同じSUVでもまったく違う「クロカン」「クロスオーバー」の特性。プロが解説する高重心と重い車重のリスクと正しい運転術

運動性能をスポイルするSUVの物理的特性
ひと口にSUVと言っても、じつは大きくふたつのタイプに分けられる。ひとつはオフロード走行を前提とした”クロスカントリー”タイプ。頑強なシャシーと4WD機構を備え、悪路走破力を最優先した設計だ。もう一方が”クロスオーバー”タイプで、モノコックボディを持ち、実質的にはハッチバックやワゴンの延長線にある。日本市場で多く売れているSUVはこのクロスオーバータイプに属する。

さらに日本ではミニバン派生のSUVも存在する。この場合、SUVを(SpaceUtility Vehicle)としてとらえたことが始まりだったが、いつの間にかSUVという、ひとつの括りになって誤解を生じている部分もある。ミニバンは、あくまで高い車高とスクエアなボディを持ち、広い室内に3列シートやスライドドアを備えた多目的車。本来のSUVとは分けて考える必要がある。
SUVをドライブするうえで、まず理解しておきたいのは、その物理的特性だ。車重がかさみ、重心が高い。総じてルーフの面積が大きく、車体のもっとも高い部分が重くなっている点は運動性能面できわめてネガティブな要素となる。
近年はパノラミックサンルーフといった装備に人気があるようだが、ガラス面積が大きく、開放感を楽しめる一方、重量は通常のスチールルーフより数十kgも重く、運動性をさらに損ないかねない。とくにガラスサンルーフは開口部が大きいほど車体剛性が低下しやすく、補強を加えることでさらに重量増加を招くという悪循環になっている。

スポーツカーではルーフにアルミやカーボンなど軽量な素材を用いて運動性能の向上を図るが、パノラミックサンルーフは走行性能面ではまったく逆の効果を生じてしまう。
速度を増すほど厳しいクロカン系での高速走行
クロスカントリー系SUVの多くは足まわりにリジッド(固定)タイプを採用しているケースが多い。悪路での走破性が高く、破損しにくく、耐久性にすぐれる。しかし、バネ下重量は重くなる傾向で、乗り心地や操縦性にデメリットが生じやすい。とくに前後にリジッドアクスルを採用している場合、オンロードでの快適性はほぼ望めず、操縦安定性も劣るのでハイスピード走行は避けるべきだ。

さらにクロカンSUVでは外径の大きなタイヤと高剛性のホイールを装着しているため、これもバネ下重量を重くする原因になっている。したがって、クロカンSUVはスペック的にもっとも高速走行に向いていない車種と言えるかもしれない。
一方、クロスオーバー系SUVはどうだろう。多くは乗用車のモノコックを流用し、サスペンションマウント接合部にスペーサーをかませて50mm程度車高を高めている。これで最低地上高も高まり、悪路走破性が向上するというわけだ。しかし、その分重心も高くなり、セダンやクーペと比較して操縦性は低下する。

ベースとなっている乗用車用のサスペンションをそのまま流用している場合、アームの配置角度が変るとジオメトリーも変化して操縦性が損なわれる。専用のサスペンションアームを新設しているか、あるいは取り付け点を含めてジオメトリーの最適化を図っているかなどに目を向け、操縦性に対する適合性を判断したい。
制御操作を難しくする慣性モーメントの大きさ
SUVで不可避の重い車重、高い重心は、加速・減速・旋回いずれの局面でも慣性モーメントの影響を強く受ける。旋回中に急ブレーキを踏めば荷重移動が大きく、セダンなどと比べて姿勢変化が大きい。こうしたことから過渡領域の制御が苦手で、限界も低いことがわかる。昨今、自動車メーカーはSUVの挙動をサスペンションの設定や電子制御によって制御し、安定を図っているとはいえ、走行環境や運転者の操作次第で挙動が乱れることは十分あり得る。

