「苦しくなったら売ればいい」は危険? 高級タワマン市場に忍び寄る金利上昇と在庫増…値上がり前提で買った層を待つ“三重苦”

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金利上昇が、都心の高級タワマン市場に影を落とし始めている。住宅ローンの返済負担が増す一方、一部エリアでは中古在庫が積み上がり、価格調整の兆しも見える。値上がりを見込んで購入した層にとっては、「いざとなれば売ればいい」という出口戦略が崩れる可能性もある。

【画像】大浴場付きもある都内屈指のタワマン群

投資家の出口戦略もあって積み上がる中古マンションの在庫

9月から三菱UFJ銀行と三井住友銀行が、住宅ローンの変動金利を引き上げた。変動金利は日本銀行の政策金利の影響を受けやすい。日銀は今年6月に政策金利を引き上げたが、9月に追加利上げの観測がくすぶっている。

つまり、住宅ローンの変動金利上昇がさらに広がる可能性があるわけだ。

固定金利は10年もの国債の利回り(長期金利)に強く影響されるが、この長期金利は30年ぶりに3%に達した。従って、基本的には変動金利から固定金利に乗り換えても簡単に負担は軽減できない。

1億円の住宅を頭金1000万円、借入額9000万円の35年ローンで購入すると仮定する。元利均等返済・ボーナス返済なしで、当初から金利1%で借りた場合と2%で借りた場合を比較すると、月々の返済額には約4万4000円、年間では約53万円の差が生じる。

金利上昇局面においては、住宅ローンや不動産投資ローンの返済負担が増すことに目が向きがちだが、見逃せないのは家賃収入や値上がりを期待してタワマンを購入していた投資家への影響だ。投資効率が悪化すれば売却を検討する所有者が増える。最終的には、中古市場の需給を緩める要因になり得るのだ。

マンションリサーチ株式会社は、東京の湾岸エリアにおける平均売出価格8000万円以上の高価格帯マンションの在庫推移を調査している。それによると、2025年1月に1050件だった在庫数は2026年4月に1500件まで積み上がっている。わずか1年強で約1.4倍に膨らんだのだ。

価格上昇局面では、転売による売却益を狙った住み替えや短期売買でも成約しやすい環境にあったものの、現在はその回転速度が明らかに鈍化しているという。

マンションリサーチの別の調査では、千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区の都心5区で、「値下げ率」と「販売日数」が2024年1月以降、2026年8月にどちらも最高水準に達したことを明らかにしている。つまり、中古マンションの値下げをしても成約までに時間がかかる傾向が強まっているのだ。

2024年は湾岸タワーマンションを中心に価格が高騰した時期だ。その時にタワマンを購入した人は、「住宅ローンの返済負担増」「売りたくても売れない」「想定していたよりも安い」という三重苦に苛まれる可能性がある。

リセールバリューに注目が集まった都心の高級マンション

マンション価格の高騰は、消費者に従来とは異なる変化をもたらした。保有する物件の資産性に注目するようになったのだ。

過去5年以内にタワマンを売却した人を対象とした、2024年のLIFULL HOME'S「タワマン売却に関する意識調査」において、タワマンを自宅用として購入し、売却した人に購入時の考えを尋ねたところ、「いずれ売却しようと思っていた」との回答が45.9%に上っている。永住目的の割合よりも多いのだ。

また、「売却したタワーマンションに住んでいて良かった点」で、資産価値が高いとの回答は54.0%で1位になっている。

かつて都心のタワマンは駅から近いことや眺望、高級感などの住む価値の高さが選ぶ基準の多くを占めていた。しかし、価格上昇が続く中で売りやすい・値崩れしにくいなどの「資産性」も購入を検討する重要な要素になったのだ。

近年は共働きで世帯年収が高いパワーカップルが台頭。1億円を超えるようなタワマン購入の一角を担うようになった。高い資産性を期待できるマンションであれば、子育てや親の介護などライフステージが変化した際に売却して住み替えるという選択肢も取りやすい。

しかし、「金利ある世界」の到来により、状況は一変してしまった。特に価格高騰時に変動金利で借入額を大きく膨らませた、家計の余力が小さい世帯ほど影響を受けやすい。

マンション価格が大きく下落し、売却価格が住宅ローン残高を下回れば、売却してもローンを完済できないオーバーローンに陥る可能性があるからだ。自己資金を投入して売らなければならないという事態も見えてくる。

高級タワマンに住みながら生活費を切り詰める悲哀

住宅ローンの返済負担が重くなれば、たとえ子育てに追われるようになったとしても仕事を辞めるという選択肢が消える。さらに、外食や旅行などの家族イベントや将来に向けた貯蓄・投資を抑える必要が出てくるだろう。

もちろん、金利が1%から2%になっただけで直ちに返済不能になるわけではない。しかし、年間約50万円の負担増を吸収するため、生活費を切り詰めざるを得ない世帯は出てくるだろう。

問題なのは、低金利とマンション価格の上昇が続くことを前提に、家計の余力をほとんど残さず多額の住宅ローンを組んだ世帯だ。金利が上がれば返済負担が増し、売却しようにも中古市場の流動性が低下する。価格が下がればローン残高を下回る可能性まで出てくる。

「苦しくなったら売ればいい」という逃げ道が機能しなくなることこそ、金利ある世界で高額な住宅ローンを抱える最大のリスクなのかもしれない。

取材・文/不破聡 写真/shutterstock