかった方角は? (答え:東)

前半のフレーズだけを聞くと解答者は『うわ、苦手な歴史の問題だ』などと思ってしまいがちですが、問題の続きは意外な方向へ飛びます。頭の柔らかい人が答えられる問題で、手応えはバッチリでした」

クイズ作成を始めて3年目にして、問題採用率でトップに立ったという。

●日高さんも思わずうなった!二段重ねワザ!

そんな日高さんが、ある番組を見ていて非常に感心することがあったそうだ。雑学系の番組で、アンデスメロンはアンデス山脈とは関係ないという話が紹介された。「食べる人も安心、作る人も安心…だから“安心ですメロン”が“アンデスメロン”になったというもの。これはかなり有名な雑学なので「まだこの話は使えるのか…」と思いながら見ていたという。しかし、日高さんが驚いたのはこの先だ。

「普通であれば“安心ですメロン”が“アンデスメロン”になったという話を紹介して終わりなのですが、その番組では、なぜ、“安心ですメロン”が“アンデスメロン”になったかという理由までも紹介していたんです。メロンは輪切りにして種の部分を取ってから食べる…中心の芯を取るっていうことで、“アンシンデス”の“シン”をとって“アンデス”になったという解説がなされていました。ここまでは僕も知らなくて、『ヤラレタ!』って思いました。これがまさしく『二段重ね』ですね。前半で『アンデスメロンの由来なんて、とっくに知ってるよ!』と横柄な態度で見ていた自分を恥じました。だから、自分の知っている知識だけで満足したらダメなんです」

これまた、なんとストイックなんだ…。では、クイズ作家のお仕事について一通り分かったところで、日高さんのクイズ人生に迫ってみよう。ちなみに、日高さんは「第14回全国高等学校クイズ選手権」出場(静岡県代表)に始まり、「パネルクイズ・アタック25」優勝、「タイムショック21」優勝、「クイズ王最強決定戦」準優勝2回、「頭脳の祭典!クイズ最強王者決定戦!!〜ワールド・クイズ・クラシック〜」出場など、数々の名だたるクイズ番組に出演している。

●「アップダウンクイズ」のゴンドラの音に惹かれて…

――そもそも、日高さんがクイズを好きになったきっかけは?
「小学生の頃は、クイズ自体にはあまり興味はなくて、『アップダウンクイズ』のゴンドラが動く音とか、『クイズ・タイムショック』で3問以下しか正解できなくて、イスがグルグル回ったりするような、独特な雰囲気が好きでした。『アメリカ横断ウルトラクイズ』も、クイズそのものよりは、スタジオにいる高島忠夫さんと石川牧子さんの後ろにある、巨大なアメリカの地図(ルート)が気になっていました(笑)。その年のチェックポイントの都市が書いてあるのですが、『アルバカーキってどこだよ!』って言いながら、地図帳で探して、見つけたら大喜びするような小学生でしたね」

思わず筆者も「アルバカーキ」がどこにあるか調べてしまったではないか。日高さんに遅れること25年である…。
なにはともあれ、日高さんはこの頃から現在に至るまで、ず〜〜〜っとクイズの虜になってしまったのだ。しかし、アルバカーキを調べて喜んでいるだけでは、人気クイズ番組に出演したり、人気クイズ作家になれるわけでは到底ない。この後、どうやって知識が増えていったのかというと…。

「小学生なので、クイズには全く答えられないけど、答えに出てきた“単語”の数はたくさん増えていきました。ある時、『ウルトラクイズ』を見ていたら、他の番組で答えになった単語と同じものを答えさせる問題が出てきたんです。『ギリシャ文字の最初はアルファ、では、最後は?』という問題で『これは何かで出てきたぞ!あっ!三枝の国盗りゲームだ!!』と思い出して、『オメガ!!!』って答えたんです。それが正解で、家族全員に『すごい!!!!』って言われて。このことですっかり調子に乗っちゃいましたね。2時間の間で答えられたのは『オメガ』だけでしたけど(笑)」

この調子でいけば、いつかは全ての問題を答えられるようになるのではないかと思ったという。すっかりクイズ漬けになった日高さんは、「高校生クイズ」や「ウルトラクイズ」等をビデオで何度も何度も見直す生活が続く。

「でも、この時も決して、クイズを全部覚えようとして見ていたわけではないです。当時、クイズに真剣に取り組んでいる人たちの答えっぷりがとにかくカッコよくて。好きなクイズプレーヤーが勝ち抜けるシーンなどは何度も見て、その仕草をマネしたりなんてしていましたね(笑)。結果、クイズの正解となる“単語”が頭の中に印象強く残ったのかもしれません。でも物忘れは激しいほうですよ。よく『なんでも覚えられて良いですね』って言われますが、そんなことはありません」。

こうした知識と経験の蓄積を経て、前述のように数々のクイズ番組への出演&優勝、そしてクイズ作家への転身となる。問題を作る側になった現在も、日高さんの頭の中は超多忙だ。

普段はどうしているかというと…

「特に、テレビのクイズ番組の場合はタイトなスケジュールで進行することが多いです。いろいろ掛け持ちして、納期が厳しいと、2週間で2000問を作らないといけないこともありますね。1日に20時間ぐらい、パソコンの前に座っていることもあります」

やっとの思いで納期を終えた後は、たとえ、テレビでクイズ番組を放送していても見る気にはなれず、録画しておくという。

「そりゃあ、ず〜〜っとクイズの問題を作ってたんだから、さすがに『さあ、気分転換にクイズ番組を見よう』っていう気持ちにはなりませんよ!!(笑)」

それにしても、「日高さんのようなクイズ脳になるのに、必要な要素を答えよ」という問題には答えられそうだが、実際に日高さんのような人になるのは難問のようだ。(取材/文:やきそばかおる) 

※話が尽きないので、この続きは後編(日高さんが教える、クイズ必勝法)に。


●クイズやうんちくに、もっと強くなりたい方は…
『クイズ作家が教える「マメちく」の本』(日高大介著:飛鳥新社)
2013年3月2日(土)発売
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4864102376/ex-bit-22/

ちなみに…
『クイズ作家が教える「マメちく」の本』にまつわるうんちく (※文:やきそばかおる)
・全て140文字以内で書かれてあるので、10秒くらいで読める。
・よくある「歴史」「科学」「スポーツ」といったようなテーマ分けではなく、「起きてから寝るまで(平日編)(休日編)」など、1つのうんちくから次のうんちくへ、流れるような構成展開。
・日高さんが1人で、2年もの月日をかけて書いた渾身の1冊で、「ここまで熱心に書いてくださるとは思わなかった」と、編集者さんが感心しきっている。

※3月14日(木)にはトークイベントを開催。
「クイズ作家が語る「クイズ作り」の裏側」  
・「早押しボタンを押してみたい」という方のために、ミニクイズも開催!
会場:ジュンク堂池袋本店 
19時開場、19時半開演。
お申込みはジュンク堂池袋店1階の案内カウンターか、お電話03-5956-6111にて。