左から野沢菜、やしょうま、おやき。いずれも信州の味です。

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「ご出身は?」「長野です」「長野のどちらですか」「須坂です」「?」「長野市の隣で」「あ、インターありますね?」
これまで幾度となく繰り返した、こんなやりとり。

長野県須坂市といえば、長野市と、全国的にも「栗の里」として知られる小布施町にはさまれ、残念ながらマイナーなまちではある。
かつては全国的に有名なカンガルー「ハッチ」(須坂市動物園)がいたが、いまはニュース等で話題になった「脱走ペンギン」が次世代スターとして期待されつつあるところ(にしても、スターは常に動物……)。
そんな須坂に在住の方々と、須坂出身あるいは縁のある首都圏在住者が東京で集う「ふるさと信州須坂のつどい」なる会にお招きいただいた。

過去に「県人会」には参加させていただいたことがあるのだが、それよりずっと小さな単位「市」の集いというのは、また珍しい。
出席者は、地元の名士や、様々な分野で活躍されている方々ばかり。かなりの場違い感を覚えつつ、恐る恐る出席したが……。

まず驚いたのは、郷土愛の強さだ。
立食パーティーで定番メニューは各種あるのに、誰もがいち早く飛びついたのは、野沢菜、おやき、やしょうまという「信州の味」のコーナー。
ちなみに、「やしょうま」とは、2月15日(あるいは3月15日)のお釈迦様の入寂した日(涅槃会)に食べる、細長い上新粉餅のこと(※地域によっては「やせうま」というそうです)。
昔はシンプルな山型で細長いものが主流だったが、今は金太郎飴のように、切り口が花やキャラクターの顔などになるタイプが多い。

みんな口々に、「懐かしい〜」「少しかたくなったのを焼いて食べるのも美味しいんだよね」「砂糖醤油をつけて食べるのも良いね」と大盛り上がり。また、「おやきは丸ナスを使用するけど、東京では丸ナスが手に入らない」という話や、「野沢菜は新鮮なものは味が全然違う」「すぐ酸味が出てしまう」といったローカルな話に花が咲く。

「長野県民がみんな歌える」ということで知られる『信濃の国』を出席者全員で歌ったり、『須坂市民歌』を歌ったりする場面もあった。
そもそも私自身、今も2カ月に1度くらい須坂に帰省していて、友人などには「また行くの?」とよく驚かれるのだが、「2〜3カ月に1度須坂に帰っている」なんて人はここでは当たり前。しかも、何十年もそうした頻度で帰省している方もいて、自分などまだまだ甘いほうだった。

何より不思議なのは、東京が会場にもかかわらず、「須坂」の空気が流れていること。
山に囲まれた土地柄からか、長野県の人は「閉鎖的」と言われることもあるが、派手に歌ったり騒いだりするのではなく、真面目に、静かに盛り上がる雰囲気は、「ああ、同郷人だ」と嬉しくなる。
個人的には、よくある同業者の飲み会や「異業種交流会」など、互いに自己顕示欲丸出しで牽制し合うガツガツした会が苦手なのだが、「郷土」という共通点のみでつながる人たちは、どこか「同級生」みたいな感じでホッとする。

超ローカルかつ、年齢も職業の枠も超えた「ふるさと信州須坂の会」。そこには確かに「ふるさと」がありました。
(田幸和歌子)