周囲の配慮も必要

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 前編【国立理系の大学院を経てIT大企業に入社も「集中力に欠け、ミスが多い」と酷評…急増する「大人の発達障害」が浮き彫りにした“令和の職場”の生きづらさ】からの続き──。なぜ「大人の発達障害」に対する関心が高まっているのか。それは子供の時より、大人になってからのほうが社会と不適応を起こすケースが注目を集めているからだ。そもそも有病率などから考えると、ASD(自閉症スペクトラム障害)は人口の1%前後、ADHD(注意欠如・多動性障害)は5%あまり見られるため、特に成人においては発達障害=ADHDと考えていいという。それでは、なぜ「大人のADHD」が増えているのだろうか?(前後編の後編)

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【写真】「好奇心が強い」「行動力や決断力がある」一方で「整理整頓が苦手」「忘れ物や落とし物、遅刻が多い」…周囲が配慮すべきADHDの特徴とは

 昭和医科大学客員教授で精神科医の岩波明氏は、発達障害の研究と臨床の第一人者として知られる。

周囲の配慮も必要

 岩波教授は「かつて発達障害は『子供の問題行動』を読み解くための概念でした。それが今は『大人の発達障害』に関心が集まっているのは、社会人になってから社会的不適合を起こす患者さんの存在がクローズアップされているからです」と言う。

「ADHDの人は特定の事柄には集中力が非常に高く、好きなことは寝食を忘れて没頭する傾向があります。こうした個性が勉学に向かうと好成績につながるため、ADHDの患者は高学歴の人が珍しくありません。さらに行動的で感情表現も豊かといった理由から、特に初対面の人に『魅力的だ』と感じさせます。一方、ADHDは遅刻やケアレスミスが多いという特徴もあります。その結果、ADHDの患者は小学校から大学にかけて、『成績は上位だが、忘れ物や遅刻、ケアレスミスが目立つ』生徒だったケースが多いのです。これに担任の先生や担当教授は『ミスも多いが、勉強はできているから大丈夫だろう』と判断します。ところが就職すると評価は一変します。社会人にとって遅刻やケアレスミスは厳禁だからです」

ADHDの人は“芸術家肌”

 岩波教授は「ADHDの患者さんが就職すると、職場で乗り越えなければならない“ふるい”が3つあります」と言う。

「1つ目は入社して1~3年目の時期です。この時に会社から問題視されるのは遅刻や締切の遅れ、ケアレスミスなどになります。ここを乗り切って管理職に出世すると、2つ目のふるいとして部下の問題に直面します。部下の指導を行いながら、自分の仕事も進めなければなりません。ところがADHDの人は“マルチタスク”が苦手なため、ここで不適合が起きてしまうケースがあるのです。3つ目は出世して、幹部社員や役員に就任した時です。このポジションは完璧な調整能力が求められます。社内外の関係部署と折衝することが仕事の大半です。本来、ADHDの人は芸術家タイプが多いことからも分かりますが、1人で自分の思いに任せて仕事を進め、周囲があっと驚くような成果を出すことが得意なのです。要求される“調整能力”、“根回しの力”とは正反対なので、ストレスに苦しむことになります」

 昭和の職場には、一匹狼の営業担当で「経費精算や勤怠管理などの事務処理能力は破綻しているが、とにかく大型の契約だけは結んでくる」という社員がいた。

“失われた30年”と発達障害

 企業にとって、人件費が会社の経営を圧迫するような時代ではなかった。社内には余裕があり、サポートする事務担当の社員も多かったこともあり、“型破りの一匹狼”でも会社の戦力として重宝された。

 ところが2000年代から“失われた30年”が始まり、企業はリストラに奔走するようになる。

 企業は「営業成績は抜群だが、書類の一つも満足に提出できない」規格外の社員と、「営業成績はそこそこでも、事務処理能力は完璧」という優等生タイプの社員と、どちらを残すかという問題に直面した。

