構想から完成まで25年かかった小説―高野和明さんインタビュー(1)
第31回は、最新刊『ジェノサイド』(角川書店/刊)が注目を集めている高野和明さんです。
謎の死を遂げた父が遺した不可解な遺書を手掛かりに、日本・アメリカ・コンゴを巻き込んだ大きな謎に立ち向かう、創薬化学を学ぶ大学院生・研人。
第1回の今回は、この壮大なスケールを持つ傑作長編のアイデアの源泉について伺いました。
―本作『ジェノサイド』を拝読しました。これは大傑作だな、というのが個人的な感想ですが、これだけ骨格の大きな小説ですと、取材も含めてかなり時間がかかったのではないですか?
高野「この物語の初めのヒントを得たのは二十歳の頃だったので、もう25年くらい前になりますね。ただ、そのアイデアが具体化され始めたのは2000年代に入ってからです。いつも複数のアイデアを持って考え続けていて、何かの拍子に、そのうちの一つがまとまって作品になっていきます」
―今おっしゃった“ヒント”と重複するかもしれませんが、本作を構想する際の最初のとっかかりはどこにあったのでしょうか。本作の入り組んだ物語の中で、最初のアイデアはどの部分に生きているのかが気になるところです。
高野「二十歳の頃に読んだ立花隆さんの『文明の逆説 危機の時代の人間研究』に、ある生物進化の可能性について書かれた一節があって、それを読んだ時からこれを使って話ができないかと思っていました。ただ、あれこれストーリーを考えたんですけど、あまり面白くならなかったんです。それに設定自体がナンセンスなんじゃないかという疑問もあって先に進めなかったんですが、2000年代に入って生物学の新しい知識を得たり、アメリカの情勢が騒がしくなってきたりと、色々な条件が組み合わさって作品にすることができました」
―具体化され始めてから数えても10年かかっているんですね。他の作品もやはり、長い間アイデアを温め続けて生まれたものなのでしょうか。
高野「10年かかるというのはそんなに珍しいことではないです。何となく考えている、という期間が長いので。例えば『幽霊人命救助隊』もやはり10年かかりましたし。『13階段』は短くて2年くらいでしたが…」
―執筆を始めてから書き終えるまではどれくらいの時間がかかりましたか?
高野「2008年の11月に資料調べに入って、2009年の8月から原稿を書き始めました。書き終えたのが2010年の12月初旬だったので、執筆期間は1年と少しですね」
―資料といえば、本作にはホワイトハウスの中の力関係や、会話などもリアルに書かれていますが、ああいったシーンは文献を読んだだけで書けるものなのでしょうか。
高野「この作品の場合は、ノンフィクションを片っ端から読みました。イラク戦争を題材にした本がたくさん出ていて、そういうものを読んでいくと、徐々に彼らの言葉づかいや思考の様式がわかってくるんです。現実そのものではないでしょうけど、少なくとも作品のリアリティを確保する上で、この世界を掴んだ、書く素養が身についたと思える段階があるんですね。逆に言うと、描く世界を掴めるまで、資料を読んだり取材をしたりします」
―執筆前にプロットを作られたかと思いますが、本作のように1000枚を超えるような長さですと、プロット通りに執筆を進めることも難しかったのではないですか?
高野「当初は700枚くらいの予定で始めたんですけど、最終的にかなりオーバーしてしまいました。実感としてわかったのは、現代の東京を舞台にした話だったらそんなに枚数はかさまないんですよ。しかし今回の作品のように、一般には馴染みのない世界を舞台にすると、その説明から書き込まないといけません。そういうところでどんどん枚数がかさんでしまったというのはありましたね」
―プロットの段階で考えていた筋書きから外れてしまったりはしませんでしたか?
高野「ストーリーそのものはあまり変わらなかったですけど、後半に出てくるルーベンスというキャラクターの役割は、プロットの段階とは違っています。完全な悪役にしようと思っていたのが、いい人の方に転んでしまいました」
―執筆中に行き詰ったことはありましたか?
高野「どこで詰まったのか思い出せないのですが、何カ所もありましたよ。2週間くらい、原稿を書く手が止まってしまうような大きな停滞が、5・6カ所はあったと思います」
―どうやってその停滞状況を打破したのでしょうか。
高野「一回はカラオケボックスに缶詰めになりました(笑)。ノートパソコンを持ち込んで、他にやることのない場所で強引に書くんです。隣の部屋ではアニメソングを歌っていて楽しそうでした(笑)。あとはワープロソフトを変えてみたこともありました。普段は「一太郎」を使っているんですけど、どうしても行き詰ったときは、テキストエディタという軽いソフトに変えて無理矢理書くとか。いろいろやりましたけど、しかし結局は考え抜くしかないんですね。停滞の原因は何なのかを一所懸命に考えて、解決策を探るしかないです」
第2回 コンゴの状況を知って「戦争」というテーマに正面から取り組もうと思った。 に続く
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