【村井 真子】これは「やりがい搾取」?…求人票の「ある一言」に30代女性が大混乱「思っていた働き方と違った」を避けるためにすべきこと

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労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている社労士である私が、企業や労働者から受けるご相談は年々多様化しています。

なかでも、働き始めてから「求人票で抱いた印象と、実際の職場がまるで違った」と気づくケースは少なくありません。給与や休日といった条件が違うこともあれば、「風通しがよい」「若手が活躍」「アットホーム」といった言葉から想像した職場像と、現実の働き方が食い違っていることもあります。 

今回は、いわゆる“やりがい搾取”と呼ばれるような環境で働いた経験を持つ依頼者から、転職先の求人について相談を受けた事例をもとに、「アットホーム」をうたう求人をどのように読めばよいのかを考えてみたいと思います。(なお、ご相談事例は個人の特定を防ぐため、複数のエピソードを組み合わせて再構成したものです)

【前編】→「社労士から見てどう思います?」…30代「転職活動中の女性」が求人票のある一言に「怖くなった」ワケ

「こんなはずじゃなかった」を防ぐ方法

では、求人票に「アットホーム」と書かれていた場合、求職者はその言葉をどのように受け止めればよいのでしょうか。

まず押さえておきたいのは、「アットホーム」という言葉自体は、職場の実態を客観的に示す情報ではないということです。社員同士が話しやすい、上司との距離が近い、困ったときに助け合えるなど、企業によってその言葉に込めている意味は異なります。

そのため、求人票に「アットホーム」と書かれているだけで、働きにくい会社だと決めつけることはできません。一方で、その言葉だけを見て、働きやすい会社だと判断することもできません。

例えば、「助け合い」は、欠勤した人の仕事をほかの社員が残業して穴埋めしているという意味かもしれません。「社員同士の距離が近い」は、休日の行事や飲み会が断りにくいということなのかもしれません。「上下関係がない」が、指揮命令系統や評価基準が整っていないことの言い換えになっている場合もあるでしょう。

もちろん、すべての会社が意図的に好ましくない実態を隠しているわけではありません。会社自身が、職場のよさを具体的な言葉にできておらず、人間関係や雰囲気の良さをまとめて「アットホーム」と表現しているだけの場合もあります。

しかし、求職者にとって大切なのは、会社がその言葉を使った意図を推測することではありません。「アットホームとは、具体的にどのような状態を指しているのか」「それが自分の働き方にどのような影響を及ぼすのか」を確認することです。

厚生労働省の調査では、就職・転職後に知った実際の職場環境との間に、自分にとって不都合なギャップがあった人は全体の約6割とされています(参照:「中途採用を通じたマッチングを促進していくための企業 の情報公表の在り方等、諸課題に関する調査研究」報告書|株式会社三菱総合研究所・厚生労働省)。

また、こうした状況を踏まえて定義が曖昧な情報、長期間更新されていない情報、制度の有無だけで利用実態が分からない情報は見直す必要があると示されています(参照:求職者等への職場情報提供に当たっての手引|厚生労働省)。

求人情報を見るときは、書かれている言葉の印象だけで判断するのではなく、その言葉を裏づける具体的な制度、行動、数値が示されているかに目を向ける必要があります。そして同時に、「具体的に書かれていないこと」にも注意しなければならないのです。

求人の「解像度」を上げる質問の仕方

私はAさんと一緒に、求人票を上から確認していきました。

最初に見たのは仕事内容です。「幅広い業務に挑戦できる」「臨機応変に対応する」といった言葉は、一見すると裁量が大きく、成長できる仕事に見えます。しかし、主業務と付随業務の区別がなければ、入社後にどこまで仕事が広がるのか分かりません。

イベントの企画担当として採用されたはずが、物品の運搬、休日の受付、営業、清掃、経理補助まで任されることもあり得ます。

2024年4月以降、募集時には、雇入れ直後の業務だけでなく、将来の配置転換などを含む「従事すべき業務の変更の範囲」や「就業場所の変更の範囲」を明示する必要があります。有期労働契約の場合には、更新基準や更新上限も確認すべき事項です。

