原哲夫先生-「いくさの子」原稿を描く

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「北斗の拳」や「花の慶次 -雲のかなたに-」で人気の原哲夫が、北野星望とタッグを組み、知られざる信長の少年・青年時代を描いた10年ぶりの戦国大河新作「いくさの子 織田三郎信長伝」。
2011年5月20日に待望の第1巻が発売した。

今回、オタラボではオタク女子にも今大人気の戦国漫画のパイオニアともいえる原哲夫先生にロングインタビューを敢行した。
知られざる物語の裏側や、絵や創作の原点、さらにこれから漫画を仕事にしていきたい方へのメッセージなど、命をかけた熱い思いを伺う事ができた。

■織田信長の少年時代という、"はじめて"のチャレンジ

――今回、戦国をモチーフにした理由やきっかけを教えてください

原哲夫(以下、原):「織田信長は前田慶次(「花の慶次 -雲のかなたに-」週刊少年ジャンプにて1990年〜1993年連載)を描く前から描きたかったんです。(今、)その時が来たのかなと」


-「花の慶次 -雲のかなたに-」1巻(ゼノンコミックス)表紙

――前から織田信長には並々ならぬ思いがあったわけですね

原:「戦国時代描くんだったら、信長でしょ、と思っていたんですが、最初に縁があったのが隆慶一郎先生(原作「一夢庵風流記」の著者)の前田慶次とのであいがあって、それが戦国物の入口になったんです。
北斗(の拳)は近未来もので、戦国時代(などの歴史もの)は初めてでした。
絵の世界観が合うか心配だったのですが、僕の場合筋肉描写が好きで、子供のころからずっと筋肉ばかり追いかけて描いていたので、そういった意味でも"戦う男の筋肉"が、日本の戦国時代とマッチしていました。
(そんな中で)いつか信長はやるだろうな。と思っていました」

――10年、20年越しの宿願ですね

原:「(笑いながら)宿願というほどではないんですけどね(笑)」

――過去にも織田信長を取りあげた様々な作品がある中で、今回の「いくさの子」は信長の少年時代を取りあげており、過去にもなく、非常に珍しいと思うのですが。


-少年、織田信長 (C)原哲夫・北原星望/NSP 2010

原:「少年時代を取り扱ったものはあまりないですし、それで話題になった作品もないですし。
ある意味とってもリスキーではありますけども、常に僕の場合は挑戦していく、というのがあって、前田慶次の時も(その当時は)誰も知らない、無名の武将でした。」

――あの作品(花の慶次)をきかっけに前田慶次がいろいろな作品に登場するようになりましたよね

原:「あの後代表的な武将くらいの扱いになって(笑)僕が描き始めたときは誰も(武将・前田慶次を)知らなくて(笑)
……という感じだったので、そういう意味では僕は(リスキーなものに挑戦していくことが)合っているのかな、と。
人が書いていないところの方が、僕の力が発揮できるのかなと。いろんなチャレンジができるなと。
そういう(人が書いていない)ところをちょっと開拓してみたいという気持ちもあります。
少年時代の信長ってどういう人だったんだろう」

――そうですね。信長の少年時代の描写というのが、子供らしい無邪気さ、かわいらしさの中に、頭の切れるというところがすごく面白く、そこがオリジナリティ、人の描いていない部分なのかな。と感じたのですが

原:「そうですね。普通のただのヤンチャなガキじゃなかったという(笑)」

――そうですよね、カリスマ性というか

原:「カリスマになる過程で、どういう育ち方をしていたのか。というのは、皆さん興味がでてくると思うんですよ。
少年が天下人になるまで、少年の生き方、ヒーロー像というのをしっかりと、できるだけリアルを追求しながら、描いていきたいと思っています
また、僕は少年主人公というのが、回想で描くくらいで、はじめてみたいなところがあるんですよ。
そういう意味でも、はじめてのチャレンジです。
僕は今年50になるのですが、"若さ"というものが、すごく愛おしくて、眩しいもので。
若いころは大人の完成したカッコイイ、強い男の人にあこがれて、"あんな風になりたい"って願望があって、そういう物を描きたかったのですが。
今は、未完成だけれども、将来に夢も希望もあって、可能性にあふれている少年に、憧れみたいなのがあって、魅力的なのです。
すごく輝いて見えるんです。僕にとって今少年がスターなのです。
そういうものを魅力的に描ければなと思っています。
才能を持った少年っているじゃないですか、石川遼くんとか。ああいった人はすぐスターになるじゃないですか。そういう人はただの少年じゃないんです。
とても魅力的で。大人もみんな一気に虜にしてしまうファンになっちゃうじゃないですか。

――原先生のあこがれが常に漫画の主題なのでしょうか

原:「常に自分のあこがれや願望みたいなのがないと描けないと思うんです。
今こういう時代だから、若い人に期待していると思うんですよ。
若い人もすごい人がでてくるじゃないですか。しかもルックスもいい子もおおくて(笑)男の子も女の子も。
そういうのが今の時代なのかなと思います。
(いくさの子でも)親父が今川義元から責められて危機に陥っているときに、(父親からしたら)息子がまだ12歳だけどすごく才能があって、本当に希望の光だったと思うんです。
信長ってそんな存在だと思うんですよ。
そういう才能を持った少年を、なんとか開花させたいと周りの大人の気持としてすごく伝わってくるんです。
それがこの時代の"親父と息子の関係"だと思うんです。そこを、魅力的にしっかりと描いていきたいです」

――原先生の漫画は、基本男性のファンが多いと思うのですが、今歴史漫画ブームということで、女性の方も増えてきています。
  「いくさの子」はどういった読者の方を想定して描かれていますか

原:「読者はあまり想定していません。僕はもともと、自分が見たいものを描いています。
僕は、自分が一般的な感性を持っていると思っていて、自分が面白いと思うものは結構、他の人も面白いんじゃないかって思っていて、自分が見たいものを描くというスタンスは変わらないです。
ただ今回、少年をテーマにしているんで、少年に読んでもらいたいなって。少年誌的なイメージは持っています」

――少年期の信長でストーリーは進んでいますが、これから先の構想として行きつく先はやはり本能寺を目指しているんでしょうか

原:「一応桶狭間を目標に現在は描いています。
描きながら変わっていくかもしれませんが。史実が少ない部分というところで、みんなが疑問に思っているところなんで
キャラクターも無名な人たちをスターとして描きたいです。戦国時代を陰で支えている、軍師を育てた、とても魅力のある人たちがいるわけです。
そういう裏方の、スポットが当たっていなかった人たちに、スポットをあててスターにしていきたいなって思っています」

――前田慶次みたいに

原:「そうです。掘り起こします」

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2ページ目以降には、制作秘話や、漫画家を目指しているかたへのメッセージなど、魅力的なトークが満載!