駆動輪に十分なトラクションを与えることを前提に設計され、4WD時の悪路走破性にすぐれるクロカン系SUVも、舗装路では高重心によるロール量の増大は避けられない。4WDが望ましいのは低μ路での走破性の高さが大きな理由で、クロカンとはいえ不用意にオフロードに踏み入れるのは避けるべき。また、三菱のデリカD:5のようにミニバンとクロカンSUVをミックスしたモデルもあり、キャラクターを正しく理解する必要もあるだろう。
一方、クロスオーバー系SUVは、多くに2WDモデルが設定されている。実際、街なかで見かけるその大半はFFの2WDで、これは新車の販売比率見ても如実に表れている。

コストや燃費の面で2WDは合理的だが、摩擦係数の低い悪路、積雪/凍結路では弱点が露呈する。駆動輪がフロントにあるため、とくに上り坂や発進時にスリップしやすく、前荷重が抜けた瞬間にトラクション=駆動力を失いやすい。
エンジンブレーキを活用し穏やかで丁寧な操舵も必須
とくに舗装された高速道路や一般道では、「慣性の大きさ」を意識した操作が何よりも重要となる。
そのため減速は早めのアクセルオフでエンジンブレーキを活用したい。エンジンブレーキは車軸を中心に制動力が加わるため、ピッチング、すなわち車体の上下動を起こしにくいのだ。

SUVでは高重心対策のひとつとしてアンチダイブ(=前のめりにならない)ジオメトリーが採用されているケースが多いが、ブレーキング時の過度な姿勢変化を抑制する半面、じつは減速力を引き出しにくいという一面もある。
旋回では十分に減速し、舵角は緩やかに与えたい。ロール=車体の傾きについても、アンチロールを強めている車種は外輪への荷重移動をさせにくく、舵角応答が遅れがちになる。操舵に対する応答に、よりセンシティブに反応する必要がある。
そして冬季の雪道や凍結路ではSUVの高さ、重さがさらなる危険要素として作用する。高重心によって横滑りの収束性は一般的な車両に劣り、車重がある分、一度スリップが始まると制御に苦労する。

4WDだとしても過信は禁物で、とくに下り坂ではエンジン(電動車の場合は回生)ブレーキを有効に使うことが重要だ。フットブレーキばかりに頼って、減速Gを過度に生じさせればジャッキアップ現象が発生。後輪の接地性が損なわれてABSが介入し、結果的に制動距離を延ばしてしまう。ゆえに、ドライバーにはアクセルオフで減速、フラットな姿勢を保ちながらラインを整える技術が求められるのである。
さらに加速旋回おいて急激なアクセル操作を避けるのは言うまでもない。FFであれば、あっけなくタイヤのグリップを失ってしまうだろう。しかし4WDであっても、加速しながらの旋回は難度が高く、ゆっくりハンドルを直進位置に戻しながら、繊細なアクセル操作で車両を進ませるのが雪道走行の基本だ。

万能に思えるSUVも物理法則の制約からは逃れられない。重心の高さ、車重の大きさ、駆動方式の特性。これらを理解したうえで操作を行うことがオンロードでもオフロードでも、そして積雪/凍結道でも安全を確保する唯一の方法だ。SUVを選択したドライバーこそ、そのクルマの仕組みや特性を隅々まで理解し、道路環境との正しい対話を心がけるべきである。
講師 中谷明彦
武蔵工業大学工学部機械工学科(塑性工学専攻)卒。ジャーナリスト/レーサー活動とともに、新車やタイヤの開発にもかかわり、4WD車や電子制御による車両運動性能の解析を得意分野とする。1989年に日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員に就任。1997年より座学のみによるドライビング理論研究会「中谷塾」を開設し、現インディカードライバー・佐藤琢磨らを輩出。現在の愛車はジープ・ラングラー(PHEV)。
※本記事は雑誌「CARトップ2025年11月号」の記事を再構成して掲載しています