Aさんが見ていた求人には「その他会社が必要とする業務」とありました。この文言自体に問題があるわけではありませんが、業務範囲が広すぎる場合には、面接で具体的に尋ねることで入社後のギャップを減らすことができます。

・試用期間はどのような業務を担当するか。それ以降はどんな業務をすることになるか

・1日の仕事の流れの確認

・企画業務と、それ以外の業務の割合

・今回の採用は増員か、退職者の補充か

こうした質問をすれば、「幅広い仕事」の中身が少しずつ見えてきます。質問に対して具体例が返ってくるか、「そのときになれば分かる」「みんな何でもやっている」といった曖昧な回答に終始するかも、その会社で働くか否かの判断材料の一つになります。

次に確認したのは賃金です。月給の総額だけでなく、基本給、定額的に支払われる手当、固定残業代を分けて見なければなりません。

固定残業代がある場合は、固定残業代を除く基本給が何時間分に当たるのか、その時間を超えた分を追加で支払うことなどが明示されているかを確認します。名称が「職務手当」「業務手当」になっていても、実質的に時間外労働の対価であれば、その中身を確認する必要があります。

Aさんが見せてくれた求人票には「時間外手当、職務手当を含む」とだけ書かれていました。そこで私は、「応募の際には給与の内訳を確認してください」と伝えました。具体的には下記のような内容を確認するとよいでしょう。

・月給のうち、基本給はいくらか

・「職務手当」「業務手当」など、各手当はいくらで、どのような条件・目的で支給されるものか

・手当の中に固定残業代が含まれているか

・固定残業代が含まれる場合、時間外労働の何時間分に相当するものか、またその金額はいくらになるか

・実際の残業がなくても、固定残業代は全額支給されるか

・想定された時間を超えて残業した場合、超過分が別途支給されるか

・深夜労働や休日労働の割増賃金は、固定残業代に含まれるのか、別途支給されるのか試用期間中に基本給や手当の金額が変わるか

・求人票に記載された月給の幅は、どのような経験・能力・条件によって決まるか

・賞与や昇給は「制度がある」だけなのか、前年度の支給・昇給実績もあるのか

さらに、休日についても確認が必要です。Aさんが見ていた求人には「週休2日制」とだけ記載がありましたが、実は「完全週休2日制」と「週休2日制」は同じ意味ではないため、誤認がないかを確認するほうが安全です。

「完全週休2日制」は、毎週必ず2日の休日がある働き方です。ただし、必ず土日が休みになるわけではありません。イベント企画業務で土日に出勤する場合でも、平日に毎週2日の休日が確保されていれば、「完全週休2日制」に該当します。また、その2日が連続しているとは限らず、「月曜・火曜」のように連続する場合もあれば、「月曜・木曜」のように分かれる場合もあります。

一方、「週休2日制」は、1ヵ月のうち少なくとも1回、週に2日の休日がある働き方を指すのが一般的です。毎週2日休めるとは限らず、それ以外の週は休日が1日だけという場合もあります。

そのため、求人票では「完全週休2日制」「週休2日制」という表現だけで判断せず、次の点まで確認する必要があります。

・年間休日数は何日か

・休日となる曜日は固定されているか

・土日出勤は月に何回程度あるか

・土日出勤をした場合、平日に休日を取得できるか

・2日の休日は連続するのか、別々の日になるのか

・繁忙期やイベント開催月も同じ運用なのか

そして、Aさんのように以前の職場で私生活との境界が曖昧になった経験がある場合は、次のような質問も有効です。

・休日や勤務時間外に、業務連絡へ対応することはあるか

・社内行事や懇親会は、勤務として扱われるか(参加は任意か義務か、その頻度はどうか)

