1966年に立ち食いそば屋として渋谷109前にオープンし、現在は一都三県で82店を構える関東有数のそばチェーン、富士そば。東京近郊に住んでいる人であれば、見覚えのある人も多いことでしょう。

 この富士そば、入ったことのある人であればお気づきかもしれませんが、店内には常に演歌が流れていて、都心の店とは思えないホッとした雰囲気で私たちを迎え入れてくれます。壁にも演歌のポスターがたくさん貼られていて、よく見ると作詞には「丹まさと」の名前。実は、富士そば社長の丹道夫さん、富士そば経営も軌道に乗った55歳のときに、作詞教室に入学。「丹まさと」の作詞家名で、これまでに30曲以上をCDとして発売。そのなかには五木ひろしさんの歌まで含まれています。

 なぜ丹さんは、これほどまでに演歌にこだわるのでしょうか。実は丹さん、愛媛の片田舎で貧しい少年時代を過ごしていて、そのときラジオから流れてきた演歌に自分の身を重ね、涙したことがあったそうです。また、若くして上京した当時、行くあてもないときには、長居しても文句を言われないそば屋で閉店まで時間を潰していたのだそう。

 「深夜でもゆっくりくつろげるそば屋があったらなあ」。そんな経験から、富士そばは24時間演歌を流し続ける立ち食いそば屋(実際にはほとんどの店にイスがあります)となったのです。富士そばの人情味溢れる経営哲学が書かれた『商いのコツは「儲」という字に隠れている』のなかで、丹さんはこのような発言をしています。

 「誰しも、人に言えない悩みや苦しみを持っているもの。おせっかいをするつもりはありません。ただ、店に流れる演歌が、お腹だけでなく、お客さまの心も満たしてくれるのであれば、これに勝る喜びはないのです」

 立ち食いそばやファストフードのお店では、長居をすると文句を言われそうで、食後はすぐに出て行ってしまう人がほとんどだと思います。仕事に追われて手早く食事を済ませたいけど、少しでも心を休めたい。そんなときは、富士そばで少しの間、演歌に耳を傾けてみるのもいいのではないでしょうか。誰からも文句は言われませんから。



『商いのコツは「儲」という字に隠れている 』
 著者:丹道夫
 出版社:インフォレスト
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