地球を含む「天の川銀河」を覆っている真っ黒な球体「ダークハロー」

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もし未知の異星人から「あなたはどこから来ましたか?」と問われたら、どう答えますか?

「地球から」という回答は、宇宙規模の社交場では失笑を買ってしまうかもしれません。実は私たち地球人は、ある決定的な理由により、宇宙の平均レベルよりも科学の発達が遅れている可能性があるのです。

ファーストコンタクトの日に恥をかかないために必要なのは、地球の狭い常識ではなく、宇宙のどこへ行っても通用する「普遍的な教養」と「宇宙的思考法」です。

多種多様な異星人が行き交う宇宙ステーションで繰り広げられる、知的で刺激的な問いの数々。宇宙で真に求められる「本当の科学知識」とは一体どのようなものなのか、その知的な冒険の一端をぜひ覗いてみてください。

※本記事は、講談社『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(高水 裕一)の内容を抜粋・再編集したものです。

世界をつくった「創造神」

前の章では、宇宙を加速膨張させて、遠い未来には宇宙の「破壊神」となってしまうかもしれないダークエネルギーを紹介しました。一部の信奉者は「創造神」と呼んでいたようですが、さすがにそれは無理があるでしょう。

しかし宇宙が始まった過去にさかのぼれば、星や銀河などの構造が形成されるうえで欠かせなかった、まさに「創造神」と呼ぶにふさわしい存在がありました。それがダークマターです。名前は似ていますが、両者のはたらきはまったくの逆です。ダークマターは過去に宇宙を創造し、ダークエネルギーは未来の宇宙を破壊するのです。

正体不明なところはダークエネルギーと同じに思えますが、前に述べたようにまったくの未知ではないので「不審者」というイメージです。たとえば、光と相互作用をしないので可視光では見えないこと、重力のみが作用することがわかっていて、元素表に名前が載っているバリオンとは異なる何か未知の粒子であろうと予想されています。

ただし「光と反応しない」というのがどの程度までなのかは、正確にはわかっていません。ひょっとすると、電荷が非常に小さい「マイクロチャージ」であるために相互作用しにくいだけである可能性もあります。もしこのモデルで説明できれば、これまでの粒子の拡張ということになりますので、だいぶ親しみが湧いてきます。しかし、その場合は電荷の大きさが電子の0・01%以下という極微でなくてはならず、いまの地球の素粒子物理学では電子が電荷の最小単位とされていますので、残念ながらやはり、不審者であることに変わりありません。

いずれにしても、バリオンの物理をすっかり理解した文明なら、ダークマターは遅かれ早かれ気になってくるはずです。しかも宇宙の内訳でいえば約26%と、バリオンの5倍以上もあるのですから、どの宇宙人も必ず正体解明に乗りだしているでしょう。

「銀河ガチャ」を回そう

「わかりやすくて、面白かったですね」

シアターの出口に向かって歩きながら、地球メンバーの一人の生命科学者が言うと、

「いやあ、ちょっと物足りなかったなあ。ダークマターの正体にも少しはふれてほしかった」

とポーキング博士は不満そうです。眠くなったのはそのせいだったようです。

「まあ、コードがあるから難しいんでしょうけど」

コードというのは、ステーションから発信する情報に加えられる制限のことで、会員となっているすべての惑星が共有できている知見しか発信できないことになっているのです。だからプラネタリウムでも、ダークマターの正体について来場者が知らないことを教えるようなことはできないわけです。いまの作品が易しめだったのは、地球人に合わせたからと思われます。

ふとあなたは出口の横に、何かとても懐かしさを感じるものが置かれているのに気づきます。何だったっけ、これ? ようやく思い出したあなたは、思わず叫びました。

「ガチャガチャだ! どうしてこんなところに?」

日本在住の読者の多くは、ガチャガチャをご存じかと思います。お金を入れてレバーをひねるとプラスチックのカプセルが出てきて、中にフィギュアなどのおもちゃが入っている、あれです。昭和のころからありましたが、その後、人気が再燃して、海外のファンも増えているという話は聞いていました。しかし、まさか宇宙でお目にかかれるとは! 音声説明が聞けるボタンを押すとこんなアナウンスが流れてきました。

〈ようこそ地球のみなさん。プラネタリウムはお楽しみいただけましたか。これはステーション特製の「銀河ガチャ」です。ぜひみなさん、レバーをひねってみてください〉

新参者の地球人をもてなしてくれているようですが、どうやってガチャガチャのことを知ったのか、そのリサーチ能力にはおそろしいものがあります。あなたがまずレバーをひねると、ころん、とカプセルが1個出てきました。よくあるものとは違って、真っ黒です。

ともかく全員が銀河ガチャをブースまで持ち帰り、あなたが最初に開けることになりました。みんな興味津々で見つめるなか、カプセルを両手で持ってひねると、パカッと分かれて、中身が現れました。それは拍子抜けするほど小さく、目玉焼きのような形をしていました。一緒に、地球語でこんな解説が書かれた紙も入っていました。

〈この小さな目玉焼きはみなさんの天の川銀河です。中心の黄身は巨大なブラックホールとバルジ、そのまわりの白身は銀河ディスクです。みなさんの太陽系は、白身の真ん中あたりにあります。銀河は指で弾くと回りますので、遊んでみてください〉

目玉焼き銀河は不思議なことにカプセルの中で浮かんでいて、たしかに弾くとくるくると回ります。解説には続きがあって、どうやら銀河ガチャはカプセル自体にも意味があるようです。

〈黒いカプセルは、ダークマターで固められた『ダークハロー』と呼ばれる真っ黒な球体です。天の川銀河では、ダークハローの半径は約30万光年といわれています。銀河の半径は約5万光年ですから、その約6倍も離れたところをダークハローが囲んでいるのです。そして銀河の星たちはダークハローに引き留められているので、回転しても飛び出していかないと考えられています。

なお、中心のブラックホールの質量は太陽の約400万倍です。銀河全体の質量は、この銀河ガチャ全体の重さに相当します。そのおよそ9割は目にえないダークマターの質量です。宇宙全体では、ダークマターの質量の割合(約26%)はバリオンの質量の割合(約5%)の約5倍ですが、銀河内ではもっと差が大きくなり、天の川銀河の場合、ダークマターの質量はすべての星(バリオン)の合計質量の10倍以上にもなるといわれています。いかがでしょう。見えないダークマターについて、よりイメージできるようになりましたか?〉

ポーキング博士は「どうもやさしい説明ばかりだな。地球人は少しなめられているのかな」などと言いながら、熱心に銀河をくるくる回しています。

「でも私の国のように学校でダークマターを教えないところもあるから、しかたないのかも」

あなたと一緒に日本から来た言語学者がそう返すと「そうなんですか!」と驚いています。

ここで私からも、ぜひ学校でもきちんと教えてほしいダークマターの話をしたいと思います。

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