・自分と同じ仕事をしている社員の年次有給休暇の平均取得日数

・配属予定部署の月平均残業時間と、繁忙期の目安

・困ったとき、直属の上司以外に相談できる窓口の有無

聞きにくい」を解消する、もう一つの方法

なお、このような細かな確認をすることについて「面接の段階でそこまで聞いてもよいのだろうか」「細かいことを聞くと、面倒な応募者だと思われないだろうか」と心配する人もいるでしょう。

しかし、労働条件や具体的な働き方を確認することは、会社を追及することではありません。入社後のミスマッチを防ぐために、会社と応募者の双方にとって必要な確認です。

確認した結果、希望どおりの条件ではなかったとしても、実際の働き方を理解し、納得したうえで入社するのであれば問題ありません。反対に、休日の取り方や残業時間、業務範囲などが、自分には明らかに続けられない働き方だと分かったなら、その会社とは最初から相性が合わなかったということです。

これは会社にとっても同じです。応募者が仕事内容や労働条件を充分に理解しないまま入社すると、早期離職だけでなく、「求人票の内容と違う」「面接で聞いていなかった」といった行き違いや労務トラブルにつながる可能性があります。採用の段階で具体的な質問をしてもらい、会社側も実際の働き方を正確に説明しておくことは、その後のリスクを減らすことにもなります。

曖昧なまま入社してから「思っていた働き方と違った」と気づくよりも、面接の段階で確かめる方が、応募者にとっても会社にとっても誠実です。大切なのは、相手を疑うような聞き方ではなく、「長く働くために確認しておきたい」という姿勢で、必要な情報を具体的な言葉と数字で尋ねることです。

どうしても聞きにくい……という場合は、厚生労働省が運営する職場情報総合サイト「しょくばらぼ」を確認することも有効です。このサイトには職場改善や情報公開に積極的な企業のデータが掲載されており、残業時間、有給休暇取得率、平均年齢などが検索・比較できます。

新卒者等については、直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数、平均勤続年数、研修の有無、月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数などの職場情報を求める仕組みもあります。こうした数字を確認することで、求人票の「雰囲気」を、公開されている「実績」と突き合わせることができるでしょう。

ただし、全社平均が配属予定部署の実態と同じとは限りません。残業時間が全社平均で少なくても、特定の職種や繁忙期に集中していることはあります。数字を確認したうえで、「配属予定部署ではどうですか」と一段深く尋ねることが必要です。また、すべての企業が登録しているわけではないので、未掲載企業の求人に応募する場合は同業種や地域における一つの目安として参考にするとよいでしょう。

「求人票の条件」はどこまで法的に有効なのか

なお、気をつけたいのは「求人票は雇用契約書ではない」という点です。ハローワークも、求人情報や求人票は雇用契約書ではなく、採用時には書面で労働条件の明示を受けるよう案内しています。

では、求人票と実際の条件が違っていても、会社は責任を負わないのでしょうか。この点が争われた代表的な裁判例に、福祉事業団A苑事件があります(京都地裁判平成29年3月30日)。

この事件で労働者は、ハローワークの求人票を見て児童デイサービスなどを行う事業所に採用されました。求人票には「期間の定めなし」「定年なし」と記載されていました。

ところが、採用後に示された労働条件通知書では、「契約期間1年」「定年65歳」とされ、署名押印を求められました。労働者はすでに前職を辞めており、拒否すれば仕事も収入も失うと考えて署名しましたが、1年後、会社から契約期間満了として退職扱いにされました。

裁判所は、求人票は求職者の応募を誘うものであり、それだけで直ちに労働契約が成立するわけではないとしながらも、求職者は求人票に書かれた労働条件が契約内容になることを前提に応募すると指摘しました。そして、当事者間で異なる合意をしたなどの特段の事情がない限り、求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になると判断しています。

さらに、労働条件通知書に署名したことについても、署名という行為だけを見て同意があったとはしませんでした。変更に至った経緯、会社からの説明、労働者が自由な意思で応じたといえる客観的な理由があるかを検討し、この事案では変更への同意を認めませんでした(参照:募集条件と実際の労働条件が異なる場合|厚生労働省)。

