大田朋子さん共著「値段から世界が見える!日本よりこんなに安い国、高い国」(朝日新書 798円)。世界の値段を知ることで見えてくる裏側は、興味深い。

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新政権に変わり、消費税、年金、福祉など問題は山積。テレビで映し出される海外の様子を見ていると、日本ほど問題がなさそうに見えるが実際はどうなのだろう。そんな中、興味深い本を見つけた。世界各地の値段を日本と比較してみると、色んな問題が浮き彫りになってくるという『値段から世界が見える!日本よりこんなに安い国、高い国』(柳沢有紀夫・海外書き人クラブ編)だ。

アラブやペルー、アジア、ヨーロッパ諸国など20カ国のモノの値段を徹底比較し、そこから、その国の税金システムや、福祉、医療、国民性など真の姿を浮かびあがらせている。そこで、世界を拠点に活躍し、同本内の「スペイン」を担当したプロジェクトプロデューサーの大田朋子さんに「スペインの値段」について聞いた。

■ スペインでは、25歳以下の若者2人に1人は失業中!?
スペインの失業率は25%、しかも25歳以下の若者の失業率は57.6%だという。そんな状況で大丈夫なのだろうか?と他国の状況を心配してしまうが、安月給なのにフラットを持っていたりポジティブ思考だったりと、悲壮感がまるでない。

「現在スペイン社会が抱えている問題は深刻ですが、毎日の生活では退廃感は感じません。その理由の一つが『食べることには困らない』からだと思います。食料自給率は約80%と高く、豊富な食材が手ごろな値段で手に入ります。私が住むバレンシアは第3都市ですが、地域によっては今でも“おすそ分け”文化が残っていて、人間付き合いが健在。仕事はもちろんほどほど(笑)! だからストレスが少なく、現状に深刻さを与えないのだと思います」(大田さん)

■ 学校って自由に入れないの?3歳の時点で大学まで続く学校システム!?
日本でも議論される待機児童の問題。スペインでは、公立・私立に関係なく転校などをしない限り、3歳の時点で選んだ学校が大学入学前まで続くという。そのため、子どもが3歳になるときに出願する学校選びに慎重さが求められるのだ。

「スペインの学校には、公立、私立、コンセルタード(半分公立・半分私立)という選択がありますが、公立の場合、現在の州政府の財政難で先生の数は減らされる一方。一クラス30人の生徒を1人の先生が見ているなんてことも」(大田さん)。バイリンガルの私立やインターを選択したいなら、3歳の入学のために、妊娠時にはすでに希望の学校に仮登録する保護者が多いというから驚きだ。

「息子が通うプライベート学校は、入学時だけでなく毎年登録更新に1000ユーロ、学費は月800ユーロ(1ユーロ113円換算で9万400円)。公立やコンセルタードと比較すれば、金銭的には決して安くはありませんが、スペイン特有の『いい加減さ』に付き合わずに済むというだけでも価値がある。教育といった公共サービスへの信頼が薄いために、『教育を買わなければならない』のは、社会としては良いことではありません。日本のように、子どもが小さいときには地域の公立学校に行って色々な友達を作ることは、大切だと思うからです』(大田さん)

■ 診察代金は無料だが、病院が選べない!?
「医療でいうと、スペインの公立病院では診察代が無料です。でも、設備の問題や予約が取れにくいことも多く、日本のように自由競争ではないため、通う病院も選べず、登録住所によって割り振られた病院に行かなければなりません。 そのために、私は私的保険に入っていますが、保険料は日本と比べると格段に安く、1カ月約3000円程度から選べます。月々それだけの支払いで、お産も含め、治療はすべて無料です」。社会全体としては教育も医療も「無料」とはいえ、適切で信頼できるサービスを選びたい場合は、個別でお金が必要だという事実も垣間見える。

同本に掲載されている他国の状況をみていくと、スウェーデンでは、学費・医療費・歯科矯正費が無料と、子どもたちの権利が徹底的に保障されているという。税率が高くても、しっかりとした体制が組まれていれば、問題にはなりにくいのではないだろうか。「色んな国の事情を読んでいくと、これからどう舵取りしていくか、という共通の課題も見えますね」(大田さん)。

同じ先進国でも、買うモノによって、高いものと安いものがあり価格は大きく違う。「隣の芝生は青い」というが、他国と比べることで、みえてくる事実。日本って意外と住みやすいのかもしれない!?
(山下敦子)