18日のW杯欧州予選プレーオフ、フランス対アイルランド戦で、本戦出場を決めたゴールをハンドの反則でアシストし、世界中から非難にさらされているフランスの主将ティエリ・アンリが22日、フランスのレキップ紙のロング・インタビューに応じた。翌日付の同紙に掲載されている。

 これまでアンリの声明は英語で発表されてきた。母国語でフランスの国民に向けて心情を吐露するのは、“事件”後これがはじめてとなる。レキップ紙はかなり踏み込んだ質問をしており、アンリも誠実に答えようとしているのがうかがえる。

 まず試合後から激動の4日間についてアンリは、「とてもつらかった。プレー中に生じた出来事から、とてつもなく問題が広がってしまった」と渦中に置かれた苦しみを語った。

 試合終了とともにピッチにしゃがみ込んだリチャード・ダンの傍らに座り「すまない」と自分の思いを伝えたアンリだったが、フランス代表OBのエリック・カントナをはじめ、その行為を“偽善”ととらえる向きもあった。「あの謝罪は写真のためのポーズだったのか」と厳しい突っ込みを受けると、アンリはフーッとため息をつき「写真なんて関係ない」と反論、アーセナル時代の2001年にFAカップ決勝のリバプール戦でよく似た状況で敗れたことを振り返り、「だからアイルランドの選手たちの気持ちはよくわかる。謝罪をするのは当然だったし、彼も受け入れてくれた」と語る。

 “偽善”との指摘は、問題のゴールの直後にアンリが喜びを爆発させたことからも生じた。これについては、「すべきことじゃなかった。でも正直に言うと、抑え切れなかった。(劣勢の試合で)苦しんだあとだったからね。このことは、ほんとうに後悔している。だからこそ、そのあとにアイルランドの選手たちひとりひとりに挨拶して回ったし、試合後も祝いはしなかった」と自分の非を認めている。

 またゴールのすぐあとに、主審にハンドを自ら申告しなかったことについても、「そうできる状況になかった」と苦しみぬいて同点に追いついた直後だけに、冷静な判断ができなかったことを明かす。

 試合から一夜明けるのも待たずして、アンリに対する批判はたちまち全世界に広がった。「ごく親しい人たち、連絡をくれた一部の人を除くと、誰の励ましも受けなかった。孤独を感じた。ほんとうに孤独だった」というアンリ。20日には「公正な解決は再試合」とする声明を出したが、それがFIFAがアイルランドの再戦要求を却下したあとだったことも、このインタビューで厳しく追及された。

 そのタイミングについてアンリは、「弁護士と代理人(ともに英国人)と話し合って声明文を作成したが、同じ日にFIFAが裁定を下すことは知らなかった。僕は練習に出ていて、弁護士が文章を仕上げているところだった」と説明する。

 代表引退を考えたというのはほんとうか、という質問には「ほんとうだ。金曜日(20日)、問題が大きくなったとき、かなりそんな気になっていた」と答える。「それに、(代表引退を考えたのは)これがはじめてじゃない。2006年のW杯が終わったあとも考えたけど、まだ早すぎると思い直した。ユーロ2008のあともそう。でも僕を必要としている世代がいると思って、辞められなかった。今回のことで、見捨てられたような気になったのはたしかだけど、僕から自分の国を見捨てる気はないんだ」と代表をつづける決意を固めた。

 「僕はつねにフランス代表のために戦ってきた。たしかに今回は(代表引退が)頭をよぎることもあった。親しい人たちの励ましがなかったら、違う結論になっていたかもしれない。でもいまは心に決めた。つねに最後まで戦っていこうと。たとえ今回起こったことが、ずっと刻まれることになろうとね。人は過ちを許すことができる。でもすっかり忘れてしまうことはできないんだ」と語るアンリ。汚名が一生ついてまわることは本人も覚悟しているが、南アのピッチでそれを少しでもはね返せるような活躍に期待したい。