一方、求人票の記載が常にそのまま労働契約になるわけでもありません。八州測量事件(東京高裁判昭和58年12月19日)では、求人票に記載された基本給が「見込額」であったことなどから、記載額どおりに賃金が確定したとは認められませんでした。ただし裁判所は、求人者がみだりに求人票の見込額を著しく下回る賃金を定めるべきではないとも指摘しています。

つまり、「求人票に書いてあったから、必ずその条件になる」とも、「求人票は広告だから、何を書いても契約とは無関係」とも言えません。採用面接でどのような説明があったか、別の条件に合意したか、その合意が自由な意思に基づくものかなど、個別の事情によって判断されます。

だからこそ、求職者側も記録を残しておくことが大切です。求人ページを保存し、面接で確認した内容をメモする。内定通知書、労働条件通知書、労働契約書を受け取ったら、求人票と1つずつ照合する。違いがあれば、入社してからではなく、できる限り契約を結ぶ前に理由を確認する。口頭で説明を受けた場合も、メールで「本日ご説明いただいた条件は、○○という理解でよろしいでしょうか」と確認しておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。

職業安定法では、募集時に、業務内容、契約期間、試用期間、就業場所、始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日、賃金、社会保険・労働保険の適用などを明示することが求められています。

また、募集時に示した条件を変更、特定、削除、追加する場合には、その内容を求職者に明示しなければなりません。求人票と面接時の説明が異なる場合、まず理由を確認し、ハローワーク求人であれば窓口や求人ホットラインへ申し出る方法もあります。

「アットホーム」の裏にあるもの

求人票を一緒に一通り確認したあと、Aさんは少し考えてから言いました。

「私、アットホームってよい言葉だと思っていました。でも、その言葉の意味が私の思っている通りであるかどうかは別なんですね」

Aさんが避けたいのは、人間関係の近い職場ではありません。誰かが困ったときに助け合うことでも、仕事にやりがいを持つことでもない。避けたいのは、「仲間なのだから」「好きな仕事なのだから」という言葉によって、本来は会社が管理すべき労働時間や業務分担の問題を、個人の善意に背負わせる職場です。

私はAさんに、応募するかどうかは、求人票だけで決めなくてもよいと伝えました。まず会社のウェブサイトや公的な職場情報を確認し、質問したい事項を整理する。そのうえで面接に行き、会社がどのように答えるかを見る。質問への回答が具体的で、都合の悪い数字も含めて説明しようとする会社なら誠実だと考えられます。

後日、Aさんはその会社の面接を受けました。休日のイベントについて質問すると、「原則として勤務扱いで、翌週に振替休日を取る。年に数回、任意参加の地域行事もある」と説明されたそうです。

固定残業代の内訳についても書面で示され、配属予定の社員と話す時間も設けられました。懸念していた終業後の連絡は入ることはあるものの、勤務時間外の連絡は翌営業日の対応でよいというルールがあり、Aさんは最終面接でも賃金や就労時間までしっかり認識を合わせたうえで就労を決めたということです。

「アットホーム」「風通しがよい」「若手が活躍」「やりがいのある仕事」。こうした言葉は、会社の魅力を伝える入口にはなります。しかし、それだけでは労働条件も職場の実態も分かりません。

求人票を読むとは、そこに書かれた言葉を信じるか疑うかの二択ではありません。曖昧な言葉を、仕事内容、賃金、時間、休日、育成、評価、相談体制といった確認可能な情報へ置き換えていく作業です。

親密さが、ルールの代わりになっていないか。助け合いが、誰かの長時間労働によって成り立っていないか。やりがいが、残業代や休日を求めにくくする理由に使われていないか。アットホームという言葉を見たら、拒絶するのではなく、その中身を具体的な事実に翻訳してみることが必要です。

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