熊木杏里(撮影:野原誠治)
 発売する多くの作品がCM・映画・ドラマとのコラボレーション作品となり、映像クリエイターを刺激するアーティストと言われる熊木杏里。2009年JRAブランドCMソングに起用された前作「雨が空から離れたら」からわずか2ヶ月、6月17日にはニューシングル「君の名前」を発売。同曲は、4月18日より放送開始となったNHK大型新番組「ワンダー×ワンダー」のエンディングテーマに起用されている。

――2007年10月に発売したアルバム「私は私をあとにして」以来のインタビューとなりますが、その後2008年11に発売した「ひとヒナタ」は、タイトルがその当時の熊木さんを象徴しているように感じていました。

熊木杏里(以降、熊木):そうですね。2008年は大きく言うと、人とたくさん出会ったなという年だったので。それで温かい、人と一緒に繋がることで「あぁ、一人ではないんだなぁ」という様な所から曲が出来てきたので、人が日向、「ひとヒナタ」という。

――どちらかと言うと今までは内向的というか、自分と向き合っているような歌詞が割と多いような印象を受けていたんですけど、「私は私をあとにして」から「ひとヒナタ」に向かう熊木さんは、もちろん内に向かっている部分もあれば、人との触れ合いや外の世界に目を向け始めて、変わり出している時期なのかなと思いました。

熊木:あぁー、そうですね、確かに変化は大きかったですね。「私は私をあとにして」から「ひとヒナタ」がもう随分カラーが違うものになったので。

――2008年9月に発売されたシングルでもあり、「ひとヒナタ」のオープニングを飾る「モウイチド」は、サウンド的にも今までの熊木さんに無かったぐらい、すごくテンションの高い元気な曲だなと思って。映画「Happyダーツ」の主題歌でもあったので、映画の内容を意識された部分もあったかとは思いますが。

熊木:そうですね。映画がそういうテンションの映画だったので、「自分に無いなぁー」と思って結構、自分に無いものを探す、それで「嫌だなぁ」と思っていることを直すということもありましたしね。あまりアップテンポが無いとか、ライブで盛り上がれないとか、盛り上がると言ってもそんなに“最高潮”という訳ではないんですけれども(笑)。

――「ひとヒナタ」収録曲でもあり、今年4月にシングルとしてもリカットされた「雨が空から離れたら」の歌詞を見ていると、今までこういう強いメッセージを表立って発するイメージが無かったので、ちょっと意外でもあり、嬉しくもありました。

熊木:そうですね。明確に「友達に言いたい」ということが言葉をすごく変えてくれたかもしれないですよね。「自分が今ちゃんと言いたいんだよ」という、だから言えること、という段階に自分が降りてきていたんですよね、多分。だから、誰かの気持ちをとか、物をとか、その空間をとかではなくて、“あなたと私”という曲だった。「誕生日」という曲とかもそうですけど、そういうのが割と出てきたのかもしれないですね。だから、自分からちゃんとメッセージを言っている口調になっているかもしれないですね。

――今年4月から5月に掛けて、大阪・名古屋・東京で「SPRING TOUR 2009〜花詞〜」を行われましたが、ツアーを終えて手応えは如何ですか?

熊木:すごく良かったですね。お客さんの反応もですけど、自分の中でも掴むものが大きかったですね。バンドのメンバーが全員変わって、年齢的にちょっと若くなって、去年のツアーとはまた違いましたね。

――ツアーに向けて何かテーマはありましたか?

熊木:季節的にもそうなんですけど、少し柔らかく。どうしても逞しいような精神があるので、見た目的には少し柔らかでしなやかな女の人がこういう歌を歌っているよ、という。柔らかいんだけど、メッセージとして伝わるものはちゃんと凛とする、みたいな。メッセージのある曲も少し増えてきていたので、そういうのを選びつつ。佇まいとしては無理なくしなやかでいられる、そういう風を注げたらいいな、とは思っていました。

――年齢的にも、27歳になって変わってきた部分だったりもあります?

熊木:そうですね、なんかスッと立っていられないかなぁ?と思って。それには、そういうための曲も必要だったんですけど、ちょうど「花言葉」とか「桜見る季節」とか、なんか柔らかい、女の子に向けた歌が出来たおかげで、多分ちょっとだけ意識が変わりましたね。