もし、首都圏で大地震が発生したら、そこでどう生き延びるかではなく、東京をどう脱出するかが重要になってくる

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 マグニチュード(M)7クラスの首都直下地震が、今後30年以内に発生する確率は70%程度と予測されている。内閣府が発表している対策概要によると、建物の全壊棟数、および火災で焼失する棟数は約85万棟、そして負傷者数は21万人、死者数は約1万1000人との予想だ。

 そして注目したいのが、ライフラインの復旧目標日数。電力が6日、上水道が30日、ガスが55日、通信が14日となっている。これは、阪神・淡路大震災のときの電気8日、電話14日、水道40日、ガス60日から想定されたものと思われる。

 倒壊と火災で瓦礫だらけの東京で、ガスが復旧するまで2ヶ月近く。たとえ、幸運に無傷でいられたとしても、東京で生きていくことは困難だ。災害・危機管理アドバイザーの和田隆昌氏も、こう指摘する。

「首都圏が機能不全に陥り、復旧の見込みすら立たない状況なら、勤めている会社も再開できないかもしれない。実際、東日本大震災以降、福島、宮城、岩手で被災した人は他県で仕事をすることを余儀なくされたのですから、首都圏でも同じことが起こります」

 つまり、東京を脱出することが生きていくために必須となる。だが、はたしてそれは可能なのだろうか?

「車を持っていても使えないでしょう。道路に散乱する瓦礫(がれき)ですぐにパンクしてしまうし、ガソリンも入手困難でしょうから。そうなると徒歩で脱出する以外、方法はありません」(和田氏)

 では、いったいどこまで歩けば被災地・東京から脱出できるのか?

「直下型の地震は、東日本大震災のように被害が広大な範囲に及ぶわけではありません。関東大震災は三浦半島が震源地で、静岡はほとんど無傷でした。東京湾北部が震源の首都直下地震の場合、都心から20kmから30kmの範囲までは壊滅状態でしょうが、50km離れれば被害は最小限にとどまるはずです」(和田氏)

 文部科学省研究チームも、都心部から約50kmにある圏央道の外側は震度5強程度で、ほとんどダメージはないと分析している。つまり、八王子(東京)、厚木(神奈川)、所沢(埼玉)、春日部(埼玉)、柏(千葉)まで出ることが「東京脱出」のための目安といえる。

 では、自宅から単純に最短距離にある50km地点を目指すべきなのだろうか?

「東京から東(千葉方面)へ向かうのは危険です。東部一帯の火災が沈静化していたとしても、江東区、墨田区、葛飾区、江戸川区、荒川区は浸水と液状化で歩ける状態ではないかもしれない。ましてや隅田川の橋が使えず立ち往生する危険性もあるからです」(和田氏)

 だからといって、東方面だけ避ければいいわけじゃない。ラジオなどで進むルートに問題がないか、徹底的に情報収集することが重要だ。

 いよいよ脱出開始だ。実際に歩くとなると、通常10kmを2、3時間で歩ける距離でも、瓦礫が散乱する悪路では4、5時間はかかる。50kmの距離であれば、最低でも2、3日はかかる。その間の水や食料の現地調達はまず不可能。事前に用意しないと行き倒れだ。

 なんとか圏央道の外側までたどり着いても、高速道路は緊急交通路として自衛隊や警察車両が最優先されるため、民間には開放されていない可能性が高い。でも一般道は問題なく利用できるはずだ。レンタカーを調達して、地方にいる家族や親類、知人宅を目指すこともできる。車が調達できなければ自転車を手に入れたい。自転車なら一日50kmは軽く移動できる。静岡、山梨、群馬、栃木に入れば、列車も運行しているし、どこへでも行ける。脱出成功だ!

 とはいえ、体力がないお年寄りや子供に50kmの強行軍はまず無理だろう。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏は、こんな提案をする。