「デビュー55周年記念 ちばてつや原画展」
『あしたのジョー』を中心にちば作品の伝説のシーンの数々が原画で蘇ります。(C)高森朝雄・ちばてつや / 講談社

写真拡大 (全2枚)

マンガ史上に残るラストシーンといえば……?

こう聞かれて『あしたのジョー』を思い浮かべるのは私だけではないハズ。
リングサイドで静かにうなだれ、でもどこか満足げに微笑む矢吹丈の姿と、「燃えたよ……まっ白に……燃えつきた……まっ白な灰に……」という名台詞。『あしたのジョー』を読んだことがなくとも、多くの方が見聞きしたことがあるのではないでしょうか。
でも、実はこの「まっしろな灰」という有名な台詞は、ラストシーンには描かれていないのです。最終話の中には登場するものの、別なコマ割りの中で使用されています。

ウソだと思った方は今すぐ池袋へGO!
17日〜27日まで池袋の西武池袋本店・別館2階の西武ギャラリーで開催されている「デビュー55周年記念 ちばてつや原画展 〜あしたのジョー原画100選〜」で、『あしたのジョー』をはじめ、ちばてつや作品の原画の数々を堪能することができます。

「あしたのジョー原画100選」のタイトル通り、『あしたのジョー』コーナーは特に充実。高森朝雄(梶原一騎)の指定をいきなりくつがえし関係者を慌てさせたという曰く付きの第一回、力石との少年院での出会いと生死をかけた死闘。「まっ白な灰」という最終回への伏線となる紀子とのたった一度のデート。そしてホセ・メンドーサとの世界タイトルマッチが決着を迎える最終回……『あしたのジョー』を語る上で欠かせない伝説のストーリーを、それぞれ原画で読むことができる幸せ。そして、やっぱり台詞がなかったラストシーンをここで確かめることができます。
でも、この原画で真に気づかされるのは台詞の有無ではなく、重ねられた「ホワイトの痕跡」。ジョーのまさに「まっ白に燃え尽きた」姿を表すための余白への徹底したこだわりこそが、「まっ白な……」という台詞がここにあったと錯覚させているように思えてなりません。

この展覧会と同じくデビュー55周年を記念して出版された『ちばてつや--漫画家生活55周年記念号』の中に、ちばてつや先生のこんな言葉があります。
《編集の人によっては「これ、ずいぶん時間をかけて直していたけど、読者が見ても誰も気がつきませんよ」と怒るんだけど、私は「ここに1コマ、枯れ葉を1枚描きたい」とかね。ストーリーには関係ないんですよ。だけど、そこにフッと何でもない枯れ葉を1枚、「捨てゴマ」って言いますけれど、それを入れるのと入れないのでは何か違うんですね。「間」というか「タメ」ができる。それを入れることによって、読者が、あるいは私自身がキャラクターの気持ちにスーッと入っていけるというのもありますし》

展示されている数多くのジョー、力石、葉子の顔、顔、顔。そのほとんどに台詞はないのですが、何か語りかけてくるような、思わず足を止めたくなるような、それこそ「間」のようなものも感じることができました。

もちろん、『あしたのジョー』以外の作品の原画も数多く展示されています。
会場入り口に入ってすぐ出迎えてくれる「ちばてつや作品年表」を見れば、貸本時代から少女誌へ活躍の舞台を移して後にドラマ化もされる『1・2・3と4・5・ロク』などの名作を次々に生みだし、その後少年誌に移って野球(ちかいの魔球)、剣道(おれは鉄平)、ゴルフ(あした天気になあれ)など数々のスポーツマンガの傑作を生み続け、やがて青年誌を主戦場に移していく過程が色分け&表紙画像付きで解説されている親切設計。その後の展示物も同様の流れで展示されているので、ちばてつや55年の歩みをしっかり把握することができます。
特に、なかなか目にする機会がない貸本時代の作品や少女誌時代の原稿、後の『巨人の星』や魔球ブームに多大な影響を与えたと言われる『ちかいの魔球』など少年誌初期作品を味わうことができるのはありがたい企画です。

また、展示が終わった後の物販コーナーも、買う買わないは抜きにしてもじっくり堪能するのがオススメ。
講談社創業100周年記念特別賞受賞を記念して2009年に出版され、関係者にだけ贈呈されたという非売品『ちばてつや落穂拾い集 てっちん』が、原画展のために復刻販売(1890円)。単行本未収録ばかりの作品のため、ちばてつやファンは外せない一品でしょう。
そしてさらなる注目は『あしたのジョー』複製版画(エフェクティブグラフィー※最も原画に近い版画技法)19点。15万円、25万円といった高額商品ばかりにもかかわらず次から次に売れ「売約済み」の札がズラッと並んでいるのです。それぞれの複製版画は55周年に合わせ55点(もしくは30点)用意しているとのことですが、すでに売切れゴメンになっている作品も。
そしてこの19点の複製版画の中に当然、あのラストシーンがあるのですが……なんと、「燃えたよ……まっ白に……まっ白に……燃え尽きた……」という台詞とセットになっているのです。展示会に来てくれたファンのための千葉先生からの粋な計らいということで、これは本当に貴重! 買えずともしっかり目に焼き付けましょう!

さらに11月23日にはちばてつや先生のサイン会、25日にはトークショーも開催。どちらも参加には整理券が必要になりますが、ちば先生の東京でのサイン会はなんと25年振り! しかも先日、旭日小綬章を受章をするなど注目度も高いだけに行列必至です!
ちなみに物販コーナーでの3150円以上の購入確認証も必要となりますので、ジョーよろしく手ぶらでは並ばないようにご注意を。

「デビュー55周年記念 ちばてつや原画展 〜あしたのジョー原画100選〜」
期間:2012年11月17日(土)〜11月27日(火)
時間:10:00〜20:00(※入場は閉場30分前まで。最終日11月27日は17:00閉場)
会場:西武池袋本店 別館2階 西武ギャラリー
入場料:一般700円、大学生・高校生500円(※中学生以下は無料)
(C)高森朝雄・ちばてつや / 講談社
(オグマナオト)