ドキュメンタリー映画「襲名」の見所を語った歌舞伎俳優・市川團十郎(左)と三池崇史監督

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 歌舞伎俳優・市川團十郎(48)の襲名に密着した映画「襲名」(三池崇史監督)が25日に公開初日を迎える。35年以上のキャリアを持つ三池監督の初ドキュメンタリー映画。映画「一命」(2011)などでタッグを組み、気心の知れた間柄の團十郎と三池監督がこのほど、スポーツ報知のインタビューに応じ、第83回ベネチア国際映画祭の公式独立賞で最優秀作品賞に輝いた世界的注目作の製作秘話を語った。(有野 博幸)

 三池監督は「市川團十郎というのは歌舞伎界の最高峰の名前。それを襲名する歴史的瞬間を記録に残したい」という思いでメガホンを取った。「襲名した、あの日の存在感、オーラは特別なもの。記録できたことに意義を感じています」と胸を張った。

 「自分は歌舞伎の専門家ではない」というスタンスで「意図を持たず、感動的に演出せず、最後はナレーションをなくし、芸の一端を臨場感のある形で見せる」と意識した。その結果、「舞台上で團十郎の個性はむき出し。人となりは芝居の中に込められている。芸を受け継ぎ、次の世代につないでいく。その重責は、人間が耐えうる負荷の限界を超えている」と感じたという。

 團十郎にとっても三池監督は特別な存在だ。「歌舞伎俳優の楽屋には、お客様や後援者さんがいらっしゃるのが一般的。でも、僕は若い頃から苦手で…。一切、他人が入らない楽屋にしてしまったんです。ただ、楽屋にいても違和感のない人が2人だけ。一人は写真家の篠山紀信さん。もう一人が三池監督なんです。こんなに存在感があるのに、ものづくりに対する意識が、きめ細かいのかな」。信頼は絶大。今作の内容にも一切、注文をつけなかった。

 今月3日、團十郎はベネチア国際映画祭のレッドカーペットに「男伊達花廓(おとこだてはなのよしわら)」の衣装で登場した。そこで感じたのは「海外のカメラマンは興味がないものは撮影しない」ということ。華やかに見える映画祭のシビアな実情に触れて「人前に出る職業は、厳しい世界。その中で興味を持って撮影していただけて良かった」。公式上映では約5分間に及ぶスタンディングオベーションの喝采を浴びた。

 13年に父の12代目團十郎を亡くし、不安を抱えながらの襲名披露だったが、松本白鸚(84)、7代目尾上菊五郎(83)、中村梅玉(80)らが寄り添ってくれた。「お兄さん方には、本当に助けていただいた。このご恩をどう返していけばいいのか。今後の僕の使命でもあります」

 23年に死去した市川猿翁(3代目猿之助)さんに対するリスペクトの気持ちも語った。「猿翁のお兄さんとは、若い頃、特に新之助時代に食事に連れて行っていただきました。実は、成田屋と澤瀉屋の距離が縮まったきっかけは僕なんです。父は成田屋としての伝統を重んじる考えを持っていましたが、僕は反対を押し切って澤瀉屋のやり方で『四の切』『伊達の十役』をやりました」

 ◆映画「襲名」 江戸時代から330年続く歌舞伎界最高峰の大名跡「市川團十郎」の2022年に行われた13代目襲名披露に密着したドキュメンタリー。多くの映画を演出してきた三池監督があえて演出を排し、歴史的瞬間の舞台裏を記録。第83回ベネチア国際映画祭の公式独立賞で最優秀作品賞を受賞し、「その美しさは、まさに一枚の絵画のようだ」と称賛された。