 そして後者を残したわけだが、前者の社員にADHDの特性を持つ人が多いのは言うまでもない。

 かつての管理職は「部下の管理」に専念することができた。だが今は「プレーイングマネージャー」が基本だ。ADHDの人が管理職になるとストレスを強く感じるのは、先に触れた“マルチタスクが苦手”という特性から明らかだろう。

「発達障害とは総称ですから、本来はADSなども含みます。ただし有病率を考えると、成人においては、発達障害=ADHDと考えても支障はありません。そして本来、ADHDは子供に特有の精神的疾患として捉えられてきました。教室の中で多動や衝動を抑えられない子供たちにどう対処するかという問題だったからです。ところが日本では、多動衝動性は見られず不注意症状が中心の『子供のADHD』は実質的に放置され、『大人のADHD』だけが話題になっているという状況です。これは大きな問題だと考えます」(同・岩波教授)

「子供の発達障害」を放置する文科省

「子供のADHD」を放置することが大問題なのは、不登校、いじめ、自殺の原因になっていることからも明らだ。

「さらに子供の時期に発達障害の有無を把握すれば、余裕をもって治療できる時間を確保できます。大人の発達障害が減ることも期待できますが、文部科学省は十分な対策を講じていません。実のところ文科省は事態を正確に把握していると思います。教育現場の問題点をまとめた報告書などには『発達障害』の言葉が登場するからです。有病率から逆算すると、子供の有病率は成人より高いため、1クラスにはADHDの子供が数人いる計算になります。小・中学校の健康診断に発達障害の項目も付け加え、専門の精神科医が生徒全員を問診すれば状況が改善されるのは間違いありません。ところが文科省の対応は遅れています。学校の教師に、これ以上の負担をかけることができないのは確かでしょう。だったら別の方法も検討すべきと考えます。実は大人の場合でも同じです。発達障害を診察できる医師やクリニックは首都圏を筆頭に大都市圏に集中しています。地方都市では県立病院や大学病院でさえ診療経験のある精神科医が不足しています。そのため見過ごしや誤診の問題が起きています」(同・岩波教授)

 ADHDは効果が期待できる薬が複数あるが、精神科医が統合失調症やうつ病と診断してしまうと、全く異なる薬が処方されてしまう。ASDには有効な薬はないが、正しく診断して適切な生活指導やグループワークに導入することが重要だ。

最後は夫婦仲

 その一方で、経験豊富な医師がADHDだと正確に診断した場合なら、投薬や生活指導によって症状が改善する可能性が高い。

 岩波教授は「たとえ発達障害の特性を持っていることは事実であっても、職場などで周囲と軋轢が生じていなければ、それは単に個性と解釈すべきです」と言う。

「一方、来院の理由が『上司や家族の助言』というケースは少なくありません。つまり周囲の人が不適応を指摘した場合、素直に精神科医の診察を受けるべきでしょう。ちなみに会社では適応していても、家庭では不適応というケースもあります。これはADHDの男性に多くみられますが、その妻は『あなたは私の話に全く耳を傾けない。家では自分の世界に引きこもっており、発達障害の可能性が高い』と主張して夫に病院へ行くよう“命令”するのです。こういう場合、夫はADHDかそれに近い状態のことがかなりみられます。職場で全力を尽くしているので家庭はテンションが下がり、妻の話を聞く余裕が持てなくなります。私からは、『とにかく奥さまに逆らってはダメです。奥さまの言うことは真剣に聞いてください』と助言しますが、妻は数十年の恨みつらみが積み重なっているため、なかなか簡単に夫婦仲は改善しないようです」(同・岩波教授)

 昔も今も、多くの人がADHDの特性を持っていた。ところが昭和の時代は今ほど問題にならなかった。これには理由があるという。

 前編【国立理系の大学院を経てIT大企業に入社も「集中力に欠け、ミスが多い」と酷評…急増する「大人の発達障害」が浮き彫りにした“令和の職場”の生きづらさ】では、昭和の職場と令和の職場における決定的な違いなどについて詳細に報じている──。

デイリー新潮編集部