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 アメリカでは、先月5月に映画でおなじみの卒業パーティー“プロム”が終わったところ。意中の人とのダンスや、華やかなプロムクイーンコンテスト、その陰で複雑な想いで参加する目立たない男女が織りなすドラマなど、非常に映画になりやすい題材である。今回カルト映画のフジモトが紹介するのは、異色のオーストラリア産プロム映画『ラブド・ワンズ』。モテない内気な女子高生が、イケメン王子様を監禁・拷問するという強烈な作品だ。果たしてオーストラリア発の“プロム映画”とはどんな作品なのだろうか。

ラブド・ワンズ

 オーストラリアの小さな町で暮らす高校生ブレントは、内気な同級生ローラからプロムの誘いを受けるが、断ってしまう。彼にはホリーという恋人がいたからだ。そんな彼を何者かが突然誘拐する。ブレントが目覚めるとそこはネオン輝く部屋の中。タキシード姿で椅子に縛られ、目の前にはドレスを着て微笑むローラがいた。王冠をかぶり、プロムの女王に変身した彼女は、抵抗するブラントに世にも恐ろしい拷問を次々と行うのだった…。(作品情報へ

最高にポップな、監禁拷問地獄へようこそ

 本作の一番の見所は、その拷問シーンである。椅子に縛り付けてナイフで足を縫い付ける、胸にフォークでハートマークを彫り、塩を塗りこむ、気道に薬剤を注射器で流し込む、などなど残虐行為のオンパレード。さらに極めつけは、電動ドリルで額に穴を開ける、など筆舌に尽くしがたい恐ろしい拷問が行われる。この文字面だけ見れば、残酷描写に対する耐性が無ければ目をそらしたくなるところ。ところが、こんな描写が妙にポップな色合いとともに繰り出されてくるのである。キラキラと光るミラーボール。妙に甘ったるいムーディーな音楽。さらにプロムらしい、ピンクのドレスに身を包んだヒロイン。すべての場面がまるで『下妻物語』のような、カラフルで不思議なキラメキを持っているのだ。監禁・拷問映画といえば、近年では『テキサス・チェーンソー』、『ホステル』などのヒット作が記憶に新しいが、そういった作品の残酷さを踏襲しながらも、“かわいらしさ”と絶妙なバランスをとっているのが本作である。はっきり言って、カップルで観に行っても問題なし。むしろ、“次はどんな拷問が行われるのか”というドキドキ感はつり橋効果をもたらすので、ギリギリデートに使えます!

新たな流行?肉食系女子を超える“マジキチ系女子”

 そして、本作でもっとも魅力的なキャラクターが監禁・拷問を繰り返す女子高生、ローラである。これまでのいわゆる“プロム映画”にはいなかった強烈なキャラクターは必見。プロムを舞台に、マイノリティが残酷な仕打ちを受ける映画としては『キャリー』が有名だが、本作のローラは全くその真逆の性格なのである。その本質はまさに“女王”。普段は冴えない女子高生なのだが、とてつもない本性を隠し持ったキャラクターなのである。“憧れの人”として主人公を誘拐してくるが、実のところ彼女は愛情などは持っていない。そこにあるのは凄まじい支配欲と性欲、そして自己顕示欲のみである。プロムを再現するためだけに誘拐された主人公は、彼女の思い通りの“ママゴト遊びの人形”のように扱われる。そのアグレッシブさは、肉食系女子を超えた“マジキチ系女子”と呼ぶに相応しい。また、ドレスアップしてからのローラの姿も、何とも言えずなまめかしい。モデルのようなスタイルではないのだが、ムチムチ姿が異様な色気を醸し出している。正直なところ、男性ならこの危ない魅力のローラちゃんに惚れてしまうかもしれない。ちなみにこのローラを演じるロビン・マクレヴィー、実は30代になったところである。絶妙な色気を残しつつも、さえない女子高生っぽさを表現する彼女には今後も要注目だ。次回作はティム・バートン製作『リンカーン/秘密の書』で、主人公リンカーン大統領の母親(!)役だとか。 

生々しい、禁断の親子愛にドキドキ

 ローラだけではなく、その父親も強烈な存在感で活躍する。娘のことを「プリンセス」と呼び、誘拐から拷問の手ほどきまで嬉々としてこなす。すべては娘のプロムを再現するためなのだが、娘に対しての愛情が度を越し、“禁断の愛”にむかうところがまた凄まじい。実はローラにとっての“本当の王子様”はこの父親なのである。直接的な表現は出てこないものの、その直前までいってしまうこの二人のやりとりには常にドキドキさせられる。むろんこの父親もインパクトのある容姿であることは言うまでもない。彼にも、かつてプロムで迫害されていたと思わせる部分があるのだが、それは劇場で確かめてほしい。すべてはプロムのため。まさに“この親にしてこの子あり”な親子なのである。

マイノリティたちのプロムへの憧れと恨み

 こんなマジキチ親子にさんざんな目にあわされる主人公だが、アメリカ映画にありがちな軽薄なイケメンではない。たしかに容姿こそ整っているものの、心に恐ろしいトラウマを抱え、常にヘビーメタルを聞いている、やや鬱ぎみな青年である。そしてその過去は、最終的にローラによる誘拐・監禁と深く関わっていることがわかってくる。事件そのものが彼が乗り越えるべき障害として立ちはだかるのである。つまり本作はモテない女子のリベンジ映画ではなく、主人公が困難に立ち向かい成長していく、王道ドラマなのである。

 しかし今回あえて“プロム映画”として紹介するのは、本作にプロムへの妙なこだわりが見えるからだ。ローラが凶行にはしり、ブレントがトラウマを引きずる、すべての諸悪の根源としてプロムが描かれている。だが一方で、監督が学生時代にプロムに憧れていたのでは無いかと思われる描写がやたらと出てくる。それを象徴するのが、主人公の親友、ぽっちゃり系のジェイミーである。この男、主人公が拷問されている間、ひたすらにゴシックファッションの美女とイチャついている。しかもストーリーに全く絡まないシーンにも関わらず、全くカットされずに何度も登場するのである。監督はひたすらマイノリティの立場からプロムを描くことに徹したのも、無用な“願望”とも取れるシーンがカットされていないのも、プロムへのこだわりなのではないか。真偽のほどはともかく、これまであまりなかったプロム映画である。余談ではあるが、オーストラリアでは卒業パーティはプロムとは呼ばず“フォーマル”と呼ぶのだとか。英語圏だけではあるが、様々なプロム映画を見比べてみても面白いかもしれない。

ラブド・ワンズ』はシアターN渋谷にて公開中



『ラブド・ワンズ』 - 公式サイト

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カルト映画のフジモトの所見評価

【キラキラ度】★★★★

【ムチムチ度】★★★★

【監禁拷問度】★★★★★

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