群馬県藤岡市の関越自動車道で7人が死亡したツアーバス事故で、バスを運行していたバス会社『陸援隊』の針生裕美秀社長が5月6日に記者会見を行った。
 針生社長は、運転手の河野化山容疑者に過労運転の事実はなく、居眠りは本人の問題だと主張したが、点呼簿の記録がなく飲酒にチェックもしていないなど、安全運航への管理体制ができていなかったことが判明した。
 さらに河野容疑者は事実上、法律で禁じられている日雇いで、自身が4台のバスを所有しており、陸援隊の名義を借りて白バス営業をしていたことが明らかになった。安全管理が不十分どころか、違法行為を積み重ねる危険な経営が行われていたのだ。
 また、針生社長は河野容疑者から「道がわからない」と相談されたため、事故を起こしたバスに別の運転手を同乗させ、復路も高速のインターチェンジまでの道案内をさせたとしている。この事実は、針生社長自身が運行管理を行っていたことを意味する。利益を追求する社長と安全を守る運行管理者を同一人物が兼務すると、利益相反が起こり、会社の利益のために安全管理がおろそかになる。つまり、今回の事故は起きるべきして起こった可能性が高いのだ。

 こうした悪質経営がまかり通った根本原因は、規制緩和にある。2000年に施行された改正道路運送法によって、事業参入は免許制から許可制へと移行され、運賃は認可制から届出制へと移行された。つまり、条件さえ満たせば誰でもバス会社を経営できるようになり、運賃も自由に決められるようになったのだ。この規制緩和によって、中小零細のバス事業者が爆発的に増えた。そうなれば、当然その中に安全を犠牲にしてでも低料金を打ち出す悪質な業者が含まれてくるのは、当然予測される事態だった。
 実際、規制緩和後には、高速バスの事故や整備不良にもとづく発火事故が頻発していた。しかし、規制緩和の合い言葉は、「事前規制から事後チェック、違反者への厳罰化」だった。重大なルール違反を起こした事業者は市場から排除する。しかし、本当にそのやり方でよかったのかは疑問だ。事故で失われた命はかえってこないからだ。
 実は、今回のバス事故と同じ問題が、厚生年金基金の資金を消失させたAIJにもある。もともと厚生年金基金の資産運用は、信託銀行と生命保険会社にしか認められていなかった。それが、'90年から投資顧問会社にも認められるようになり、'99年にはどのような資産で運用するのかも完全に自由化された。その結果、AIJのような悪質な投資顧問会社が急成長することになったのだ。

 免許制などの厳しい参入規制をかけているときには、まともな業者しかいないので、細かな規制をかけなくても、大きな事故は起きない。しかし、参入規制を緩和すると、必ず悪質な事業者が出てくるから、国民の安全や財産を守るためのきめ細かな規制が必要になる。つまり、参入規制の緩和というのは、綿密な規制強化とセットでなければ成功しないのだ。
 そのことを忘れて安易に走った規制緩和のツケをいま国民が支払わせられようとしている。
 一度原点に立ち返って、本当に正しい規制緩和とは何だったのかを問い直す時期に、いまの日本は来ているのではないだろうか。